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第三章
その頃のサラマンダーは (ブラウンの過去編) 11
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何故ただの食料であるブラウンにここまでしたのか自分でも分からない。
ただ可哀想だと思ったのだ...貪欲にまで愛を欲すブラウンが。
妾────レーテーはブラウンの父親にあたるダミアンの部屋へ忍び込んでいた。
目的はただ一つ。
ブラウンがダミアンにかけた呪いの呪印を不可視の魔法で隠すこと。
妾は記憶を司る悪魔だが、魔法が使えない訳ではない。水魔法に関してはウンディーネに次ぐ実力を持っておる。
「.....全てを覆い隠す霧となれ thick fog(濃霧)」
首元にある呪印に不可視の魔法をかけた妾はそそくさとこの場をあとにした。
これで余程のことがない限り、ダミアンは呪印にも呪いにも気づくことがないだろう。
一応ダミアンを始めとするこの国の者達の記憶は弄ったし、ダミアンがブラウンを溺愛することに違和感はない筈だ。
いつもは忙しなく人が行き交う廊下だが、夜は不思議なくらい静かである。
月明かりを頼りに廊下を練り歩く妾は『はぁ...』と溜め息を溢した。
実はブラウンに古代呪術魔法を教える際、代償として妾はまた記憶を欲したのだ。以前までは過去の記憶を中心に食べていたが、たった数年しか生きていないブラウンの過去の記憶など一瞬で喰らい尽くせる。
だから、最近の記憶も食べさせろと言った訳なんだが.....。
正直、無償で教えても良いと思っていた。
だが、妾は悪魔だ。
悪魔なら悪魔らしく、何事にも代償を支払わせるべきだろう。
「分からんなぁ.....妾は何がしたいのやら...」
ははっ、と自分を嘲笑うような乾いた笑いが漏れる。
妾はブラウンをどうしたいのだろうか?
古代呪術魔法など教えて....実の父親を呪わせて....。
実に悪魔らしい悪行ではあるが、妾がしたかったのはそんなことじゃない....。
ただブラウンに.....幸せになってもらいたかった。
だが、妾は悪魔だ。
悪魔は人を唆し、誘惑し堕落させる生き物。
決して人を幸せにするものではない。
堕落した人間が辿る結末は決まって“破滅”だ。
妾がブラウンを幸せになんて....出来る訳がない。
ブラウンの部屋へ戻り、ベッドでスヤスヤと気持ち良さそうに眠るブラウンの頬へ手を滑らせた。
子供特有のもっちりとした柔らかい頬だ。
「妾が精霊なら、そなたを幸せに出来たかもしれんな....精霊王の記憶など食べなければ良かったのぉ....今更後悔しても遅いが...」
頬に滑らせた手をそっとブラウンの口元へ持っていく。
親指の腹でやんわりとブラウンの唇を押した。
妾は忘却の悪魔 レーテー。
そなたの記憶を全て食らう者。
「一度記憶をリセットしよう、ブラウンよ」
平民と国王の間に生まれた妾の子であることも、父親を呪ったことも全て忘れるが良い。
そなたが次目を覚ますときはきっと作られた愛情で包み込まれることだろう。
ブラウン...そなたは無知で良い。
「......妾のことも忘れろ」
その言葉を皮切りにブラウンの唇に自身の唇を押し当てた。
ただ可哀想だと思ったのだ...貪欲にまで愛を欲すブラウンが。
妾────レーテーはブラウンの父親にあたるダミアンの部屋へ忍び込んでいた。
目的はただ一つ。
ブラウンがダミアンにかけた呪いの呪印を不可視の魔法で隠すこと。
妾は記憶を司る悪魔だが、魔法が使えない訳ではない。水魔法に関してはウンディーネに次ぐ実力を持っておる。
「.....全てを覆い隠す霧となれ thick fog(濃霧)」
首元にある呪印に不可視の魔法をかけた妾はそそくさとこの場をあとにした。
これで余程のことがない限り、ダミアンは呪印にも呪いにも気づくことがないだろう。
一応ダミアンを始めとするこの国の者達の記憶は弄ったし、ダミアンがブラウンを溺愛することに違和感はない筈だ。
いつもは忙しなく人が行き交う廊下だが、夜は不思議なくらい静かである。
月明かりを頼りに廊下を練り歩く妾は『はぁ...』と溜め息を溢した。
実はブラウンに古代呪術魔法を教える際、代償として妾はまた記憶を欲したのだ。以前までは過去の記憶を中心に食べていたが、たった数年しか生きていないブラウンの過去の記憶など一瞬で喰らい尽くせる。
だから、最近の記憶も食べさせろと言った訳なんだが.....。
正直、無償で教えても良いと思っていた。
だが、妾は悪魔だ。
悪魔なら悪魔らしく、何事にも代償を支払わせるべきだろう。
「分からんなぁ.....妾は何がしたいのやら...」
ははっ、と自分を嘲笑うような乾いた笑いが漏れる。
妾はブラウンをどうしたいのだろうか?
古代呪術魔法など教えて....実の父親を呪わせて....。
実に悪魔らしい悪行ではあるが、妾がしたかったのはそんなことじゃない....。
ただブラウンに.....幸せになってもらいたかった。
だが、妾は悪魔だ。
悪魔は人を唆し、誘惑し堕落させる生き物。
決して人を幸せにするものではない。
堕落した人間が辿る結末は決まって“破滅”だ。
妾がブラウンを幸せになんて....出来る訳がない。
ブラウンの部屋へ戻り、ベッドでスヤスヤと気持ち良さそうに眠るブラウンの頬へ手を滑らせた。
子供特有のもっちりとした柔らかい頬だ。
「妾が精霊なら、そなたを幸せに出来たかもしれんな....精霊王の記憶など食べなければ良かったのぉ....今更後悔しても遅いが...」
頬に滑らせた手をそっとブラウンの口元へ持っていく。
親指の腹でやんわりとブラウンの唇を押した。
妾は忘却の悪魔 レーテー。
そなたの記憶を全て食らう者。
「一度記憶をリセットしよう、ブラウンよ」
平民と国王の間に生まれた妾の子であることも、父親を呪ったことも全て忘れるが良い。
そなたが次目を覚ますときはきっと作られた愛情で包み込まれることだろう。
ブラウン...そなたは無知で良い。
「......妾のことも忘れろ」
その言葉を皮切りにブラウンの唇に自身の唇を押し当てた。
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