私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

母の願い《アイリス side》④

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「ありがとう」

 お礼を言うのはどちらかと言うと、私の方なのに……母はまるで窮地を救われた民のように幸せそうだ。
『さあ、お行きなさい』と促す彼女の前で、私は守ってもらった手足に力を入れる。
五体満足で居られるのは母のおかげなんだ、と実感しながら。

「お母様、最後に一ついいですか?」

「何?」

 不思議そうに首を傾げる母に対し、私はスッと目を細める。
と同時に、彼女の手を握った。

「私の母になってくれて、ありがとうございました。お母様がお母様で本当に良かった」

「!!」

「私は間違いなく、世界で一番幸せな子供です」

 自信を持ってそう宣言し、私は名残惜しく思いながらもそっと手を離した。
と同時に、数十メートル間隔で結界を張り、足場を作る。
あとはこの結界を解いて、飛び立つだけ……このままだと、外に出れないから。

 ……早く覚悟を決めなさい、アイリス・レーナ・エーデル。

 『いつまで躊躇っているの』と己を叱咤する中、不意に目の前が暗くなる。

「行きなさい、アイリス。結界を解いたら、もう振り返っちゃダメよ。前だけ見て」

 そう言うが早いか、母は私の顔を無理やり押し上げ、目元に当てた手を下ろした。
視界はもう明るいのに、角度のせいか母の姿は見えない。
でも、傍に居るのはちゃんと分かった。

 たとえ、姿形が無くなってもお母様ならきっと傍に居てくれる。
この温もりはずっと消えない。

 ────そう信じて、私は一思いに結界を解除した。
と同時に、設置しておいた足場へ飛び乗る。
母の指示通り、前だけ見て……決して、後ろを振り返らなかった。
きっと見てしまったら……私は立ち止まるから。

 皆のために……何よりもお母様のために生きなきゃ。

 『迷うな』と自分の背中を押し、私は前へ前へと進んだ。
新たな足場を作りながら、炎の上を通過すること数分……ようやく、燃えていない地面が見える。
『良かった』と胸を撫で下ろす私は、何とかそこまで辿り着き後ろを振り返った。
が、炎や煙のせいで中の様子は全く見えない。

「お母様、ルパート殿下、ヴィンセント様……」

 燃え広がっていく黒い炎を前にジリジリ後退しつつ、私はそっと眉尻を下げた。
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