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第一章
その九
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ろくろっ首の心臓がドクンッと大きな音を立てる。
心拍数が上がっていくのを感じながら、ろくろっ首はキュッと手を握り締めた。
こんな世間知らずの冴えない男にあたしは何で....何でこんなにも....ドキドキしているんだろう?
一つ目は自他共に認める世間知らずの無法者だ。
服はそれなりに良いものを着ているが、恐らく金で買ったものではないだろう。
金を稼ぐのは今回が初めての一つ目は当然ながら身に付けている服も今まで食べてきたご飯や菓子も全て盗んだものである。
知らなかったとは言え、罪を犯したことには変わりない。
こいつは盗みを働いた大悪党の筈なのに...嫌いになれない...。
正義感の強いろくろっ首は悪事を働く輩が大嫌いだ。
そう....大嫌いな筈なのに一つ目だけは嫌いになれないろくろっ首。
「....あんたは不思議な奴だね...」
「むっ?なんか言うたか?」
「いや、何でもないよ。それより、用事が済んだなら出ていっておくれ。あたしは店の準備をしなきゃいけないんだ」
も、もう...か?
やっと再会出来たと言うのに....。
一つ目にとっては感動の再会であっても、相手のろくろっ首はそう思っていないかもしれない。
他者との交流をあまり持たなかった一つ目にはろくろっ首がどう思っているかなんて分かる筈もなく....寂しそうに目を伏せるしかなかった。
「....そう、だな...。用事はもう済んだ。帰るとしよう....」
一つ目は淡い寂寥感を抱いたまま、名残惜しそうにろくろっ首へ背を向ける。
その背中は妙に小さく見えた。
もう会うこともなくなるんだろうか...?
我の恋路はもう....終わりを迎えるのか...?
一つ目の淡い恋心は彼の胸を痛いほど締め付ける。
痛い....痛いな....。
恋とはこんなにも....痛いものなのだな。
一つ目は痛む胸を服の上からギュッと押さえながら、出口の方へ一歩踏み出した。
「一つ目小僧....えーと、一つ目で良いかい?今夜にでもまた遊びに来ると良いさ。ここは閑古鳥が鳴き止まない酒屋だ。いつでもおいで。まあ、金は取るけどね」
この店はろくろっ首が一人で切り盛りする酒屋で、彼女は時々訪れる見える人間やあやかしなどの相手をしていた。
朝は料理の仕込み、夕方は化粧やお着替え、夜は開店。
意外と忙しい日々を送っているろくろっ首。
ちなみに舞妓姿になるのはただの彼女の趣味である。
客足は多くないが、時折訪れる客を丁寧にもてなす生活は嫌いじゃないと感じている、ろくろっ首。
店は赤字続きだが、金儲けに興味のない彼女からすれば多少の赤字など問題に含まれなかった。
「あ、ああ!一つ目で構わない!!それより、ろく子さんはまた我と会ってくれるのか!?」
「客としてなら大歓迎だよ。さっきも言ったが、金はきっちり払ってもらうからね」
「ああ、勿論だ!金はきちんと支払おう!」
一つ目は下がっていた瞼を押し上げ、くりくりの目をキラキラと光り輝かせている。
それは小さな子供のようで、とても愛らしく感じた。
そうか!!客として、またろく子さんと会えば良かったのか!!
パワァ!と表情を明るくさせる一つ目につられるようにろくろっ首も頬を緩める。
全く....感情の浮き沈みが激しい奴だな。
目まぐるしく表情が変わる様は幼い子供と同じだ。
一つ目はバッと後ろを振り返ると、大きな目ん玉を嬉しそうに細めた。
「では、また来る!」
「ああ、いつでもおいで」
またろくろっ首と会えるという事実に一つ目は胸を高鳴らせながら、再び彼女に背を向けた。
ろく子さんと会うためには金がいる!また仕事を探さねば!
団子二本で8文もしたのだ。22文など、あっという間に無くなるだろう。
たくさん金を稼いで彼女の元へ通おう。
そうと決まれば.....。
「即行動だぁぁぁああ!!」
大声で何か叫びながら、走り去っていく一つ目の背中をろくろっ首はじっと見つめる。
本当....変な奴だね。
その後、一つ目の生活サイクルは大きく変化し、昼は仕事、夜はろく子さんの待つ店へ足を運ぶという夜行性の生活を送っていた。
最初はその生活になかなか慣れなかったものの、数ヵ月も経てば体が勝手に慣れた。
そんな生活が数十年続き、なかなか告白して来ないヘタレ過ぎる一つ目に痺れを切らしたろくろっ首が渇を入れたお話はまた別の機会に。
心拍数が上がっていくのを感じながら、ろくろっ首はキュッと手を握り締めた。
こんな世間知らずの冴えない男にあたしは何で....何でこんなにも....ドキドキしているんだろう?
一つ目は自他共に認める世間知らずの無法者だ。
服はそれなりに良いものを着ているが、恐らく金で買ったものではないだろう。
金を稼ぐのは今回が初めての一つ目は当然ながら身に付けている服も今まで食べてきたご飯や菓子も全て盗んだものである。
知らなかったとは言え、罪を犯したことには変わりない。
こいつは盗みを働いた大悪党の筈なのに...嫌いになれない...。
正義感の強いろくろっ首は悪事を働く輩が大嫌いだ。
そう....大嫌いな筈なのに一つ目だけは嫌いになれないろくろっ首。
「....あんたは不思議な奴だね...」
「むっ?なんか言うたか?」
「いや、何でもないよ。それより、用事が済んだなら出ていっておくれ。あたしは店の準備をしなきゃいけないんだ」
も、もう...か?
やっと再会出来たと言うのに....。
一つ目にとっては感動の再会であっても、相手のろくろっ首はそう思っていないかもしれない。
他者との交流をあまり持たなかった一つ目にはろくろっ首がどう思っているかなんて分かる筈もなく....寂しそうに目を伏せるしかなかった。
「....そう、だな...。用事はもう済んだ。帰るとしよう....」
一つ目は淡い寂寥感を抱いたまま、名残惜しそうにろくろっ首へ背を向ける。
その背中は妙に小さく見えた。
もう会うこともなくなるんだろうか...?
我の恋路はもう....終わりを迎えるのか...?
一つ目の淡い恋心は彼の胸を痛いほど締め付ける。
痛い....痛いな....。
恋とはこんなにも....痛いものなのだな。
一つ目は痛む胸を服の上からギュッと押さえながら、出口の方へ一歩踏み出した。
「一つ目小僧....えーと、一つ目で良いかい?今夜にでもまた遊びに来ると良いさ。ここは閑古鳥が鳴き止まない酒屋だ。いつでもおいで。まあ、金は取るけどね」
この店はろくろっ首が一人で切り盛りする酒屋で、彼女は時々訪れる見える人間やあやかしなどの相手をしていた。
朝は料理の仕込み、夕方は化粧やお着替え、夜は開店。
意外と忙しい日々を送っているろくろっ首。
ちなみに舞妓姿になるのはただの彼女の趣味である。
客足は多くないが、時折訪れる客を丁寧にもてなす生活は嫌いじゃないと感じている、ろくろっ首。
店は赤字続きだが、金儲けに興味のない彼女からすれば多少の赤字など問題に含まれなかった。
「あ、ああ!一つ目で構わない!!それより、ろく子さんはまた我と会ってくれるのか!?」
「客としてなら大歓迎だよ。さっきも言ったが、金はきっちり払ってもらうからね」
「ああ、勿論だ!金はきちんと支払おう!」
一つ目は下がっていた瞼を押し上げ、くりくりの目をキラキラと光り輝かせている。
それは小さな子供のようで、とても愛らしく感じた。
そうか!!客として、またろく子さんと会えば良かったのか!!
パワァ!と表情を明るくさせる一つ目につられるようにろくろっ首も頬を緩める。
全く....感情の浮き沈みが激しい奴だな。
目まぐるしく表情が変わる様は幼い子供と同じだ。
一つ目はバッと後ろを振り返ると、大きな目ん玉を嬉しそうに細めた。
「では、また来る!」
「ああ、いつでもおいで」
またろくろっ首と会えるという事実に一つ目は胸を高鳴らせながら、再び彼女に背を向けた。
ろく子さんと会うためには金がいる!また仕事を探さねば!
団子二本で8文もしたのだ。22文など、あっという間に無くなるだろう。
たくさん金を稼いで彼女の元へ通おう。
そうと決まれば.....。
「即行動だぁぁぁああ!!」
大声で何か叫びながら、走り去っていく一つ目の背中をろくろっ首はじっと見つめる。
本当....変な奴だね。
その後、一つ目の生活サイクルは大きく変化し、昼は仕事、夜はろく子さんの待つ店へ足を運ぶという夜行性の生活を送っていた。
最初はその生活になかなか慣れなかったものの、数ヵ月も経てば体が勝手に慣れた。
そんな生活が数十年続き、なかなか告白して来ないヘタレ過ぎる一つ目に痺れを切らしたろくろっ首が渇を入れたお話はまた別の機会に。
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