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第一章
母の願い《アイリス side》①
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「全員逃げて……!」
必死の形相でこちらを振り返り、母はこちらへ駆けてきた。
その瞬間、ジュードが唇の両端を吊り上げる。
「ははっ!無駄だっつーの!アナスタシアなら、分かっているだろ!この俺が────ガキ共を閉じ込める結界を一枚しか用意していない、と思うか!?」
「「「!?」」」
言葉の意味をいち早く理解し、私達は慌てて周囲を見回した。
が、透明な結界を見分けられる訳もなく……適当な装飾品や石ころを投げる。
すると、直ぐ何かにぶつかり、地面へ落ちた。
「やられた……!あれほどの強度の結界なら、一枚しかないと思っていた……!」
『これは完全に僕の計算ミスだ……!』と歯軋りし、ヴィンセント様はジュードとの距離を詰める。
何かされる前に仕留めるつもりなのだろう。
でも────
「────もう遅い……!ここに居る奴ら、全員死ぬんだよ!」
そう言うが早いか、ジュードは大きく息を吸い込んだ。
「インフェルノ……!」
『ファイアブレス』より強力な魔法を展開し、ジュードはケラケラと笑う。
魔力の調整に必要な手を失った状態で、無理やり魔法を使えばどうなるか……彼も分かっている筈なのに。
『文字通り、皆殺しにするつもりなんだ』と確信する中、ジュードの体は発火し────弾け飛んだ。
かと思えば、一気に黒い炎が吹き出す。
「アイリス……!」
迫り来る黒い炎を前に、母は私を突き飛ばす形で上に覆い被さった。
その瞬間、ここまで火の手が……。
結界内を満たす黒い炎は、そのまま私達の身を焦がした。
「……あの子、咄嗟に水の膜を張ってくれたようね……」
『上出来だわ』とでも言うように笑みを零し、母はこちらを見下ろす。
「アイリス、貴方も神聖力を持っていると聞いたわ。結界を張れるかしら?」
「えっ?でも、水の膜が……」
「残念だけど、これはあまり長く持たないわ。ほら、どんどん蒸発しているでしょう?」
視線だけ横に動かして、母は湯気立つ膜を見つめた。
『持って、一・二分ね』と零す彼女を前に、私は慌てて神聖力を行使する。
結界を張るのは初めてだが、何とか出来た。
お姉様にやり方を学んでおいて、良かったわ。
水の膜の内側に出来た結界を前に、私はホッと息を吐き出す。
と同時に、水の膜は全て蒸発した。
『あと一歩遅かったら……』と息を呑む私の前で、母は少しばかり体勢を崩す。
「恐らく、あと五分くらいで外の結界は解かれるわ。最後にありったけの神聖力を放ったとはいえ、術者が死亡した以上そう長くは維持出来ないだろうから。そうなれば、炎は拡散され勢いも緩やかになる筈。そのうちに脱出しなさい」
『結界で足場を作れば、何とかなる筈よ』と言い、母は狭い空間の中で起き上がった。
身を捩って隅に寄る彼女を前に、私は愕然とする。
だって、母の背中が────滅茶苦茶になっていたから。
必死の形相でこちらを振り返り、母はこちらへ駆けてきた。
その瞬間、ジュードが唇の両端を吊り上げる。
「ははっ!無駄だっつーの!アナスタシアなら、分かっているだろ!この俺が────ガキ共を閉じ込める結界を一枚しか用意していない、と思うか!?」
「「「!?」」」
言葉の意味をいち早く理解し、私達は慌てて周囲を見回した。
が、透明な結界を見分けられる訳もなく……適当な装飾品や石ころを投げる。
すると、直ぐ何かにぶつかり、地面へ落ちた。
「やられた……!あれほどの強度の結界なら、一枚しかないと思っていた……!」
『これは完全に僕の計算ミスだ……!』と歯軋りし、ヴィンセント様はジュードとの距離を詰める。
何かされる前に仕留めるつもりなのだろう。
でも────
「────もう遅い……!ここに居る奴ら、全員死ぬんだよ!」
そう言うが早いか、ジュードは大きく息を吸い込んだ。
「インフェルノ……!」
『ファイアブレス』より強力な魔法を展開し、ジュードはケラケラと笑う。
魔力の調整に必要な手を失った状態で、無理やり魔法を使えばどうなるか……彼も分かっている筈なのに。
『文字通り、皆殺しにするつもりなんだ』と確信する中、ジュードの体は発火し────弾け飛んだ。
かと思えば、一気に黒い炎が吹き出す。
「アイリス……!」
迫り来る黒い炎を前に、母は私を突き飛ばす形で上に覆い被さった。
その瞬間、ここまで火の手が……。
結界内を満たす黒い炎は、そのまま私達の身を焦がした。
「……あの子、咄嗟に水の膜を張ってくれたようね……」
『上出来だわ』とでも言うように笑みを零し、母はこちらを見下ろす。
「アイリス、貴方も神聖力を持っていると聞いたわ。結界を張れるかしら?」
「えっ?でも、水の膜が……」
「残念だけど、これはあまり長く持たないわ。ほら、どんどん蒸発しているでしょう?」
視線だけ横に動かして、母は湯気立つ膜を見つめた。
『持って、一・二分ね』と零す彼女を前に、私は慌てて神聖力を行使する。
結界を張るのは初めてだが、何とか出来た。
お姉様にやり方を学んでおいて、良かったわ。
水の膜の内側に出来た結界を前に、私はホッと息を吐き出す。
と同時に、水の膜は全て蒸発した。
『あと一歩遅かったら……』と息を呑む私の前で、母は少しばかり体勢を崩す。
「恐らく、あと五分くらいで外の結界は解かれるわ。最後にありったけの神聖力を放ったとはいえ、術者が死亡した以上そう長くは維持出来ないだろうから。そうなれば、炎は拡散され勢いも緩やかになる筈。そのうちに脱出しなさい」
『結界で足場を作れば、何とかなる筈よ』と言い、母は狭い空間の中で起き上がった。
身を捩って隅に寄る彼女を前に、私は愕然とする。
だって、母の背中が────滅茶苦茶になっていたから。
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