私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

母の願い《アイリス side》②

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 恐らく、黒い炎によるものだと思われるが……骨や内臓を晒している状態だ。
『焼け爛れている』なんて生温い表現ではなく、抉れている……または、溶けているといった具合。
医学知識に疎い私でも、かなりの重傷であることは見て取れた。

 な、何で……?水の膜で守られたんじゃ……?
あっ、もしかして……黒い炎で沸騰した水の膜に、触れてしまった?
もしくは熱気だけでこうなったとか……?
あと、考えられるのは水の膜を張る寸前に黒い炎と接触してしまったことくらいだけど……でも、たった一瞬でこんなことになる?

 炎の恐ろしさを痛感しながら、私は震え上がる。
と同時に、ハッとした。
『そうだ、治せばいいんだ!』と思い至って。

「お、お母様……!背中の傷を見せてください!私の神聖力では完治出来ないかもしれませんが、応急処置くらいなら……!」

「ダメよ」

 キッパリとした口調で拒絶し、母はこちらを見据えた。
エメラルドの瞳に強い意志と覚悟を宿し、そっと私の頬を撫でる。

「アイリスも分かっているでしょうけど、貴方の神聖力はそこまで多くない。この結界の維持と脱出ルートの足場作りで、底が尽きると思う。私の治療なんて、している余裕ないわ」

「で、でも……」

 そう簡単に『はい、そうですか』と納得出来る訳もなく、私は食い下がった。
だって────このままだと、母は確実に命を落とすから。
平気そうに振る舞ってはいるものの……額に滲む脂汗や震える手足、微かに乱れた呼吸を見ただけで限界なのは分かる。
それに何より────母は私に『脱出しなさい』と言った。『一緒に脱出しましょう』ではなく……。

 お母様はきっと、ここで死ぬつもりなんだわ……。

「いい?アイリス。よく聞いて」

 優しく……でも強く私の肩を掴み、母は柔和に微笑んだ。
己の死期が近いことを、誰よりもよく分かっている筈なのに。
恐怖や不安なんて、一切見せなかった。

「貧民街の一番奥……郊外に近い場所の木の根元に、手紙を埋めてあるわ。そこに私の知っていることを全てしるしてある。だから、信頼出来る人達を連れて探しに行きなさい。くれぐれも、一人で行っちゃダメよ」

 『危険だから』と言い聞かせ、母はじっと私の目を見つめる。
エメラルドの瞳に涙を浮かべながら。

「アイリス……こんなことになって、ごめんね。貴方だけは私の事情に巻き込みたくなかったのに……結局、色んなものを背負わせる結果となってしまった」
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