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第一章

討伐隊

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「リエート、下がれ。ここら一帯の魔物を一掃する」

 『派手にやるぞ』と言い、兄は前を見据える。
と同時に、リエート卿が風を纏って退避してきた。
『風のおかげか、移動スピードが段違いに早い』と感心する私を他所に、兄は一度立ち止まった。
かと思えば、片足を軽く上げ、思い切り地面を踏みつける。
その途端────地面が凍りついた。
だけでは終わらず、魔法の範囲内に居た魔物達を全身氷漬けにする事態へ。
あれはもはや、氷像である。

 幸い、私達の足元は凍ってなくて無事だったけど……相変わらず、凄まじい威力ね。
これだけの魔物を一瞬にして、戦闘不能へ追い込んでしまうんだから。

 素人目でも分かる兄の力量に、思わず目を見開く。
────が、空から降ってきた水の矢を見て、まだ魔物はたくさん居るのだと悟った。
『敵の規模は数万だものね』と考える中、リエート卿が水の矢を全て叩き切る。
おかげで、私達は無傷だった。

「とりあえず、先を急ごう」

 そう言って、兄は凍った地面を一部溶かす。
魔術を用いて道を作り、冷気も私達の周囲だけ緩和させた。

「リディアはもう一度、僕に魔力譲渡を。リエートは露払いを頼む」

「「分かりました分かった」」

 兄の指示に一つ頷くと、私は再度手を握り締める。
『譲渡する魔力はさっきと同じ量でいいかな?』と悩む中、リエート卿は勢いよく駆け出した。
濡れた地面の上を走り、魔物の襲撃に対応する彼は風魔法を惜しみなく使う。
そのおかげか、複数体を相手にしても優勢を貫けた。

 いざとなったら、私の魔力譲渡を受ければいいものね。
出し惜しみして負傷するくらいなら、思い切り使ってくれた方がいい。
幸い、まだ魔力はたっぷり余っているから。

 『リディアのハイスペックに感謝ね』と思いつつ、私は二回目の魔力譲渡を終える。
────と、ここで兄はリエート卿に追いついた。
しつこく向かってくる魔物達を氷の槍で貫くと、もう少し先に行くよう促す。
もっと魔物の密集したところへ行き、大技を使う寸法なのだろう。
さっきの範囲攻撃からたまたま逃れただけの魔物に、手間と魔力を掛けるのは勿体ないから。

 それにしても、討伐隊の人達はどこにいるのかしら?
魔物の大群を食い止めているというなら、そこまで奥には行ってないよね?多分。

 『そろそろ、手掛かりくらい見つかってもいいのでは?』と思いつつ、私は辺りを見回す。
────が、森の木々や大きい魔物に視界を遮られ、遠くまで見えない。

「リディア、魔力はあとどのくらいだ?」

「えっと正確な数字までは分かりませんが、まだ一割も使ってません」

 体感で残りの魔力量を推し量りつつ答えると、兄は僅かに目を剥く。
『これでまだ一割以下か……』と半ば呆れたように呟き、小さく肩を竦めた。
かと思えば、前を走るリエート卿に声を掛ける。

「リエート────上空から、討伐隊を探せ」

「えっ……!?大丈夫なのか、それ……!無駄に魔物が寄ってくるぞ……!」

「問題ない。こちらで蹴散らす。むしろ、こちらから出向く手間が省けて楽だ」

 言外に『囮の役割もある』と明かした兄に、リエート卿は一瞬固まった。
────が、直ぐに笑い出し、『ニクスらしい』と口にする。

「そういうことなら、遠慮なく行って目立ってくるぜ!」

 『任せろ!』とでも言うように自身の胸を叩き、リエート卿は全身に風を纏った。
と同時に、浮遊する。
兄のことを信じているのか後ろは振り返らず、上空へ飛び立った。
オレンジがかった金髪を揺らし辺りを見回す彼の下で、私達は魔物に対峙する。

「リエートのところには、行かせないぞ」

 そう言って、兄は氷結魔法をふるう。
魔力の残量を考慮する必要がないとはいえ、上空に居るリエート卿とお荷物の私を庇いながら戦うのは大変な筈。
でも、彼は至って余裕綽々で……辛そうな素振りはもちろん、弱音を吐くこともなかった。
相変わらず隙のない兄に瞠目する中────上から、『あっ!』という声が降ってくる。

「おい!見つけたぞ!ここから約一キロメートル先、南方向だ!」

 『ウチの旗があるから討伐隊で間違いない!』と叫び、リエート卿はその方角を指さす。
興奮した様子で頬を赤くする彼を前に、兄は一気に周囲の魔物を凍らせた。

「僕達も宙に浮かせろ。上空から、討伐隊のところまで直行する。魔物の対応は引き続き、僕がするからとにかく移動のことだけ考えろ」

「了解!」

 元気よく返事するリエート卿は、勢いよく拳を振り上げた。
すると、その動作に合わせて強風が巻き起こり、私達の体を包み込む。
逸る気持ちを抑え切れないのか、風の扱いは少々雑だが、気になるほどではなかった。
リエート卿に身を任せ、されるがままになっていると、私達の体はやがて彼と同じ高さまで浮き上がる。

「よし、出発だ!」

 そう宣言するなり、リエート卿は猛スピードを出した。
空気の膜で保護されているのをいいことに、ぐんぐん加速していく。

 わぁ……!ジェットコースターみたい。

 テレビで見た遊園地特集を脳裏に思い浮かべ、私はキラキラと目を輝かせる。
────が、兄は不機嫌そうに『チッ……』と舌打ちした。
恐らく、魔物の視認と魔法の展開が追いつかないのだろう。
なので、仕方なく氷の矢の雨を降らせていた。

 『これで少しは魔物の進行を止められているといいのだけど』と思案する中、彼は不意に手を止めた。
と、次の瞬間────私達の体はいきなり落下……いや、それ以上のスピードで急降下していく。
ゾクリとした感覚が全身を駆け巡り、思わず目を瞑ると、風が四方八方へ散った。
ハッと息を呑むような音があちこちから聞こえ、私はゆっくりと目を開ける。
そして、視界に入ったのは────鎧姿の男女。

「お、お前……何でここに……」

「中央神殿に居る筈じゃ……」

 いつの間にか着地して討伐隊の中に居た私達を前に、赤髪金眼の美男子と金髪赤眼の美女は呆然とする。
手足に追った傷の痛みなど気にならないようで、ただただ立ち尽くしていた。
今にも腰を抜かしそうなほど驚く二人を前に、リエート卿はニッと歯を見せて笑う。

「────父上、母上!助けに来ました!ここから先のことは、俺達に任せてください!」
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