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第二章
結婚式②
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「参ったね。想像していた以上に、綺麗だ」
『つい見惚れてしまった』と述べるヴィンセントに、私はポカンとした。
が、状況を理解するなり頬を紅潮させる。
「ゔぃ、ヴィンセントの方こそ……素敵よ」
「ありがとう。セシリアの隣に立つために、努力した甲斐があったよ」
うんと目を細めて、ヴィンセントは喜びを露わにした。
かと思えば、その場に跪いてこちらを見上げる。
「それじゃあ、月より綺麗な君をエスコートする栄誉を僕にくれるかい?」
こちらに手を差し出し、ヴィンセントは『隣に立たせて』とお願いしてきた。
そんなこと、わざわざ頼まなくてもいいのに。
だって、こちらの答えは決まっているから。
「ええ、喜んで」
迷わずヴィンセントの手を取り、私はニッコリと微笑んだ。
と同時に、彼が立ち上がって優しく手を引く。
『こっちだよ』と導いてくれるヴィンセントを前に、私はチラリと後ろを振り返った。
「皆、また後でね」
控え室に居る使用人達へ一応声を掛けてから、私は歩き出す。
そして、結婚式の会場の前へやってくると、足を止めた。
観音開きの大きな扉を見据え、一度深呼吸する。
一生に一度の結婚式……失敗は許されないわ。
だから、真剣に……でも、楽しくこなしましょう。
『いい思い出にしたい』という願いを抱き、私は真っ直ぐ前を見据えた。
その刹那、扉が開き────起立している招待客達を目にする。
中には、当然アイリスやルパート殿下の姿もあった。
あの二人、最近正式に婚約したのよね。
結婚式の準備も着々と進めていて、来年の春には入籍予定みたい。
そのため、ルパート殿下には親族席を割り当てているの。
『アイリス一人で座らせるのは、可哀想だったし』と思いながら、私はふと貴賓席へ視線を向ける。
すると、エレン殿下を発見した。
最近、皇太子の仕事で忙しいと言っていたのに来てくれたのね。
『相当時間をやりくりしたに違いない』と悟り、私は申し訳ないような……でも、嬉しいような気分になる。
────と、ここで一番奥の祭壇前に居るゲレル神官……いや、教皇聖下が顔を上げた。
「新郎新婦、前へ」
おもむろに両手を広げ、ゲレル教皇聖下は入場するよう促す。
なので、私達は奥の祭壇に続く通路をゆっくりと進んだ。
一歩踏み出す度に、なんだか心がざわつく。
別に悪い意味じゃなくて、ワクワクするような……夢が現実になるような、そんな感覚。
『ヴィンセントと結婚する実感が、湧いてきたのかしら?』と思案しつつ、私は足を止める。
目の前に居るゲレル教皇聖下を見据えて。
「それでは、まず婚姻届にサインを」
ゲレル教皇聖下は祭壇の前に置かれた小さな台を手で示し、『さあ』と促してきた。
と同時に、私達は台へ置かれた婚姻届とペンを見下ろす。
「僕から、先に書くね」
小声でそう言ってから、ヴィンセントはペンを手に取って少し屈んだ。
かと思えば、慣れた様子で署名を行い、こちらにペンを手渡す。
「はい、セシリアの番だよ」
「ありがとう」
ニッコリ笑って頷き、私は婚姻届へ視線を落とした。
先に書かれた『ヴィンセント・アレス・クライン』という文字を目で追い、スッと目を細める。
“彼と夫婦になる”という実感がより一層強まる中、私は素早くサインを終えた。
ペンを台に置いて『終わりました』という合図を送ると、ゲレル教皇聖下は小さく頷く。
「婚姻届のサインを確認。これより、誓いの言葉へ移ります」
『つい見惚れてしまった』と述べるヴィンセントに、私はポカンとした。
が、状況を理解するなり頬を紅潮させる。
「ゔぃ、ヴィンセントの方こそ……素敵よ」
「ありがとう。セシリアの隣に立つために、努力した甲斐があったよ」
うんと目を細めて、ヴィンセントは喜びを露わにした。
かと思えば、その場に跪いてこちらを見上げる。
「それじゃあ、月より綺麗な君をエスコートする栄誉を僕にくれるかい?」
こちらに手を差し出し、ヴィンセントは『隣に立たせて』とお願いしてきた。
そんなこと、わざわざ頼まなくてもいいのに。
だって、こちらの答えは決まっているから。
「ええ、喜んで」
迷わずヴィンセントの手を取り、私はニッコリと微笑んだ。
と同時に、彼が立ち上がって優しく手を引く。
『こっちだよ』と導いてくれるヴィンセントを前に、私はチラリと後ろを振り返った。
「皆、また後でね」
控え室に居る使用人達へ一応声を掛けてから、私は歩き出す。
そして、結婚式の会場の前へやってくると、足を止めた。
観音開きの大きな扉を見据え、一度深呼吸する。
一生に一度の結婚式……失敗は許されないわ。
だから、真剣に……でも、楽しくこなしましょう。
『いい思い出にしたい』という願いを抱き、私は真っ直ぐ前を見据えた。
その刹那、扉が開き────起立している招待客達を目にする。
中には、当然アイリスやルパート殿下の姿もあった。
あの二人、最近正式に婚約したのよね。
結婚式の準備も着々と進めていて、来年の春には入籍予定みたい。
そのため、ルパート殿下には親族席を割り当てているの。
『アイリス一人で座らせるのは、可哀想だったし』と思いながら、私はふと貴賓席へ視線を向ける。
すると、エレン殿下を発見した。
最近、皇太子の仕事で忙しいと言っていたのに来てくれたのね。
『相当時間をやりくりしたに違いない』と悟り、私は申し訳ないような……でも、嬉しいような気分になる。
────と、ここで一番奥の祭壇前に居るゲレル神官……いや、教皇聖下が顔を上げた。
「新郎新婦、前へ」
おもむろに両手を広げ、ゲレル教皇聖下は入場するよう促す。
なので、私達は奥の祭壇に続く通路をゆっくりと進んだ。
一歩踏み出す度に、なんだか心がざわつく。
別に悪い意味じゃなくて、ワクワクするような……夢が現実になるような、そんな感覚。
『ヴィンセントと結婚する実感が、湧いてきたのかしら?』と思案しつつ、私は足を止める。
目の前に居るゲレル教皇聖下を見据えて。
「それでは、まず婚姻届にサインを」
ゲレル教皇聖下は祭壇の前に置かれた小さな台を手で示し、『さあ』と促してきた。
と同時に、私達は台へ置かれた婚姻届とペンを見下ろす。
「僕から、先に書くね」
小声でそう言ってから、ヴィンセントはペンを手に取って少し屈んだ。
かと思えば、慣れた様子で署名を行い、こちらにペンを手渡す。
「はい、セシリアの番だよ」
「ありがとう」
ニッコリ笑って頷き、私は婚姻届へ視線を落とした。
先に書かれた『ヴィンセント・アレス・クライン』という文字を目で追い、スッと目を細める。
“彼と夫婦になる”という実感がより一層強まる中、私は素早くサインを終えた。
ペンを台に置いて『終わりました』という合図を送ると、ゲレル教皇聖下は小さく頷く。
「婚姻届のサインを確認。これより、誓いの言葉へ移ります」
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