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第二章
その二
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烏天狗が知っている子供とは大きくかけ離れた少女を彼はまじまじと見つめる。
無遠慮にじーっと見つめられているにも関わらず、少女は無表情を崩さない。
普通は初対面の男性に意味もなく、じーっと見つめられれば怪訝そうに顔をしかめるものなのだが、少女は黒曜石の瞳を見つめ返すだけで顔をしかめることはなかった。
変わった餓鬼だな....見た目はそこら辺の子供と大差ねぇって言うのに。
幼い顔立ちも小柄な体も子供特有の甘い香りも全て他の子供と変わらないのに他の子とは似ても似つかない少女。
「お前、親はどうした?」
「両親は海外よ」
親の有無を尋ねてくるこの状況に少女はすっかり慣れてしまっていた。
何故なら、初対面の者には毎回される質問の一つだからだ。
もはやテンプレと化しているこの質問に少女は飽きもせず、答える。
毎日じゃないとは言え、頻繁にされる質問に少女は特に嫌悪感を抱いていないようだった。
まあ、表情に出さないだけで心の中ではどう思っているか分からないが....。
「はぁ!?親が海外ぃ!?」
「そうよ」
「い、いやいやいやいや!なに平然としてんだよ!何で親は海外に居て、お前は日本に居んだよ!」
「このショップを任されたからよ」
普通、こんな小せぇ餓鬼に店なんか頼むか!?
あやかしにしては珍しい常識人である烏天狗。
少女の両親のぶっ飛んだ考えに完全に参ってしまっていた。
ここで少女が嘘をついている可能性を考えないのは彼女がやけに大人びているせいだ。
雰囲気がやけに大人びている少女の発言は成人した大人の発言と同等の信頼と信憑性を誇る。
餓鬼が一人で店を切り盛りなんて土台無理な話だろ。
そもそも、こんな幼い子供が親元を離れて暮らしていること自体間違ってる。
妙に雰囲気が大人びているとは言え、こいつはまだ子供だ。
まだ親が側に居てやらねぇーといけない歳だろ。
烏天狗の言い分は尤もだが、少女の親が海外に居るんじゃ説得のしようもない。
「そうだ!じゃあ、保護者は?親じゃなくて良い!今、てめぇの面倒を見てる大人はどこだ!?」
『保護者』の意味をざっくり説明した烏天狗はスモーキークォーツの瞳に期待の眼差しを向けた。
さすがに保護者は居るだろ。
保護者が在宅だった場合、俺の方から両親を呼び戻すよう、そいつらに説得すれば良い話だ。
世話焼きの烏天狗は親元から離れて生活している少女を哀れに思い、なんとか親を呼び戻せないかと考えていた。
優しいあやかしだが、人はこれを『有り難迷惑』と呼ぶ。
「私の面倒を見ている大人....?」
「そうだ!そいつは今、どこに居るんだ?」
「居ないよ、そんなの...。ここに住んでいるのは私だけ。私の面倒を見る大人なんて居ないわ」
「はっ....?」
保護者が居ない....?嘘、だろ....?
まさか、こんな幼い子供が一人暮らしをしているとでも言うのか!?
自分のことも満足に出来ない年頃の餓鬼を一人暮らしだと!?
