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第一章

第26話『嫌な役』

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 ────今後の方針が定まったことにより、私達はリーダーの指示で三手に別れることになった。

 まず、『紅蓮の夜叉』の主催する同盟会議に出席するリーダー。
ゲーム攻略に向けて、アイテム大量作成に取り掛かるアラクネさんとその素材集めを担うヴィエラさん。
そして────No.6さんの回収を請け負う私・徳正さん・ラルカさん。
当分はこの面子で、活動する予定だ。

「いやぁ、それにしても嫌な役を押し付けられたね~」

『同感だ』

「え?嫌な役?」

 アラクネさんからお借りした馬車で郊外を走る私は、二人の発言に首を傾げる。
確かに報告会議を終えるなり出発することになったのは痛いが、こういうのは早く行うべきだから仕方ないだろう。
『皆さんの話からして、No.6さんは放置すると危険みたいだし……』と思いつつ、マップへ視線を向ける。
そこには、リーダーから聞き出したNo.6さんの居場所が表示されていた。
『まだ直進で大丈夫だな』と考えていると、御者役を引き受けた徳正さんがこちらを振り返る。
ちゃんと前を見てほしいところだが、今はまだぶつかりそうな障害物もないため見逃した。

「ラーちゃんはNo.6のこと、何にも知らないもんね~」

「No.6さんって、そんなにやばい人なんですか?」

「ん~……やばいっていうか、色々ぶっ飛んでるっていうか……」

『とにかく、ずっと笑っているな。“狂笑《きょうしょう》の悪魔”という二つ名を付けられるほど』

 ずっと、笑う……?それって、具体的にどのくらいの頻度で?

 『何もなくても笑うなら、相当ヤバいな』と頬を引き攣らせる中、徳正さんはどこか遠い目をした。

「No.6は狂ったように四六時中笑い続け、目にしたプレイヤーを一人残らず殲滅する狂者として知られてる。基本リーダーの言うことしか聞かないし、会話もままならない。俺っち達のことは、リーダーの指示で殺さないってだけ」

「そ、そうなんですか……」

 協調性皆無で無類のPK好き……うん、ヤバい人だな。

 徳正さんから話を聞いてより一層警戒心が強くなった私は、『怒らせないようにしよう』と思い立つ。
────と、ここでNo.6さんが捕らえられていると言うスッドの森に辿り着いた。
一先ず馬車から降りて馬などを仕舞い、私達は森をじっと見つめる。
直ぐに入らないのは、『サーペント』のギルトマスターであるスネークの私有地だから。
つまり、何が仕掛けられているか分からないってこと。

「あーちゃんの罠の森よりはマシだけど、この広い森の中からNo.6を探すのは骨が折れそうだね~」

「いっそのこと騒ぎを起こして、あちらから出向いてもらうのはどうです?」

『それでNo.6を人質に取られたら、終わりだぞ……敵の方が』

 あっ、確かに……。
となると、やっぱり地道に探すしかないか。
マップ情報だけじゃ、No.6さんの細かい位置は分からないから。

 『こっそり人探しなんて大変そう』と肩を落とす中、徳正さんは前を向く。

「まあ、何にせよ……まずは奴らのアジトを見つけなきゃね~。きっと、No.6もそこに居る筈だから~。てことで、二手に別れて探そっか~?俺っちは一人で探すから、ラーちゃんはラルカと一緒に探してくれる~?んで、アジトを見つけ次第各自連絡って感じで」

「分かりました。それで行きましょう」

『ラミエルの身の安全は、保証しよう』

「うんうん~。んじゃ、後でね~」

 徳正さんはヒラヒラと手を振ると、瞬きの間に姿を消した。
ブワッと風が巻き起こり、地面に敷き詰められた落ち葉が宙を舞う。

 相変わらずのスピード狂……でも、あのスピードなら敵とすれ違ってもただの風としか思われないだろうな。

 風で乱れた前髪を整えながら、私はラルカが居る方を振り返る。
『私達も行きましょう』と声を掛けようと思って。

「ラルカさ……え?あれ?んっ……?あの……つかぬ事をお聞きしますが、その格好は一体?」

 ゴシックチックな着ぐるみから、スレンダーな黒クマの着ぐるみに大変身したラルカさんを見つめ、私は困惑する。
『いつの間に着替えたんだ?』と戸惑う中、ラルカさんはなんてことないように答えた。

『さっきの着ぐるみは、目立つからな。おまけに機動性に欠ける。だから、この状況に最適な姿を選んだ』

「そう、ですか……」

 いや、着ぐるみを身につけている時点で充分目立っているけどね!?
それに機能性だって!まあ、ラルカさんの場合、日常生活に支障がない程度には動けているけど!

 ぶっちゃけ着ぐるみを脱げば万事解決なのだが、ラルカさんが応じるとは思えないので口に出さなかった。
『言うだけ無駄』と割り切り、一つ息を吐く。

「とりあえず、敵に見つかったら……」

 というか、それだけ目立つ格好をしていれば十中八九見つかると思うけど……。

「その敵を気絶させてください。『サーペント』全体に私達の情報が伝わるのは、避けなければなりません」

 いずれ、そうなるとしても出来るだけ時間を遅らせないと……最悪の事態を招きかねない。
私達『虐殺の紅月』の被害はもちろん、敵陣営の被害も最小限に抑えなくちゃ。

『承知した。見つかり次第、すぐに気絶させよう』

「お願いします」

 アラクネさんに予備の毒針を大量に頂いたため、私も戦闘に参加出来るが、所詮は回復師ヒーラー
色々と限界はある。
なので、戦闘面ではラルカさんに頼らせてもらおう。

『恐らくもう徳正が探しに行ったと思うが、アジトは森の中心部にある可能性が高い。僕達もそこへ向かおう』

「分かりました。先導は任せます」

 そう言って、私はラルカさんの後ろに下がる。
『どうぞ』と促す私に、彼は一つ頷いて歩き出した。
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