あやかし花屋の花売り少女

あーもんど

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第一章

その四

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 舞子さんは一つ目の挙動不審な態度に眉を潜めつつ、再度声を張り上げる。

「とりあえず、きちんと金は払わないとあかんで!たった二本の団子でも、あのおばあさんの生活を支える商売道具なんだから!食べたからにはきちんと支払いをしな!」

 男尊女卑の時代が続く日本では珍しい度胸のある女だ。
 キツい印象を受けるつり目を更に吊り上げながら、舞子さんは一つ目を叱咤する。
 誰かに叱られるなんて、一つ目には初めての体験であった。
 こ、この女子おなごはなんて度胸のある奴なんだ!それにとてつもない美人だ!
 女性では珍しい凛々しい佇まいも実に良い!
 人間の男ならば、女に叱咤されるなど恥だと喚き散らしていただろうが、残念ながら一つ目はあやかしだ。それもかなり変わったあやかしである。

「食い逃げしたことは詫びよう。すまなかった...だが、我には今手持ちがないのだ。すまないが、代金は支払えない」

 食い逃げした挙げ句、無一文など格好悪いことこの上ないが、変えようのない事実なので仕方あるまい。
 恨むなら、食い逃げを謀った昔の自分を恨め。
 一つ目が無一文だと知った舞子さんは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
 ビックリするほどの間抜け面だが、なまじ顔が整っているせいか可愛く見えてきた。
 舞子さんの可愛らしい反応に一つ目はその大きな目ん玉をスゥと細める。
 たった一つしかない目ん玉からは優しさと愛しさが溢れ出ていた。
 が_____....次の瞬間。
 一つ目の顔の半分を占める大きな目ん玉は更に大きく見開かれることになる。

「あんたぁ....!!金もないのに団子を食ったのかい!あやかしだからって許されないよ、それは!」

「むぅ!?」

 なんと、一つ目は舞子さんの上半身を拘束されていた。
 驚くことに舞子さんの正体はの有名なあやかし───ろくろっ首だったのである。
 ただこれで色々と合点がいく。
 “見える”人間は何人も出会ったことがあるが、人間自ら話し掛けてくることはあまりなかった。
 見える人間でも、一つ目が話し掛けない限り、あちらはこちらの存在に気づかない。
 あやかしは総じて極端に影が薄いため、自発的に話し掛けないと誰にも気づいてもらえない寂しい存在であった。

「あんたみたいな盗人、あたしゃ大嫌いだね!」

「ぬぬっ!?」

 大嫌いだと!?
 一つ目は好ましいと思っている相手に『大嫌い』だとキッパリ言い捨てられ、雷に撃たれたようにピシャリと固まった。
 せっかく好ましいと初めて思えた相手に秒で『大嫌い』だと言われれば、誰でも衝撃を受けるだろう。
 き、きらっ....!?嫌い!?それも“大”が付くほどの!?
 そ、そんなに食い逃げはいけないことだったのか!?
 何度も言うようで悪いが、一つ目には今まで叱ってくれる人も注意してくれる人も居なかった。
 そのため、善悪の判断が出来ぬ赤子同然なのである。
 生まれて初めて食い逃げは絶対にしてはいけないこと────“悪”だと知り、一つ目はまたしも衝撃を受けるはめに....。
 口の開閉を繰り返すだけで全く反応のない一つ目を不審に思い、一つ目の顔を覗いた舞子さん───改めろくろっ首は青ざめた表情で固まる一つ目を目にして、直ぐ様拘束を解いた。
 拘束を解かれた一つ目はペタンとその場に尻餅をつく。尚、まだ意識は空の彼方へと吹っ飛ばされており、衝撃から立ち直れていない。
 あ、あたしとしたことが力加減を誤ってしまったみたいだ!

「あんた、大丈夫かい!?」

 地面に尻餅をついた一つ目の側に腰を下ろし、一つ目の肩を揺するろくろっ首は本当にいい人...いや、良いあやかしである。
 あやかしは基本的に自由奔放に生活する者が多いため、誰かを心配したり気遣ったりすることがあまりない。
 己の心に従い、良くも悪くも素直に生きる彼らは無法地帯の住人であった。
 そんなあやかしの中で、他者を気遣い他者を心配する彼女──ろくろっ首は大変珍しい者だ。

「あんたぁ、しっかりしぃ!」

 不死身の存在であるあやかしの一つ目が死ぬ筈はないのだが、ろくろっ首はそれを知っていながらも再度一つ目の肩を揺すった。
 相手の痛みを理解出来る優しい子である。
 暴君が多いあやかしの中では本当に珍しい性格をしている。おまけにえらい美人と来た。
 まさに嫁には持ってこいの逸材である。
 もしも、彼女があやかしではなく人間であったなら、数多の男達があの手この手でろくろっ首を落としに掛かったことだろう。
 こんなにも凄い美人さんなのに人の目に映らないなんて勿体ないことこの上ない。
 だが、それがあやかしの性質ならば致し方ないだろう。
 ろくろっ首はおしろいが一つ目の肩に付いているのにも気づかないくらい必死に彼の肩を揺すり続けた。
 それはもう本当に一生懸命に....ね。
 一つ目が振動に耐えきれず吐き気を催す程度には思い切り前後に揺さぶり続けましたとも。
 それから一つ目は四刻ほどの間、吐き気と振動に必死に耐え続けたそうな....。
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