67 / 75
第五章
横槍 2
しおりを挟む「私は精霊に関する書物を読み漁り、1つの仮説を見出だしました。悪魔を殺すときに使うのが精霊達の作った聖剣ならば、その逆も然り...なのではないと。私の予想は見事的中し、魔剣は精霊達の硬化した皮膚さえも切り刻むことが出来ました」
なるほど....。
四大精霊ノームの皮膚さえも切り刻んだ魔剣....厄介だ。
ん?でも待てよ....フィル王子の口振りだと精霊の硬化した皮膚さえも切り刻めることを事前に知っていたような....?
今、その魔剣を実験したような口振りではなかった。
それにフィル王子の性格上、ぶっつけ本番で魔剣を使うとは思えない。万全を期してから、行動に移す筈....。
冷や汗が頬を伝って、床に落ちた。
嫌な予感がする....とっても嫌な予感が。
「ですが、魔剣は精霊の硬化した皮膚を切り刻めるだけでした。精霊の治癒能力を持ってすれば魔剣が作った傷など無意味に等しい....だから、四大精霊サラマンダーがブラウンに使った治癒魔法や自己治癒を妨害する呪術系魔法を使用させて頂きました。まあ、それでも殺すことは不可能でしたが...。プレストン、あれをここへ」
プレストン王子は手にしていた小さな箱を開けると中から蝶の羽根を背中から生やした小さな小さな───精霊を取り出した。
っ....!?ジェフ!?
全身血だらけのジェフがそこには居た。
肩が忙しなく動いていることから、息はしているみたいだがとても苦しそうだ。
ジェフが何でこんなことに....!?
「これは....随分と穏やかではないですね」
「ふふっ。それはお互い様ですよ、ウンディーネ。貴方だって罪のないスターリ国民を何人も殺したではありませんか」
「ふふふっ。害虫である人間と神に近しい存在である我々精霊の命の価値を同じにされては困ります」
「ふはははっ!相変わらず、精霊は傲慢ですね。自分達の命をどれだけ高く見ていることやら...」
ここで初めてウンディーネが笑顔を崩した。
今までずっとニコニコと笑顔を絶やさなかったあのウンディーネが、だ。
不愉快そうに眉を潜め、忌々しげにフィル王子を見下ろしている。
私は....どうすれば良いんだろう?
ノームの側で膝をつく私はただひたすらノームの横腹と血だらけのジェフを交互に見つめるだけだった。
ジェフを助けたい....!
でも、変に相手を刺激して逆上でもされたら厄介だ。
ジェフを捕らえているのがそこら辺に居る兵士なら良かったが、まさかのプレストン王子。
プレストン王子はフィル王子とまではいかないが、魔法の腕はかなり立つ。
そう簡単にジェフを取り戻せるとは思えない。
私はなんて無力な存在なのかしら.....。
落ち込んでいる暇はないと分かっていても、上手く心を制御できない。
フッと自嘲にも似た笑いが漏れた。
5
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる