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第一章
その十一
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ど、どうする!?どうする、我ぇ!!
花の本数を減らしてもらうか!?それとも、後払いかツケに出来ないか相談か!?
いや、でももう時間が....!!
待ち合わせ場所までの移動時間を考えても一つ目に残された猶予は残り僅かだ。
ええい!仕方ない!!
花の本数を減らしてもらう時間も、後払いやツケの交渉をする時間もない!
かのんちゃんには申し訳ないが、花束は諦めさせてもらおう!
せっかく、こんな綺麗な花束を作ってもらったのに....本当に申し訳ない!!
一つ目は一円すら出さぬまま財布を閉じ、少女と向き合った。
ここは土下座して許してもらうしかない!
「あのっ!かのんちゃ...」
「...幾ら足りないの?」
「えっ....?」
「お金足りなかったんでしょう?」
「あ、ああ...まあ....」
「だと思ったわ。それで、幾ら足りないの?」
膝をついた状態の一つ目は土下座する気満々だったが、少女の予想外の質問に思わず身動きが止まった。
な、なんだ?いきなり....。
足りなかった金額なんて聞いて、どうするつもりなんだ?
質問の真意がいまいち分からず、おずおずと少女の瞳を見つめるが、スモーキークォーツを思わせる澄んだ瞳は相変わらず無表情で...何の感情も窺えなかった。
元々“察す”ということが苦手な一つ目には常に無表情な少女から何かを感じ取ることなんて土台無理な話だ。
一つ目は生唾をゴクリと飲み込むと、恐る恐るといった様子で足りない金額を口にする。
「じゅ、11円だ....」
「そう、11円ね。分かったわ。11円負けてあげる。だから、この花束を持っていって。貴方がこの花束を買ってくれなきゃ、この花達を買い取ってくれる人は居なくなってしまう....」
「で、でも....」
せっかく負けてくれると言っているのだから、素直に甘えておけば良いものを一つ目は迷うように視線を右往左往させる。
たったの11円でも、かのんちゃんからすれば大事なお金だ。それを『はい、そうですか』と二つ返事で了承出来るほど我は利己的ではない。
この数百年の間にろくろっ首にすっかり毒された一つ目は少女の有り難い申し出に力なく首を振る。
本当は少女の申し出に飛び付きたい一つ目だったが、ここ数百年の間に芽生えた良心が彼を頷かせなかった。
少女はそんな一つ目を何の感情も窺えない無機質な瞳で見下ろしながら、口を開く。
「そんなに11円負けてもらうのが嫌なの?」
「嫌...というわけではないが、申し訳なくてな....」
「そう....。なら、この11円は私からのご祝儀か何かだと思えば良いわ。丁度割りきれない数字だしね」
『ご祝儀』という聞き慣れない言葉に首を傾げるが、結婚特集で見た祝い金のことだと悟った一つ目はハッと顔を上げた。
一つ目の大きな黒い目ん玉に映るのは無表情のまま、こちらを見下ろす一人の少女。
笑顔一つ見せない少女だが、なんとなく自分とろくろっ首の結婚を祝福しているような気がした。
一つ目の胸に何か暖かいものが灯る。
嗚呼....嗚呼....なんて、優しい子なんだろうか?
ろく子さんが何故人間社会にそこまで拘るのか少しだけ分かった気がするよ....。
少女に言い慣れない『ご祝儀』という言葉を使わせた以上、その好意を受け取らない訳にはいかない。
一つ目は再び財布の中身を開くと、全財産である5860円を少女に差し出した。
「かのんちゃん、ありがとう!恩に着る!」
「ええ」
少女は片手で器用に花束を持ち直すと、一つ目の手の平からお金を受け取った。
受け取った金をカウンターに置いたあと、少女は再度花束を持ち直す。今度は両手で。
少女の小さな小さな手には少し大きめの花束が抱えられていた。
一つ目は少女の小さなお手々から花束が落ちてしまわないか不安に駈られながらも、少女が花束を差し出してくるのを待つ。
少女は花の蕾のように愛らしい小さな唇を開くと、一つ目へ花言葉を送った。
「赤のチューリップの花言葉は『愛の告白』と『真実の愛』。そして...ハナミズキの花言葉は─────だよ。大丈夫、貴方の想いは必ず届く。私の花は貴方の背中を必ず押すよ」
「えっ....?あの、かのんちゃ....」
「早く行かないと遅れちゃうよ」
「あっ!!もうこんな時間!!じゃあ、我はこれで失礼する!!」
花の重さにプルプルと腕を震わせながら、一つ目に花束を差し出した少女。
だが、『時間がやばい!』と焦る一つ目は少女のか細い腕など見ていなかった。
脳裏にろくろっ首の激怒する様子を思い浮かべながら、慌てて少女から花束を受け取る。
ぬぅ!!不覚だ!!もう15分しか時間がない!!
一つ目は焦るあまり、少女に礼も言わぬまま花束を持って駆け出した。
向かうは愛しのろくろっ首が待つところ。
待っていてくれ、ろく子さん!すぐに行く!
猛スピードで商店街を駆け抜けていく一つ目を少女は相変わらずの無表情で見届ける。
「プロポーズ、上手くいくと良いね」
スモーキークォーツにも似た瞳に少しだけ光が宿ったような気がした。
花の本数を減らしてもらうか!?それとも、後払いかツケに出来ないか相談か!?
いや、でももう時間が....!!
待ち合わせ場所までの移動時間を考えても一つ目に残された猶予は残り僅かだ。
ええい!仕方ない!!
花の本数を減らしてもらう時間も、後払いやツケの交渉をする時間もない!
かのんちゃんには申し訳ないが、花束は諦めさせてもらおう!
せっかく、こんな綺麗な花束を作ってもらったのに....本当に申し訳ない!!
一つ目は一円すら出さぬまま財布を閉じ、少女と向き合った。
ここは土下座して許してもらうしかない!
「あのっ!かのんちゃ...」
「...幾ら足りないの?」
「えっ....?」
「お金足りなかったんでしょう?」
「あ、ああ...まあ....」
「だと思ったわ。それで、幾ら足りないの?」
膝をついた状態の一つ目は土下座する気満々だったが、少女の予想外の質問に思わず身動きが止まった。
な、なんだ?いきなり....。
足りなかった金額なんて聞いて、どうするつもりなんだ?
質問の真意がいまいち分からず、おずおずと少女の瞳を見つめるが、スモーキークォーツを思わせる澄んだ瞳は相変わらず無表情で...何の感情も窺えなかった。
元々“察す”ということが苦手な一つ目には常に無表情な少女から何かを感じ取ることなんて土台無理な話だ。
一つ目は生唾をゴクリと飲み込むと、恐る恐るといった様子で足りない金額を口にする。
「じゅ、11円だ....」
「そう、11円ね。分かったわ。11円負けてあげる。だから、この花束を持っていって。貴方がこの花束を買ってくれなきゃ、この花達を買い取ってくれる人は居なくなってしまう....」
「で、でも....」
せっかく負けてくれると言っているのだから、素直に甘えておけば良いものを一つ目は迷うように視線を右往左往させる。
たったの11円でも、かのんちゃんからすれば大事なお金だ。それを『はい、そうですか』と二つ返事で了承出来るほど我は利己的ではない。
この数百年の間にろくろっ首にすっかり毒された一つ目は少女の有り難い申し出に力なく首を振る。
本当は少女の申し出に飛び付きたい一つ目だったが、ここ数百年の間に芽生えた良心が彼を頷かせなかった。
少女はそんな一つ目を何の感情も窺えない無機質な瞳で見下ろしながら、口を開く。
「そんなに11円負けてもらうのが嫌なの?」
「嫌...というわけではないが、申し訳なくてな....」
「そう....。なら、この11円は私からのご祝儀か何かだと思えば良いわ。丁度割りきれない数字だしね」
『ご祝儀』という聞き慣れない言葉に首を傾げるが、結婚特集で見た祝い金のことだと悟った一つ目はハッと顔を上げた。
一つ目の大きな黒い目ん玉に映るのは無表情のまま、こちらを見下ろす一人の少女。
笑顔一つ見せない少女だが、なんとなく自分とろくろっ首の結婚を祝福しているような気がした。
一つ目の胸に何か暖かいものが灯る。
嗚呼....嗚呼....なんて、優しい子なんだろうか?
ろく子さんが何故人間社会にそこまで拘るのか少しだけ分かった気がするよ....。
少女に言い慣れない『ご祝儀』という言葉を使わせた以上、その好意を受け取らない訳にはいかない。
一つ目は再び財布の中身を開くと、全財産である5860円を少女に差し出した。
「かのんちゃん、ありがとう!恩に着る!」
「ええ」
少女は片手で器用に花束を持ち直すと、一つ目の手の平からお金を受け取った。
受け取った金をカウンターに置いたあと、少女は再度花束を持ち直す。今度は両手で。
少女の小さな小さな手には少し大きめの花束が抱えられていた。
一つ目は少女の小さなお手々から花束が落ちてしまわないか不安に駈られながらも、少女が花束を差し出してくるのを待つ。
少女は花の蕾のように愛らしい小さな唇を開くと、一つ目へ花言葉を送った。
「赤のチューリップの花言葉は『愛の告白』と『真実の愛』。そして...ハナミズキの花言葉は─────だよ。大丈夫、貴方の想いは必ず届く。私の花は貴方の背中を必ず押すよ」
「えっ....?あの、かのんちゃ....」
「早く行かないと遅れちゃうよ」
「あっ!!もうこんな時間!!じゃあ、我はこれで失礼する!!」
花の重さにプルプルと腕を震わせながら、一つ目に花束を差し出した少女。
だが、『時間がやばい!』と焦る一つ目は少女のか細い腕など見ていなかった。
脳裏にろくろっ首の激怒する様子を思い浮かべながら、慌てて少女から花束を受け取る。
ぬぅ!!不覚だ!!もう15分しか時間がない!!
一つ目は焦るあまり、少女に礼も言わぬまま花束を持って駆け出した。
向かうは愛しのろくろっ首が待つところ。
待っていてくれ、ろく子さん!すぐに行く!
猛スピードで商店街を駆け抜けていく一つ目を少女は相変わらずの無表情で見届ける。
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スモーキークォーツにも似た瞳に少しだけ光が宿ったような気がした。
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