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第一章
その十二
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猛スピードで街を駆け抜けていく一つ目に視線を寄越す者は居ない。
普通、街中を全速力で駆け抜ける者が居れば嫌でも目に止まるものだが、彼があやかしのせいか誰も一つ目に目線を寄越すことはなかった。
あと2分か!!ぬぅ!!微妙だな....!!
現在位置から待ち合わせ場所までの距離はおよそ一キロ。
急げば約束の時間にギリギリ間に合わないでもない。
一つ目は腕時計を睨めっこしながら、今出せる全ての力を足に込めた。
急げ急げ!!
自分にそう言い聞かせながら、更に足を速めた。
一つ目とすれ違った人々は急な強風に眉をしかめる。
特に女性は『前髪が崩れる』と憤怒していた。
いつの時代もお洒落や身嗜みにうるさい女性たち。
だが、そんな女性達の前髪などよりも一つ目には大事なものがある。
一つ目はムッと顔をしかめる女性達など気にせず、街を駆け抜けた。
よしっ!もうすぐ、待ち合わせの場所だ!
待ち合わせ場所の目印である大きな時計塔を目にするなり、フッと表情を緩める一つ目。
再度、腕時計に視線を落とした一つ目は約束の時間まで後一分だと知り、ラストスパートを決めた。
時計塔の真下でトレンチコートに身を包んだ見た目麗しい女性の前に滑り込むと同時に14時を知らせる鐘が時計塔から響いた。
な、なんとかギリギリ間に合った!
滑り込みセーフとは、まさにこのこと。
突然目の前に滑り込んできた人影に目の前に佇む美しい女性は呆れたように笑う。
『全く....』とでも言いたげな表情だ。
「ろ、ろく子さん!お待たせ!」
「ふっ...全く、あんたは...もう少し余裕を持って行動しなさいな」
「う、うむ!善処しよう!」
一つ目の曖昧な返答に呆れたように『はぁ...』と溜め息を付きながらも、緩やかに口角を上げるろくろっ首は暖色系で纏められた春らしいコーデをしていた。
最先端のファッションを取り入れたろくろっ首のコーデとは対照的に一つ目はパーカーとスウェットというラフな格好をしている。
せっかくのプロポーズなんだから身嗜みにも気を付ければ良いのに、と事情を知っている者ならば誰もが思うことだろう。
だが、悲しいかな....一つ目にはプロポーズの件を相談できる友人など居なかった。
指輪と花束を用意するだけで手一杯な一つ目には『身嗜みを整える』という考えは残念ながら思い浮かばなかったらしい。
ろくろっ首は『久々のデートなのにお洒落の一つも出来ないのか』と呆れ返りながらも、『まあ、そこが一つ目らしい』と脳内で自己完結する。
そこでろくろっ首はあることに気がついた。
ん....?この花束は一体なんだい?花びらが随分と少ないようだけど....。
綺麗にラッピングされた花たちは一つ目が猛スピードで街を駆け抜けたせいで花弁が散り散りになっていた。
花束への負担や被害を一切考えず、全力疾走したため、少女の手によって綺麗にラッピングされた花たちは見るも無惨な姿へ早変わりしていた訳だ。
花好きがこの酷い有り様を見れば、発狂するであろう。
それほどにまで、花の状態は悪かった。
「あんた....これ、どうしたんだい?」
「むっ?ああ!これはなっ....って、あれ?何でこんな酷い状態に....あっ!!」
ま、まさか....我が全力疾走したせいで花がこんな状態になったんじゃ....。
早くも正解を導きだした一つ目は『やってしまった!』とばかりに口元を片手で覆う。
花びらが散り散りになるだけなら、まだ良かったが見る限り花の本数も減っているように思える。
恐らく風圧に耐えきれず、落ちてしまったのだろう。
一つ目は自分がやってしまった事の罪深さに目を伏せた。
せっかく、かのんちゃんが一生懸命ラッピングしてくれたと言うのに....。我はなんてことを....。
伏せた瞼を再び開き、見るも無惨な姿へ早変わりした花束に目線を下げる。
花束を台無しにしてしまった事実に一つ目は胸を痛めた。
悪気はないとは言え、少女が丹精込めて作った花束を台無しにしたことに変わりない...。
少女の想いやエールを踏みにじったような気がして、一つ目は猛烈な罪悪感に襲われていた。
突然様子が可笑しくなった一つ目にろくろっ首は困惑するように眉根を寄せた。
一体全体どうしたって言うんだい...?
もしかして、この花束を台無しにしたことに胸を痛めているのかい?
「あんた....これ、私にプレゼントするために買ってきてくれたんだろ?花は駄目になっちゃったけど、あたしは気にしないよ?こういうのは気持ちが大事なんだからさ」
酷く落ち込んだ様子の一つ目を気遣い、励ましの言葉を口にするろくろっ首は優しい。
『気持ちが大事だ』と言い切ったろくろっ首に対して、一つ目はハッと息を呑んだ。
別にろくろっ首の言葉に感動して息を呑んだ訳じゃない。
ろくろっ首が発した『気持ち』という単語から、少女がくれた精一杯のエールとこの花の意味を思い出して、息を呑んだのだ。
そうだ....かのんちゃんは確か....。
『赤のチューリップの花言葉は『愛の告白』と『真実の愛』。そして...ハナミズキの花言葉は『私の想いを受けてください』だよ。大丈夫、貴方の想いは必ず届く。私の花は貴方の背中を必ず押すよ』
愛の告白、真実の愛、私の想いを受けてください.....。
そうだ、我はこの想いを改めてろく子さんに伝えるためにプロポーズしようと思い立ったんだ。
花束を駄目にしてしまったことは残念だが、今はそれを気にしている場合ではない!
かのんちゃんも言っていたじゃないか!
『貴方の想いは必ず届く』と____。
ここで立てなきゃ男じゃない!と自分に言い聞かせ、沈んだ心を奮い立たせた。
一つ目は少女から受けたエールを胸にこちらを心配そうに見つめるろくろっ首を真っ直ぐに見据える。
黒曜石を思わせる黒く澄んだ瞳には強い意志が眠っていた。
普通、街中を全速力で駆け抜ける者が居れば嫌でも目に止まるものだが、彼があやかしのせいか誰も一つ目に目線を寄越すことはなかった。
あと2分か!!ぬぅ!!微妙だな....!!
現在位置から待ち合わせ場所までの距離はおよそ一キロ。
急げば約束の時間にギリギリ間に合わないでもない。
一つ目は腕時計を睨めっこしながら、今出せる全ての力を足に込めた。
急げ急げ!!
自分にそう言い聞かせながら、更に足を速めた。
一つ目とすれ違った人々は急な強風に眉をしかめる。
特に女性は『前髪が崩れる』と憤怒していた。
いつの時代もお洒落や身嗜みにうるさい女性たち。
だが、そんな女性達の前髪などよりも一つ目には大事なものがある。
一つ目はムッと顔をしかめる女性達など気にせず、街を駆け抜けた。
よしっ!もうすぐ、待ち合わせの場所だ!
待ち合わせ場所の目印である大きな時計塔を目にするなり、フッと表情を緩める一つ目。
再度、腕時計に視線を落とした一つ目は約束の時間まで後一分だと知り、ラストスパートを決めた。
時計塔の真下でトレンチコートに身を包んだ見た目麗しい女性の前に滑り込むと同時に14時を知らせる鐘が時計塔から響いた。
な、なんとかギリギリ間に合った!
滑り込みセーフとは、まさにこのこと。
突然目の前に滑り込んできた人影に目の前に佇む美しい女性は呆れたように笑う。
『全く....』とでも言いたげな表情だ。
「ろ、ろく子さん!お待たせ!」
「ふっ...全く、あんたは...もう少し余裕を持って行動しなさいな」
「う、うむ!善処しよう!」
一つ目の曖昧な返答に呆れたように『はぁ...』と溜め息を付きながらも、緩やかに口角を上げるろくろっ首は暖色系で纏められた春らしいコーデをしていた。
最先端のファッションを取り入れたろくろっ首のコーデとは対照的に一つ目はパーカーとスウェットというラフな格好をしている。
せっかくのプロポーズなんだから身嗜みにも気を付ければ良いのに、と事情を知っている者ならば誰もが思うことだろう。
だが、悲しいかな....一つ目にはプロポーズの件を相談できる友人など居なかった。
指輪と花束を用意するだけで手一杯な一つ目には『身嗜みを整える』という考えは残念ながら思い浮かばなかったらしい。
ろくろっ首は『久々のデートなのにお洒落の一つも出来ないのか』と呆れ返りながらも、『まあ、そこが一つ目らしい』と脳内で自己完結する。
そこでろくろっ首はあることに気がついた。
ん....?この花束は一体なんだい?花びらが随分と少ないようだけど....。
綺麗にラッピングされた花たちは一つ目が猛スピードで街を駆け抜けたせいで花弁が散り散りになっていた。
花束への負担や被害を一切考えず、全力疾走したため、少女の手によって綺麗にラッピングされた花たちは見るも無惨な姿へ早変わりしていた訳だ。
花好きがこの酷い有り様を見れば、発狂するであろう。
それほどにまで、花の状態は悪かった。
「あんた....これ、どうしたんだい?」
「むっ?ああ!これはなっ....って、あれ?何でこんな酷い状態に....あっ!!」
ま、まさか....我が全力疾走したせいで花がこんな状態になったんじゃ....。
早くも正解を導きだした一つ目は『やってしまった!』とばかりに口元を片手で覆う。
花びらが散り散りになるだけなら、まだ良かったが見る限り花の本数も減っているように思える。
恐らく風圧に耐えきれず、落ちてしまったのだろう。
一つ目は自分がやってしまった事の罪深さに目を伏せた。
せっかく、かのんちゃんが一生懸命ラッピングしてくれたと言うのに....。我はなんてことを....。
伏せた瞼を再び開き、見るも無惨な姿へ早変わりした花束に目線を下げる。
花束を台無しにしてしまった事実に一つ目は胸を痛めた。
悪気はないとは言え、少女が丹精込めて作った花束を台無しにしたことに変わりない...。
少女の想いやエールを踏みにじったような気がして、一つ目は猛烈な罪悪感に襲われていた。
突然様子が可笑しくなった一つ目にろくろっ首は困惑するように眉根を寄せた。
一体全体どうしたって言うんだい...?
もしかして、この花束を台無しにしたことに胸を痛めているのかい?
「あんた....これ、私にプレゼントするために買ってきてくれたんだろ?花は駄目になっちゃったけど、あたしは気にしないよ?こういうのは気持ちが大事なんだからさ」
酷く落ち込んだ様子の一つ目を気遣い、励ましの言葉を口にするろくろっ首は優しい。
『気持ちが大事だ』と言い切ったろくろっ首に対して、一つ目はハッと息を呑んだ。
別にろくろっ首の言葉に感動して息を呑んだ訳じゃない。
ろくろっ首が発した『気持ち』という単語から、少女がくれた精一杯のエールとこの花の意味を思い出して、息を呑んだのだ。
そうだ....かのんちゃんは確か....。
『赤のチューリップの花言葉は『愛の告白』と『真実の愛』。そして...ハナミズキの花言葉は『私の想いを受けてください』だよ。大丈夫、貴方の想いは必ず届く。私の花は貴方の背中を必ず押すよ』
愛の告白、真実の愛、私の想いを受けてください.....。
そうだ、我はこの想いを改めてろく子さんに伝えるためにプロポーズしようと思い立ったんだ。
花束を駄目にしてしまったことは残念だが、今はそれを気にしている場合ではない!
かのんちゃんも言っていたじゃないか!
『貴方の想いは必ず届く』と____。
ここで立てなきゃ男じゃない!と自分に言い聞かせ、沈んだ心を奮い立たせた。
一つ目は少女から受けたエールを胸にこちらを心配そうに見つめるろくろっ首を真っ直ぐに見据える。
黒曜石を思わせる黒く澄んだ瞳には強い意志が眠っていた。
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