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第二章
謎の疫病《トリスタン side》
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「患者の数は、およそ一万。そして、死者の数は────三千人です」
側近候補の口にした数値に、私は一瞬フリーズした。
……はっ?三千?たった数時間で?
疫病が発覚したのは、今日の朝だよな?なのに何でもうそんなっ……!
「教会は一体、何をしている!?あいつらの仕事は、民の怪我や病気を癒すことだろ!」
「そ、それが……突然、教会の人間全員が魔法を使えなくなったみたいで……」
「はぁ!?そんなことある訳ないだろ!疫病患者に関わりたくなくて、そんなデマカセを言ってるんじゃないのか!?」
八つ当たりついでに怒鳴り散らせば、側近候補はビクッと肩を震わせた。
私の気迫に押され、オロオロした様子で一歩後ろへ下がる。
そして、少し悩むような動作を見せてから、彼は口を開いた。
「あ、あの……これは父から聞いた話なんですが……その、王城で働いている宮廷魔導師の方々も────神官達と同じように魔法が使えなくなったみたいです」
「……はっ?」
教会の人間だけじゃなく、宮廷魔導師も魔法が使えなくなっただと……?そんなこと有り得るのか……?
……でも、確かこいつの父親は宮廷魔導師を補佐する文官だった筈。となると、嘘を言っている可能性はかなり低い……。
「他の魔導師は、どうなんだ?普通に魔法を使えているのか?」
「は、はい……王家とも教会とも関わりのない、治癒院の職員や貴族お抱えの魔導師なんかは普通に魔法が使えているみたいです。なので、今は治癒院に患者を集めて治療に当たっているみたいですが……」
「圧倒的に人手が足りぬか……」
フィオーレ王国では、民の怪我や病気の治療を教会に一任している。だから、教会が機能しなくなれば、一気に医療体制が崩壊する……。
治癒院など、所詮一個人が作り上げた小さな診療所に過ぎない……そこで一万人以上の患者を捌くことは到底不可能だった。
「延命させる方法があっても、それを行使できる者が居なければ、意味が無い……チッ!面倒なことになった!」
メイヴィスを処刑してから、後悔の念に駆られる日々が続いていたが、だからと言って面倒事を期待していた訳じゃない。
何故、こうも不幸は重なるのか……。
メイヴィスの死去だけでお腹いっぱいだ。疫病問題など、私の知ったことではない。
「私は自室に戻って休む」
「え?でも、疫病問題が……」
「そんなもの私には関係ない。父上たちがどうにかするだろ」
『面倒事に自ら関わる趣味はない』とでも言うように、縋るような視線を無視して歩き出す。
どれだけ多くの民が疫病に苦しもうと、私にはどうでも良かった。
私にとって重要なのは、美しいものを愛でること。ただそれだけ……。
────どこまでも自己中心的な私は、まだ気づいていなかった。
この異常事態を引き起こしていた元凶の怒りに……。
狂い始めた歯車は、もう二度と元には戻らない。
側近候補の口にした数値に、私は一瞬フリーズした。
……はっ?三千?たった数時間で?
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そして、少し悩むような動作を見せてから、彼は口を開いた。
「あ、あの……これは父から聞いた話なんですが……その、王城で働いている宮廷魔導師の方々も────神官達と同じように魔法が使えなくなったみたいです」
「……はっ?」
教会の人間だけじゃなく、宮廷魔導師も魔法が使えなくなっただと……?そんなこと有り得るのか……?
……でも、確かこいつの父親は宮廷魔導師を補佐する文官だった筈。となると、嘘を言っている可能性はかなり低い……。
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「は、はい……王家とも教会とも関わりのない、治癒院の職員や貴族お抱えの魔導師なんかは普通に魔法が使えているみたいです。なので、今は治癒院に患者を集めて治療に当たっているみたいですが……」
「圧倒的に人手が足りぬか……」
フィオーレ王国では、民の怪我や病気の治療を教会に一任している。だから、教会が機能しなくなれば、一気に医療体制が崩壊する……。
治癒院など、所詮一個人が作り上げた小さな診療所に過ぎない……そこで一万人以上の患者を捌くことは到底不可能だった。
「延命させる方法があっても、それを行使できる者が居なければ、意味が無い……チッ!面倒なことになった!」
メイヴィスを処刑してから、後悔の念に駆られる日々が続いていたが、だからと言って面倒事を期待していた訳じゃない。
何故、こうも不幸は重なるのか……。
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「私は自室に戻って休む」
「え?でも、疫病問題が……」
「そんなもの私には関係ない。父上たちがどうにかするだろ」
『面倒事に自ら関わる趣味はない』とでも言うように、縋るような視線を無視して歩き出す。
どれだけ多くの民が疫病に苦しもうと、私にはどうでも良かった。
私にとって重要なのは、美しいものを愛でること。ただそれだけ……。
────どこまでも自己中心的な私は、まだ気づいていなかった。
この異常事態を引き起こしていた元凶の怒りに……。
狂い始めた歯車は、もう二度と元には戻らない。
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