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第一章
走馬灯《アナスタシア side》②
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「生に執着するだけの化け物だな、私は」
自嘲気味に吐き捨てたその言葉は、実に的を射ていて────それから十数年、私はただ死なないために悪事を働いてきた。
どんな汚れ仕事も、屈辱も、痛みも甘んじて受け入れ……神殿の暗部としての人生を歩む。
特に不満などはなかったが……ひたすら、虚しかった。
────私は何で生きているんだろう?
そんな疑問が何度も脳裏を過ぎる中、私は神殿の上層部に呼び出される。
そこで、告げられたのは
「アナスタシア、君にはこれからローガン・アンディ・エーデルに近づいてもらう」
という、新たな任務の内容だった。
『またしても色仕掛けか』と落胆しつつ、私は必要な情報だけ貰って任務へ取り掛かる。
今回は長期になるとのことだったので、気合いを入れて臨んだが……ローガンの陥落は早かった。
しかも、ラッキーなことに住居など諸々手配してくれたため、少しの間神殿と距離を置くことに成功。
まあ、定期的に訪問してくるので逃亡は難しいが。
それでも、こうして羽を伸ばして過ごせるのは実に十数年ぶりだった。
『お貴族さまさまね』と思いつつ、私はしばらくローガンの愛人を演じ続ける。
そんな時────妊娠が発覚した。
最近、なんだか体の調子が悪いと思ったら……。
「どうしよう?堕胎薬は準備に時間か掛かるって、言うし……」
『任務遂行に支障が……』と悩み、私は口元を押さえる。
何とも言えない倦怠感と吐き気に耐えながら、蹲った。
妊娠したと知ったら、ローガンはもう会ってくれないかもしれない……相続や後継などの問題で、愛人との子供を疎む貴族は多いから。
厄介事を嫌って捨てられでもしたら、神殿の上層部になんと言われるか……。
いや、ただ文句を言われるだけならまだいい……最悪なのは、役立たずの烙印を押されて処分されること。
「とにかく、妊娠のことは隠し通してさっさと堕胎しないと」
『私の命が懸かっている』と決心し、ローガンの訪問や神官の監視を何とかやり過ごした。
誰にもバレないよう細心の注意を払う中、ようやく堕胎薬が届けられる。
「これでやっと解放される」
ホッと息を吐き出して瓶の蓋に手を掛けると────トクンッと、私のものじゃない小さな鼓動が聞こえた……ような気がした。
「き、気のせい……気のせいだから」
半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、私は蓋を開ける。
すると、また小さな鼓動がお腹から伝わってくる。
その瞬間────私は考えるよりも先に、堕胎薬を投げ捨てていた。
パリンッと音を立てて割れるソレを前に、私はお腹を抱え込む。
「そう、よね……生きたい、わよね……うん……」
我が子の意志を……願いを感じ取り、私は大粒の涙を流した。
自分でもよく分からないが、色んな感情が一気に溢れてきて……十数年ぶりに声を上げて、わんわん泣く。
「わ、たしも……私も貴方を産みたい……産みたいよ……」
自嘲気味に吐き捨てたその言葉は、実に的を射ていて────それから十数年、私はただ死なないために悪事を働いてきた。
どんな汚れ仕事も、屈辱も、痛みも甘んじて受け入れ……神殿の暗部としての人生を歩む。
特に不満などはなかったが……ひたすら、虚しかった。
────私は何で生きているんだろう?
そんな疑問が何度も脳裏を過ぎる中、私は神殿の上層部に呼び出される。
そこで、告げられたのは
「アナスタシア、君にはこれからローガン・アンディ・エーデルに近づいてもらう」
という、新たな任務の内容だった。
『またしても色仕掛けか』と落胆しつつ、私は必要な情報だけ貰って任務へ取り掛かる。
今回は長期になるとのことだったので、気合いを入れて臨んだが……ローガンの陥落は早かった。
しかも、ラッキーなことに住居など諸々手配してくれたため、少しの間神殿と距離を置くことに成功。
まあ、定期的に訪問してくるので逃亡は難しいが。
それでも、こうして羽を伸ばして過ごせるのは実に十数年ぶりだった。
『お貴族さまさまね』と思いつつ、私はしばらくローガンの愛人を演じ続ける。
そんな時────妊娠が発覚した。
最近、なんだか体の調子が悪いと思ったら……。
「どうしよう?堕胎薬は準備に時間か掛かるって、言うし……」
『任務遂行に支障が……』と悩み、私は口元を押さえる。
何とも言えない倦怠感と吐き気に耐えながら、蹲った。
妊娠したと知ったら、ローガンはもう会ってくれないかもしれない……相続や後継などの問題で、愛人との子供を疎む貴族は多いから。
厄介事を嫌って捨てられでもしたら、神殿の上層部になんと言われるか……。
いや、ただ文句を言われるだけならまだいい……最悪なのは、役立たずの烙印を押されて処分されること。
「とにかく、妊娠のことは隠し通してさっさと堕胎しないと」
『私の命が懸かっている』と決心し、ローガンの訪問や神官の監視を何とかやり過ごした。
誰にもバレないよう細心の注意を払う中、ようやく堕胎薬が届けられる。
「これでやっと解放される」
ホッと息を吐き出して瓶の蓋に手を掛けると────トクンッと、私のものじゃない小さな鼓動が聞こえた……ような気がした。
「き、気のせい……気のせいだから」
半ば自分に言い聞かせるようにして呟き、私は蓋を開ける。
すると、また小さな鼓動がお腹から伝わってくる。
その瞬間────私は考えるよりも先に、堕胎薬を投げ捨てていた。
パリンッと音を立てて割れるソレを前に、私はお腹を抱え込む。
「そう、よね……生きたい、わよね……うん……」
我が子の意志を……願いを感じ取り、私は大粒の涙を流した。
自分でもよく分からないが、色んな感情が一気に溢れてきて……十数年ぶりに声を上げて、わんわん泣く。
「わ、たしも……私も貴方を産みたい……産みたいよ……」
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