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第一章
母の願い《アイリス side》③
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「アイリス……こんなことになって、ごめんね。貴方だけは私の事情に巻き込みたくなかったのに……結局、色んなものを背負わせる結果となってしまった」
申し訳なさそうに眉尻を下げ、母はコツンと額同士を合わせた。
かと思えば、一筋の涙を零す。
「本当は何も知らないままで居てほしかった。ただ普通の子供みたいに笑って……幸せになってほしかった。そして、出来ればその様子を傍でずっと見守りたかった」
これでもかというほど後悔の念を吐き出し、母はクシャリと顔を歪めた。
かと思えば、うんと目を細める。
「薄汚れた私にとって、アイリスは奇跡みたいな存在なの……私を人間に戻してくれた、唯一の希望」
『貴方が居たから、ここまで来れた』と語り、母はキツく私を抱き締めた。
久々に感じる母の温もりに目を見開く中、彼女は掠れた声で言葉を紡ぐ。
「私が母親でごめんなさい。でも、生まれてきてくれてありがとう。心の底から、愛している」
「お母様……」
もはや疑う余地さえない母の愛情に、私は唇を引き結んだ。
少しでも気を抜いたら、泣いてしまいそうで。
「アイリス、私からの最期のお願いよ────生きて、幸せになって」
どこか縋るような声色でそう言い、母はそっと体を離した。
と同時に、私を無理やり膝立ち状態にさせる。
「さあ、行って。もう外の結界は解かれている筈よ」
先程より勢いの弱まった黒い炎を一瞥し、母は『早く』と急かした。
が、実の親を見殺しするような真似など出来る筈もなく……私は渋る。
「お母様も一緒に……」
「いいえ、私はここに残るわ。正直、もう……動けないから」
「それなら、私が背負っていきます」
「ダメよ。ただでさえ、炎の中は危険なのにお荷物を増やしてどうするの」
『冷静に考えなさい』と告げ、母は厳しい顔つきになった。
かと思えば、優しく私の頭を撫でる。
「どの道、私は助からない」
「そんなのまだ分からな……」
「アイリス、これは貴方一人だけの問題じゃないのよ」
真剣味を帯びた瞳でこちらを見据え、母は
「貴方はエーデル公爵家の当主で……真相解明のために重要な情報を握っている。万が一にも死んではいけない。もう貴方だけの命じゃないの」
と、諭してきた。
グッと言葉に詰まる私を前に、彼女はふわりと柔らかく微笑む。
「だから、皆のために……何よりも私のために生きてちょうだい」
『母のワガママを聞いてほしい』と懇願してくる彼女に、私はもう何も言えなくなった。
これほど切実に願われたら……乞われたら、叶えるしかない。
だって、恐らくこれが────最初で最後の母のワガママだから。
「分かり、ました……」
震える声で絞り出すように了承すると、母は心底嬉しそうに笑う。
「ありがとう」
申し訳なさそうに眉尻を下げ、母はコツンと額同士を合わせた。
かと思えば、一筋の涙を零す。
「本当は何も知らないままで居てほしかった。ただ普通の子供みたいに笑って……幸せになってほしかった。そして、出来ればその様子を傍でずっと見守りたかった」
これでもかというほど後悔の念を吐き出し、母はクシャリと顔を歪めた。
かと思えば、うんと目を細める。
「薄汚れた私にとって、アイリスは奇跡みたいな存在なの……私を人間に戻してくれた、唯一の希望」
『貴方が居たから、ここまで来れた』と語り、母はキツく私を抱き締めた。
久々に感じる母の温もりに目を見開く中、彼女は掠れた声で言葉を紡ぐ。
「私が母親でごめんなさい。でも、生まれてきてくれてありがとう。心の底から、愛している」
「お母様……」
もはや疑う余地さえない母の愛情に、私は唇を引き結んだ。
少しでも気を抜いたら、泣いてしまいそうで。
「アイリス、私からの最期のお願いよ────生きて、幸せになって」
どこか縋るような声色でそう言い、母はそっと体を離した。
と同時に、私を無理やり膝立ち状態にさせる。
「さあ、行って。もう外の結界は解かれている筈よ」
先程より勢いの弱まった黒い炎を一瞥し、母は『早く』と急かした。
が、実の親を見殺しするような真似など出来る筈もなく……私は渋る。
「お母様も一緒に……」
「いいえ、私はここに残るわ。正直、もう……動けないから」
「それなら、私が背負っていきます」
「ダメよ。ただでさえ、炎の中は危険なのにお荷物を増やしてどうするの」
『冷静に考えなさい』と告げ、母は厳しい顔つきになった。
かと思えば、優しく私の頭を撫でる。
「どの道、私は助からない」
「そんなのまだ分からな……」
「アイリス、これは貴方一人だけの問題じゃないのよ」
真剣味を帯びた瞳でこちらを見据え、母は
「貴方はエーデル公爵家の当主で……真相解明のために重要な情報を握っている。万が一にも死んではいけない。もう貴方だけの命じゃないの」
と、諭してきた。
グッと言葉に詰まる私を前に、彼女はふわりと柔らかく微笑む。
「だから、皆のために……何よりも私のために生きてちょうだい」
『母のワガママを聞いてほしい』と懇願してくる彼女に、私はもう何も言えなくなった。
これほど切実に願われたら……乞われたら、叶えるしかない。
だって、恐らくこれが────最初で最後の母のワガママだから。
「分かり、ました……」
震える声で絞り出すように了承すると、母は心底嬉しそうに笑う。
「ありがとう」
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