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第二章
均衡を司りし杖で願ったこと③
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黄金の瞳に確信を滲ませ、嘆息するヴィンセントはおもむろに普通の剣を構えた。
「“均衡を司りし杖”の効果が天井へ向かっている時点で、嫌な予感はしていましたが……まさか、こんなことになるとは」
「ど、どういうこと?」
思わず口を挟む私に対し、ヴィンセントは神妙な面持ちでこう言う。
「つまりね、前公爵が最後の力を振り絞って“均衡を司りし杖”に願ったのは────転移じゃなくて、僕達への攻撃なんだよ」
「!?」
ハッと大きく息を呑み、私は床に倒れている父を見下ろした。
まさか、“均衡を司りし杖”をそんな風に使ってくるとは思ってなかったため。
『しかも、あれだけの魔力を消費して……』と驚愕していると、ヴィンセントが前髪を掻き上げる。
「多分、成功確率の低い転移を万全じゃない状態で行うより、自爆して僕達に一矢報いる方が合理的だと判断したんじゃないかな」
『転移に失敗して、無駄死にだけはしたくなかったのだろう』と主張し、ヴィンセントは肩を竦めた。
その傍らで、祖父はアイリスから剣を借りる。
「いや、仮にそうだとしても……攻撃にシフトしたとしても、“混沌を律する剣”が“均衡を司りし杖”に触れた時点で効果は切れているのではありませんか」
『何故、今になって崩壊が起きているのか』と問いつつ、祖父はチラリと後ろを見た。
出口まで安全に行けるか、と思案するように。
「確かに“均衡を司りし杖”の効果はもう消えていますが、その効果によってもたらされた弊害までは“混沌を律する剣”じゃ打ち消せません」
ヴィンセントは壁にまで広がった亀裂を見やり、スッと目を細める。
「例えば、皇城一階の重量を十倍にするよう“均衡を司りし杖”に願ったとして……その重量を元に戻すことは出来ても、重さによって壊れた床や壁などを直すことは出来ないんです」
『所謂、二次被害は“混沌を律する剣”の対象外なんですよ』と語り、ヴィンセントは慎重に歩を進めた。
移動した際の振動などで崩壊を早めないよう、気をつけながら。
そして、手前側に落ちていた“混沌を律する剣”を拾い上げると、“均衡を司りし杖”にも手を伸ばす。
が、私の頭上に大きな亀裂が入るなり手を引っ込めてこちらへ向かってきた。
かと思えば、大きく割れて落ちてきた瓦礫を通常の剣で切り裂く。
「各自、防御態勢を整えて。恐らく、他の箇所もそろそろ崩れるよ」
「“均衡を司りし杖”の効果が天井へ向かっている時点で、嫌な予感はしていましたが……まさか、こんなことになるとは」
「ど、どういうこと?」
思わず口を挟む私に対し、ヴィンセントは神妙な面持ちでこう言う。
「つまりね、前公爵が最後の力を振り絞って“均衡を司りし杖”に願ったのは────転移じゃなくて、僕達への攻撃なんだよ」
「!?」
ハッと大きく息を呑み、私は床に倒れている父を見下ろした。
まさか、“均衡を司りし杖”をそんな風に使ってくるとは思ってなかったため。
『しかも、あれだけの魔力を消費して……』と驚愕していると、ヴィンセントが前髪を掻き上げる。
「多分、成功確率の低い転移を万全じゃない状態で行うより、自爆して僕達に一矢報いる方が合理的だと判断したんじゃないかな」
『転移に失敗して、無駄死にだけはしたくなかったのだろう』と主張し、ヴィンセントは肩を竦めた。
その傍らで、祖父はアイリスから剣を借りる。
「いや、仮にそうだとしても……攻撃にシフトしたとしても、“混沌を律する剣”が“均衡を司りし杖”に触れた時点で効果は切れているのではありませんか」
『何故、今になって崩壊が起きているのか』と問いつつ、祖父はチラリと後ろを見た。
出口まで安全に行けるか、と思案するように。
「確かに“均衡を司りし杖”の効果はもう消えていますが、その効果によってもたらされた弊害までは“混沌を律する剣”じゃ打ち消せません」
ヴィンセントは壁にまで広がった亀裂を見やり、スッと目を細める。
「例えば、皇城一階の重量を十倍にするよう“均衡を司りし杖”に願ったとして……その重量を元に戻すことは出来ても、重さによって壊れた床や壁などを直すことは出来ないんです」
『所謂、二次被害は“混沌を律する剣”の対象外なんですよ』と語り、ヴィンセントは慎重に歩を進めた。
移動した際の振動などで崩壊を早めないよう、気をつけながら。
そして、手前側に落ちていた“混沌を律する剣”を拾い上げると、“均衡を司りし杖”にも手を伸ばす。
が、私の頭上に大きな亀裂が入るなり手を引っ込めてこちらへ向かってきた。
かと思えば、大きく割れて落ちてきた瓦礫を通常の剣で切り裂く。
「各自、防御態勢を整えて。恐らく、他の箇所もそろそろ崩れるよ」
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