5 / 48
第一章
その四
しおりを挟む
舞子さんは一つ目の挙動不審な態度に眉を潜めつつ、再度声を張り上げる。
「とりあえず、きちんと金は払わないとあかんで!たった二本の団子でも、あのおばあさんの生活を支える商売道具なんだから!食べたからにはきちんと支払いをしな!」
男尊女卑の時代が続く日本では珍しい度胸のある女だ。
キツい印象を受けるつり目を更に吊り上げながら、舞子さんは一つ目を叱咤する。
誰かに叱られるなんて、一つ目には初めての体験であった。
こ、この女子はなんて度胸のある奴なんだ!それにとてつもない美人だ!
女性では珍しい凛々しい佇まいも実に良い!
人間の男ならば、女に叱咤されるなど恥だと喚き散らしていただろうが、残念ながら一つ目はあやかしだ。それもかなり変わったあやかしである。
「食い逃げしたことは詫びよう。すまなかった...だが、我には今手持ちがないのだ。すまないが、代金は支払えない」
食い逃げした挙げ句、無一文など格好悪いことこの上ないが、変えようのない事実なので仕方あるまい。
恨むなら、食い逃げを謀った昔の自分を恨め。
一つ目が無一文だと知った舞子さんは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
ビックリするほどの間抜け面だが、なまじ顔が整っているせいか可愛く見えてきた。
舞子さんの可愛らしい反応に一つ目はその大きな目ん玉をスゥと細める。
たった一つしかない目ん玉からは優しさと愛しさが溢れ出ていた。
が_____....次の瞬間。
一つ目の顔の半分を占める大きな目ん玉は更に大きく見開かれることになる。
「あんたぁ....!!金もないのに団子を食ったのかい!あやかしだからって許されないよ、それは!」
「むぅ!?」
なんと、一つ目は舞子さんの伸びた首で上半身を拘束されていた。
驚くことに舞子さんの正体は彼の有名なあやかし───ろくろっ首だったのである。
ただこれで色々と合点がいく。
“見える”人間は何人も出会ったことがあるが、人間自ら話し掛けてくることはあまりなかった。
見える人間でも、一つ目が話し掛けない限り、あちらはこちらの存在に気づかない。
あやかしは総じて極端に影が薄いため、自発的に話し掛けないと誰にも気づいてもらえない寂しい存在であった。
「あんたみたいな盗人、あたしゃ大嫌いだね!」
「ぬぬっ!?」
大嫌いだと!?
一つ目は好ましいと思っている相手に『大嫌い』だとキッパリ言い捨てられ、雷に撃たれたようにピシャリと固まった。
せっかく好ましいと初めて思えた相手に秒で『大嫌い』だと言われれば、誰でも衝撃を受けるだろう。
き、きらっ....!?嫌い!?それも“大”が付くほどの!?
そ、そんなに食い逃げはいけないことだったのか!?
何度も言うようで悪いが、一つ目には今まで叱ってくれる人も注意してくれる人も居なかった。
そのため、善悪の判断が出来ぬ赤子同然なのである。
生まれて初めて食い逃げは絶対にしてはいけないこと────“悪”だと知り、一つ目はまたしも衝撃を受けるはめに....。
口の開閉を繰り返すだけで全く反応のない一つ目を不審に思い、一つ目の顔を覗いた舞子さん───改めろくろっ首は青ざめた表情で固まる一つ目を目にして、直ぐ様拘束を解いた。
拘束を解かれた一つ目はペタンとその場に尻餅をつく。尚、まだ意識は空の彼方へと吹っ飛ばされており、衝撃から立ち直れていない。
あ、あたしとしたことが力加減を誤ってしまったみたいだ!
「あんた、大丈夫かい!?」
地面に尻餅をついた一つ目の側に腰を下ろし、一つ目の肩を揺するろくろっ首は本当にいい人...いや、良いあやかしである。
あやかしは基本的に自由奔放に生活する者が多いため、誰かを心配したり気遣ったりすることがあまりない。
己の心に従い、良くも悪くも素直に生きる彼らは無法地帯の住人であった。
そんなあやかしの中で、他者を気遣い他者を心配する彼女──ろくろっ首は大変珍しい者だ。
「あんたぁ、しっかりしぃ!」
不死身の存在であるあやかしの一つ目が死ぬ筈はないのだが、ろくろっ首はそれを知っていながらも再度一つ目の肩を揺すった。
相手の痛みを理解出来る優しい子である。
暴君が多いあやかしの中では本当に珍しい性格をしている。おまけにえらい美人と来た。
まさに嫁には持ってこいの逸材である。
もしも、彼女があやかしではなく人間であったなら、数多の男達があの手この手でろくろっ首を落としに掛かったことだろう。
こんなにも凄い美人さんなのに人の目に映らないなんて勿体ないことこの上ない。
だが、それがあやかしの性質ならば致し方ないだろう。
ろくろっ首はおしろいが一つ目の肩に付いているのにも気づかないくらい必死に彼の肩を揺すり続けた。
それはもう本当に一生懸命に....ね。
一つ目が振動に耐えきれず吐き気を催す程度には思い切り前後に揺さぶり続けましたとも。
それから一つ目は四刻ほどの間、吐き気と振動に必死に耐え続けたそうな....。
「とりあえず、きちんと金は払わないとあかんで!たった二本の団子でも、あのおばあさんの生活を支える商売道具なんだから!食べたからにはきちんと支払いをしな!」
男尊女卑の時代が続く日本では珍しい度胸のある女だ。
キツい印象を受けるつり目を更に吊り上げながら、舞子さんは一つ目を叱咤する。
誰かに叱られるなんて、一つ目には初めての体験であった。
こ、この女子はなんて度胸のある奴なんだ!それにとてつもない美人だ!
女性では珍しい凛々しい佇まいも実に良い!
人間の男ならば、女に叱咤されるなど恥だと喚き散らしていただろうが、残念ながら一つ目はあやかしだ。それもかなり変わったあやかしである。
「食い逃げしたことは詫びよう。すまなかった...だが、我には今手持ちがないのだ。すまないが、代金は支払えない」
食い逃げした挙げ句、無一文など格好悪いことこの上ないが、変えようのない事実なので仕方あるまい。
恨むなら、食い逃げを謀った昔の自分を恨め。
一つ目が無一文だと知った舞子さんは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする。
ビックリするほどの間抜け面だが、なまじ顔が整っているせいか可愛く見えてきた。
舞子さんの可愛らしい反応に一つ目はその大きな目ん玉をスゥと細める。
たった一つしかない目ん玉からは優しさと愛しさが溢れ出ていた。
が_____....次の瞬間。
一つ目の顔の半分を占める大きな目ん玉は更に大きく見開かれることになる。
「あんたぁ....!!金もないのに団子を食ったのかい!あやかしだからって許されないよ、それは!」
「むぅ!?」
なんと、一つ目は舞子さんの伸びた首で上半身を拘束されていた。
驚くことに舞子さんの正体は彼の有名なあやかし───ろくろっ首だったのである。
ただこれで色々と合点がいく。
“見える”人間は何人も出会ったことがあるが、人間自ら話し掛けてくることはあまりなかった。
見える人間でも、一つ目が話し掛けない限り、あちらはこちらの存在に気づかない。
あやかしは総じて極端に影が薄いため、自発的に話し掛けないと誰にも気づいてもらえない寂しい存在であった。
「あんたみたいな盗人、あたしゃ大嫌いだね!」
「ぬぬっ!?」
大嫌いだと!?
一つ目は好ましいと思っている相手に『大嫌い』だとキッパリ言い捨てられ、雷に撃たれたようにピシャリと固まった。
せっかく好ましいと初めて思えた相手に秒で『大嫌い』だと言われれば、誰でも衝撃を受けるだろう。
き、きらっ....!?嫌い!?それも“大”が付くほどの!?
そ、そんなに食い逃げはいけないことだったのか!?
何度も言うようで悪いが、一つ目には今まで叱ってくれる人も注意してくれる人も居なかった。
そのため、善悪の判断が出来ぬ赤子同然なのである。
生まれて初めて食い逃げは絶対にしてはいけないこと────“悪”だと知り、一つ目はまたしも衝撃を受けるはめに....。
口の開閉を繰り返すだけで全く反応のない一つ目を不審に思い、一つ目の顔を覗いた舞子さん───改めろくろっ首は青ざめた表情で固まる一つ目を目にして、直ぐ様拘束を解いた。
拘束を解かれた一つ目はペタンとその場に尻餅をつく。尚、まだ意識は空の彼方へと吹っ飛ばされており、衝撃から立ち直れていない。
あ、あたしとしたことが力加減を誤ってしまったみたいだ!
「あんた、大丈夫かい!?」
地面に尻餅をついた一つ目の側に腰を下ろし、一つ目の肩を揺するろくろっ首は本当にいい人...いや、良いあやかしである。
あやかしは基本的に自由奔放に生活する者が多いため、誰かを心配したり気遣ったりすることがあまりない。
己の心に従い、良くも悪くも素直に生きる彼らは無法地帯の住人であった。
そんなあやかしの中で、他者を気遣い他者を心配する彼女──ろくろっ首は大変珍しい者だ。
「あんたぁ、しっかりしぃ!」
不死身の存在であるあやかしの一つ目が死ぬ筈はないのだが、ろくろっ首はそれを知っていながらも再度一つ目の肩を揺すった。
相手の痛みを理解出来る優しい子である。
暴君が多いあやかしの中では本当に珍しい性格をしている。おまけにえらい美人と来た。
まさに嫁には持ってこいの逸材である。
もしも、彼女があやかしではなく人間であったなら、数多の男達があの手この手でろくろっ首を落としに掛かったことだろう。
こんなにも凄い美人さんなのに人の目に映らないなんて勿体ないことこの上ない。
だが、それがあやかしの性質ならば致し方ないだろう。
ろくろっ首はおしろいが一つ目の肩に付いているのにも気づかないくらい必死に彼の肩を揺すり続けた。
それはもう本当に一生懸命に....ね。
一つ目が振動に耐えきれず吐き気を催す程度には思い切り前後に揺さぶり続けましたとも。
それから一つ目は四刻ほどの間、吐き気と振動に必死に耐え続けたそうな....。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる