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第一章
その八
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最初はただの盗人だと思い込んでいた一つ目が金を返しに自分の元へ来たことにろくろっ首は感心していた。
口だけの男じゃなかったって訳かい...。
自分は人を見る目がある奴だと思っていたが、どうやらあたしもまだまだみたいだね。
一つ目とろくろっ首の間に束の間の沈黙が流れた。
「ま、まずは金を返そう!」
一つ目は懐に忍ばせていた袋を取り出すと、ろくろっ首目掛けて投げつけた。
一つ目の身の潔白のために説明するが、わざとではない。
一つ目の頭の中に『金を手渡す』という選択肢が思い浮かばなかっただけなのだ。
悪気はない。断じて。
数日前まで他のあやかしと同じく自由奔放な生活を送ってきた一つ目に常識や普通なんて求めても無駄である。
“普通は”金を人に投げつけるなんて危ないことこの上ないので絶対にしないが、不死身の存在であるあやかしの一つ目には危機管理能力が皆無だ。
そのため、金を投げつけることが危険な行為だと理解していなかった。
「あんた!いきなり、何するんだい!?金を投げつけるなんて危ないじゃないか!」
「えっ?あ....す、すまない!!」
一つ目に投げつけられた金の入った袋を顔面で受けたろくろっ首は当然激怒する。
女の顔に傷でもついたら、どう落とし前をつけてくれるんだい!
顔は女の最大の武器だ。特に顔が整った女は、ね。
ろくろっ首は床に無造作に転がった袋を心底嫌なそうな表情をしながらも一応持ち上げた。
顔に物を投げつけられたこと自体は実に腹立たしい出来事だが、悪気があった訳ではないと理解しているため仕方なく袋を持ち上げたに過ぎない。
一つ目が秒で謝罪して来なければ、恐らくろくろっ首はすぐに一つ目を店から追い出していた。
男勝りな性格をしているろくろっ首がそれ以上一つ目を責め立てないのも反省していることを理解しているから。
全く....!!今度やったら、絶対に許さないけどね!
ろくろっ首は痛む鼻を擦りながら、膝の上に置いた袋の中を早速確認する。
えーと....30文!?
「あんた、馬鹿なのかい!?団子二本が30文もする筈ないだろう!高くしてもせいぜい10文だ!」
「そ、そうなのか?ろく子さんが置いていった代金が30文のようだったから....」
「あんたねぇ....あれはあたしの金だけじゃないよ。他の奴等の支払いと混ぜて金を払っただけだ。じゃなきゃ、不自然に見えるだろう?」
「た、確かに....」
ろくろっ首はある武士様の置いていった代金に交えて団子二本分の代金───8文を支払ったに過ぎなかった。
一つ目はろくろっ首が代金を置いていく場面を目にしなかったので武士様の代金も含めた30文を団子二本分の料金だと勘違いしたのだ。
なんとも言えないお間抜けさんだが、物の値段など気にしたことがない一つ目に分かる筈もない。
むぅ....30文も稼がなくて良かったのか...。
日雇いの仕事で稼げるお金が大体10文前後。
3日働いてようやく食べられる団子を何故人間たちは気軽に買って食べているのかずっと不思議だったが....そういうことだったのか。
これで一つ謎が解けた。
「はぁ....あんたは世間を知らなすぎる。そのうち、悪い奴に騙されるよ。気を付けな」
「う、うむ!気を付けることにしよう!」
.....ろく子さんは...我を騙したりしないのだな。
ろくろっ首は今、一つ目を騙してお金を取ることが出来たのにそれをしなかった。
それは何故か....答えは一つだろう。
ろくろっ首が文句の付けようのない良いあやかしだからだ。
無知な奴を騙すほど楽なことはない。
なのにろくろっ首は無知で騙されやすい一つ目を騙すことなどせず、逆に『悪い奴に騙されないよう気を付けろ』と注意換気までしてくれた。
これを良いあやかしと呼ばず、なんと言う?
ろくろっ首は袋の中から団子二本分の代金───8文だけを受け取り、自身の懐に忍ばせた。
残りは袋の中に入れたまま、袋の口を閉める。
「貸したお金は確かに返してもらった。残りはあんたのだよ」
ろくろっ首は畳から、おもむろに立ち上がると真っ直ぐ一つ目の元へ向かった。
その手には残りの金が入った袋が握られている。
「ほら、受け取りな。この金は正真正銘あんたのものだ。あと、何かを渡すときは緊急時以外、投げずに手渡すこと!良いね!?」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
すぐ目の前に夢にまで見た女性が佇んでいる。
その事実に一つ目は実にたじたじであった。
一つ目はろくろっ首から手渡された袋をギュッと握り締めながら、再度ろくろっ首を見つめる。
おしろいなんか塗らなくても十分白い肌、つり目がちな黒く澄んだ瞳、スッとシャープな鼻、ふっくらとした唇....。
舞妓姿をしたろく子さんも綺麗だったが、やはり....。
「素の方が綺麗だな....」
「!?」
一つ目は淀みのない澄みきった純粋な瞳でろくろっ首を真っ直ぐに見つめる。
嘘なんか微塵も感じられない真っ直ぐな瞳だ。
この不意打ちにはさすがのろくろっ首も堪えたようで....顔を真っ赤にして俯いた。
な、何なんだい!こいつは....!!
