92 / 208
第一章
走馬灯《アナスタシア side》①
しおりを挟む
◇◆◇◆
これでいい……これでいい。
アイリスの走っていった方向を眺め、私はそっと目を伏せる。
娘の無事を心の底から祈りながら、満足気に微笑んだ。
『生きる』ということが目的だった自分の人生で、これほど意味のある死はないだろう。
実にいい最期だ。
黒い炎に身を焼かれていく痛みに耐えつつ、私は走馬灯のようなものを見る。
しかも、ご丁寧に幼少期から。
────数十年前の冬、ちょうど十一月頃に私は生まれたらしい。
というのも、出産後すぐに神殿の前へ捨てられていたから。
なので、正確な日付けは分からないのだ。
まあ、分かったからと言って何の得もないが。
神殿に保護された孤児は、ひたすら毎日働くだけのため。
誕生日を祝う習慣などなかった。
別にいいけどね。パンとスープだけと言えど、毎日しっかり三食与えられているし、温かい部屋で寝かせてもらっている。
どこぞで野垂れ死にするより、ずっといい。
「高望みはしない。私の目標はただ一つ、そこそこいい暮らしをしてそこそこ幸せになること。それだけよ」
────と、決心したのも束の間……私は小川で洗い物をしている最中、妙なものを発見した。
ただの棒切れというには豪華で美しいソレを前に、首を傾げる。
『とりあえず、神官に報告するか』と思い立ち、届けると────神殿内は大騒ぎになった。
が、直ぐに収まる。
結局、あれは何だったの……?家宝がどうとか、公爵家がどうとか言っていたけど。
まさか、お宝?
『なら、売れば良かったかも』と少し後悔しつつ、私は神官長の執務室の前を通り掛かった。
その際────
「発見した少女は確か、孤児だったな……なら、殺しても構わないか」
「はい。情報統制を兼ねて適当に処分しておきましょう。このことが、もし公爵家に知られたら……一巻の終わりですよ」
「そうだな」
────と、小声で話す神官達の声が聞こえた。
思わず立ち止まる私は、執務室の扉を凝視する。
ど、どうする……?逃げる……?でも、どうやって?
子供の私じゃ、直ぐ追いつかれるに決まっている。
目の前が真っ暗になる感覚を覚えながら、私はキュッと唇に力を入れた。
震える指先を握り込み、扉へ向き直る。
「逃げられないなら……交渉するしかない」
無理を承知で大人との取り引きに興じることにした私は、扉をノックした。
そして現れた神官長らに媚びへつらい、己の能力もアピールして……何とか事なきを得る。
と言っても、こんなの序章に過ぎないが。
だって、大変なのはこれからだから。
表向きには私を死んだものとして処理し、神殿の暗部として働くこと、か……。
しかも、しばらくは監視がついて回るなんて……。
「絶対に私を逃がさない気ね」
『はぁ……』と深い溜め息を零し、私は最初に課せられた任務をこなす。
『初っ端から、暗殺って……』と思いつつ、子供相手に油断したと思われるターゲットの首を掻き切った。
ブシャッと吹き出す真っ赤な血を浴びながら、私は少しぼんやりする。
元々どこか壊れていたのか、初めての殺人にも一切動じなかった。
「生に執着するだけの化け物だな、私は」
これでいい……これでいい。
アイリスの走っていった方向を眺め、私はそっと目を伏せる。
娘の無事を心の底から祈りながら、満足気に微笑んだ。
『生きる』ということが目的だった自分の人生で、これほど意味のある死はないだろう。
実にいい最期だ。
黒い炎に身を焼かれていく痛みに耐えつつ、私は走馬灯のようなものを見る。
しかも、ご丁寧に幼少期から。
────数十年前の冬、ちょうど十一月頃に私は生まれたらしい。
というのも、出産後すぐに神殿の前へ捨てられていたから。
なので、正確な日付けは分からないのだ。
まあ、分かったからと言って何の得もないが。
神殿に保護された孤児は、ひたすら毎日働くだけのため。
誕生日を祝う習慣などなかった。
別にいいけどね。パンとスープだけと言えど、毎日しっかり三食与えられているし、温かい部屋で寝かせてもらっている。
どこぞで野垂れ死にするより、ずっといい。
「高望みはしない。私の目標はただ一つ、そこそこいい暮らしをしてそこそこ幸せになること。それだけよ」
────と、決心したのも束の間……私は小川で洗い物をしている最中、妙なものを発見した。
ただの棒切れというには豪華で美しいソレを前に、首を傾げる。
『とりあえず、神官に報告するか』と思い立ち、届けると────神殿内は大騒ぎになった。
が、直ぐに収まる。
結局、あれは何だったの……?家宝がどうとか、公爵家がどうとか言っていたけど。
まさか、お宝?
『なら、売れば良かったかも』と少し後悔しつつ、私は神官長の執務室の前を通り掛かった。
その際────
「発見した少女は確か、孤児だったな……なら、殺しても構わないか」
「はい。情報統制を兼ねて適当に処分しておきましょう。このことが、もし公爵家に知られたら……一巻の終わりですよ」
「そうだな」
────と、小声で話す神官達の声が聞こえた。
思わず立ち止まる私は、執務室の扉を凝視する。
ど、どうする……?逃げる……?でも、どうやって?
子供の私じゃ、直ぐ追いつかれるに決まっている。
目の前が真っ暗になる感覚を覚えながら、私はキュッと唇に力を入れた。
震える指先を握り込み、扉へ向き直る。
「逃げられないなら……交渉するしかない」
無理を承知で大人との取り引きに興じることにした私は、扉をノックした。
そして現れた神官長らに媚びへつらい、己の能力もアピールして……何とか事なきを得る。
と言っても、こんなの序章に過ぎないが。
だって、大変なのはこれからだから。
表向きには私を死んだものとして処理し、神殿の暗部として働くこと、か……。
しかも、しばらくは監視がついて回るなんて……。
「絶対に私を逃がさない気ね」
『はぁ……』と深い溜め息を零し、私は最初に課せられた任務をこなす。
『初っ端から、暗殺って……』と思いつつ、子供相手に油断したと思われるターゲットの首を掻き切った。
ブシャッと吹き出す真っ赤な血を浴びながら、私は少しぼんやりする。
元々どこか壊れていたのか、初めての殺人にも一切動じなかった。
「生に執着するだけの化け物だな、私は」
71
あなたにおすすめの小説
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる