婚約破棄？そもそも、貴方誰ですか？

第五章

横槍 ３

 一体私はどうすれば.....。
 ジェフを仮に助け出せたとしても彼の傷は治らない。
 あの四大精霊であるノームですら全く傷が癒えていないのだ、普通の精霊であるジェフなら尚のこと。
 だからと言って、ジェフをこのまま彼らの手の内に居させるわけには.....。
 チラッとプレストン王子を盗み見ると同時に鮮やかな赤が宙に舞った。
 なっ、に....？
 一体、今何が....？

「全く....本当人間とは愚かですねぇ...魔剣？それがどうしたと言うのですか？要するにその剣に触れなければいい話ですよね？自慢げに魔剣の説明をされていましたが、私の前でその剣は無力に等しい」

 ウンディーネに血流を操作され、血を吹き出し倒れたプレストン王子。
 ....ウンディーネの言っていることは正しい。
 中距離から遠距離型の戦闘スタイルを所持しているウンディーネには近接武器である魔剣は無力に等しい。
 いや、そもそも....体のほとんどが水分で出来ている人間が彼に敵う筈がないのだ。
 血流操作は彼の十八番おはこと言っても良い。
 生気を感じられない顔色で倒れ込んでいるプレストン王子の手からジェフを奪い取った。

「ジェフ....ジェフっ！目を開けて！」

 全身血だらけのジェフを清潔なハンカチで包み、手のひらに乗せる。
 桃色のハンカチはじんわりと赤く染まった。
 ジェフっ....！お願い、目を開けて！
 精霊は死なない生き物だと頭では分かっているものの、瀕死状態のジェフを目の当たりにしても焦らないほど私は出来た人間じゃない。

「ジェフっ....ジェフ！」

「.......んぁ...ディ、アナ....？」

「ジェフっ！！」

 良かった！目を開けてくれた！
 うっすらと目を開け、ぎこちない笑みを浮かべるジェフ。
 ジェフは精霊にしては珍しい平和主義の子で、あまり殺しを好まない。
 そんな優しい子だからか、よく彼と色々な話をしていた。
 精霊の中でも特に仲の良いジェフのこんな姿....耐えられない。
 溢れそうになる涙をグッと堪え、ダメ元で治癒魔法を展開させる。

「────heal(治癒)」

 っ....！やっぱり、駄目だった....。
 得体の知れない何かが治癒魔法を妨害してくる。
 これじゃあ、ただの生き地獄じゃないか。
 一生ジェフは....ノームはこの痛みと共に生きていくのだろうか？
 死ねない彼らには“生きる”という選択肢しかない。
 例え、それがどんなに苦痛であろうと。
 彼らには“死”という逃げ道はないのだ。
 私はっ....どうすれば良いのっ....！？
 何も出来ないやるせなさと悔しさから溢れ出す涙を止めることが出来なかった。