口だけの男じゃなかったって訳かい...。
自分は人を見る目がある奴だと思っていたが、どうやらあたしもまだまだみたいだね。
一つ目とろくろっ首の間に束の間の沈黙が流れた。
「ま、まずは金を返そう!」
一つ目は懐に忍ばせていた袋を取り出すと、ろくろっ首目掛けて投げつけた。
一つ目の身の潔白のために説明するが、わざとではない。
一つ目の頭の中に『金を手渡す』という選択肢が思い浮かばなかっただけなのだ。
悪気はない。断じて。
数日前まで他のあやかしと同じく自由奔放な生活を送ってきた一つ目に常識や普通なんて求めても無駄である。
“普通は”金を人に投げつけるなんて危ないことこの上ないので絶対にしないが、不死身の存在であるあやかしの一つ目には危機管理能力が皆無だ。
そのため、金を投げつけることが危険な行為だと理解していなかった。
「あんた!いきなり、何するんだい!?金を投げつけるなんて危ないじゃないか!」
「えっ?あ....す、すまない!!」
一つ目に投げつけられた金の入った袋を顔面で受けたろくろっ首は当然激怒する。
女の顔に傷でもついたら、どう落とし前をつけてくれるんだい!
顔は女の最大の武器だ。特に顔が整った女は、ね。
ろくろっ首は床に無造作に転がった袋を心底嫌なそうな表情をしながらも一応持ち上げた。
顔に物を投げつけられたこと自体は実に腹立たしい出来事だが、悪気があった訳ではないと理解しているため仕方なく袋を持ち上げたに過ぎない。
一つ目が秒で謝罪して来なければ、恐らくろくろっ首はすぐに一つ目を店から追い出していた。
男勝りな性格をしているろくろっ首がそれ以上一つ目を責め立てないのも反省していることを理解しているから。
全く....!!今度やったら、絶対に許さないけどね!
ろくろっ首は痛む鼻を擦りながら、膝の上に置いた袋の中を早速確認する。
えーと....30文!?
「あんた、馬鹿なのかい!?団子二本が30文もする筈ないだろう!高くしてもせいぜい10文だ!」
「そ、そうなのか?ろく子さんが置いていった代金が30文のようだったから....」
「あんたねぇ....あれはあたしの金だけじゃないよ。他の奴等の支払いと混ぜて金を払っただけだ。じゃなきゃ、不自然に見えるだろう?」
「た、確かに....」
ろくろっ首はある武士様の置いていった代金に交えて団子二本分の代金───8文を支払ったに過ぎなかった。
一つ目はろくろっ首が代金を置いていく場面を目にしなかったので武士様の代金も含めた30文を団子二本分の料金だと勘違いしたのだ。
なんとも言えないお間抜けさんだが、物の値段など気にしたことがない一つ目に分かる筈もない。
むぅ....30文も稼がなくて良かったのか...。
日雇いの仕事で稼げるお金が大体10文前後。
3日働いてようやく食べられる団子を何故人間たちは気軽に買って食べているのかずっと不思議だったが....そういうことだったのか。
これで一つ謎が解けた。
「はぁ....あんたは世間を知らなすぎる。そのうち、悪い奴に騙されるよ。気を付けな」
「う、うむ!気を付けることにしよう!」
.....ろく子さんは...我を騙したりしないのだな。
ろくろっ首は今、一つ目を騙してお金を取ることが出来たのにそれをしなかった。
それは何故か....答えは一つだろう。
ろくろっ首が文句の付けようのない良いあやかしだからだ。
無知な奴を騙すほど楽なことはない。
なのにろくろっ首は無知で騙されやすい一つ目を騙すことなどせず、逆に『悪い奴に騙されないよう気を付けろ』と注意換気までしてくれた。
これを良いあやかしと呼ばず、なんと言う?
ろくろっ首は袋の中から団子二本分の代金───8文だけを受け取り、自身の懐に忍ばせた。
残りは袋の中に入れたまま、袋の口を閉める。
「貸したお金は確かに返してもらった。残りはあんたのだよ」
ろくろっ首は畳から、おもむろに立ち上がると真っ直ぐ一つ目の元へ向かった。
その手には残りの金が入った袋が握られている。
「ほら、受け取りな。この金は正真正銘あんたのものだ。あと、何かを渡すときは緊急時以外、投げずに手渡すこと!良いね!?」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
すぐ目の前に夢にまで見た女性が佇んでいる。
その事実に一つ目は実にたじたじであった。
一つ目はろくろっ首から手渡された袋をギュッと握り締めながら、再度ろくろっ首を見つめる。
おしろいなんか塗らなくても十分白い肌、つり目がちな黒く澄んだ瞳、スッとシャープな鼻、ふっくらとした唇....。
舞妓姿をしたろく子さんも綺麗だったが、やはり....。
「素の方が綺麗だな....」
「!?」
一つ目は淀みのない澄みきった純粋な瞳でろくろっ首を真っ直ぐに見つめる。
嘘なんか微塵も感じられない真っ直ぐな瞳だ。
この不意打ちにはさすがのろくろっ首も堪えたようで....顔を真っ赤にして俯いた。
な、何なんだい!こいつは....!!
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