雷をその身に食らったような衝撃が烏天狗に走った。
驚きのあまり、言葉を返せずにいる烏天狗を少女は相変わらずの無表情で見つめる。
その茶色がかった瞳からはやはり何の感情も窺えなかった。
淡々と事実だけ述べる少女は機械みたいである。
親元を離れて暮らしているだけでなく、面倒を見てくれる大人も側に居ない....普通の子供は『寂しい』と泣きわめく筈だ。
なのに少女は弱音一つ吐かずにそこに居る。
「なあ....寂しくねぇーのか?」
少女にそう問いかける烏天狗の声は少しだけ震えていた。
あやかしである彼は知っている。
一人の辛さを....孤独の虚しさを....。
基本群れることを好まないあやかしは一人で生活する者が多かった。
一つ目とろくろっ首夫婦のように共に暮らす者は極端に少ない。あの夫婦はあやかし社会の例外であった。
烏天狗の問いに少女はどう答えるべきか迷う。
表情が乏しいのではなく、感情が乏しい彼女には『寂しい』という感情が理解出来なかった。
そのため、なんと答えるべきか迷っているのだ。
『寂しい』という言葉もその意味も知っているが、その感情を体験したことがない少女はどう答えるべきか迷いながらも花の蕾のように愛らしい唇を開く。
「......不便だと感じることはあるけれど、寂しいと感じたことはないわ」
「....そう、か」
子供だからと昼間しか活動できなかったり、小柄な体のせいで上手く道具が使えなかったりと不便は多いが、『寂しい』と感じたことはなかった。
少女の回答に烏天狗はその綺麗な顔を歪める。
心なしか黒い翼が悲しそうに羽と羽を寄せ合っていた。
不便だと感じることはあるけど、『寂しい』と感じことはないか....。
俺よりずっと心か強いじゃねぇーか。餓鬼のくせに生意気だな。
少女を褒めているのか、毒づいているのか分からないが、これが烏天狗の率直な感想であった。
ギュッと胸の辺りを強く握り締める烏天狗を少女は一瞥すると、再びお天道様を見上げる。
雲一つない青空には相変わらず、生き生きとした太陽が強い光と熱を放っているだけであった。
無遠慮にじーっと見つめられているにも関わらず、少女は無表情を崩さない。
普通は初対面の男性に意味もなく、じーっと見つめられれば怪訝そうに顔をしかめるものなのだが、少女は黒曜石の瞳を見つめ返すだけで顔をしかめることはなかった。
変わった餓鬼だな....見た目はそこら辺の子供と大差ねぇって言うのに。
幼い顔立ちも小柄な体も子供特有の甘い香りも全て他の子供と変わらないのに他の子とは似ても似つかない少女。
「お前、親はどうした?」
「両親は海外よ」
親の有無を尋ねてくるこの状況に少女はすっかり慣れてしまっていた。
何故なら、初対面の者には毎回される質問の一つだからだ。
もはやテンプレと化しているこの質問に少女は飽きもせず、答える。
毎日じゃないとは言え、頻繁にされる質問に少女は特に嫌悪感を抱いていないようだった。
まあ、表情に出さないだけで心の中ではどう思っているか分からないが....。
「はぁ!?親が海外ぃ!?」
「そうよ」
「い、いやいやいやいや!なに平然としてんだよ!何で親は海外に居て、お前は日本に居んだよ!」
「このショップを任されたからよ」
普通、こんな小せぇ餓鬼に店なんか頼むか!?
あやかしにしては珍しい常識人である烏天狗。
少女の両親のぶっ飛んだ考えに完全に参ってしまっていた。
ここで少女が嘘をついている可能性を考えないのは彼女がやけに大人びているせいだ。
雰囲気がやけに大人びている少女の発言は成人した大人の発言と同等の信頼と信憑性を誇る。
餓鬼が一人で店を切り盛りなんて土台無理な話だろ。
そもそも、こんな幼い子供が親元を離れて暮らしていること自体間違ってる。
妙に雰囲気が大人びているとは言え、こいつはまだ子供だ。
まだ親が側に居てやらねぇーといけない歳だろ。
烏天狗の言い分は尤もだが、少女の親が海外に居るんじゃ説得のしようもない。
「そうだ!じゃあ、保護者は?親じゃなくて良い!今、てめぇの面倒を見てる大人はどこだ!?」
『保護者』の意味をざっくり説明した烏天狗はスモーキークォーツの瞳に期待の眼差しを向けた。
さすがに保護者は居るだろ。
保護者が在宅だった場合、俺の方から両親を呼び戻すよう、そいつらに説得すれば良い話だ。
世話焼きの烏天狗は親元から離れて生活している少女を哀れに思い、なんとか親を呼び戻せないかと考えていた。
優しいあやかしだが、人はこれを『有り難迷惑』と呼ぶ。
「私の面倒を見ている大人....?」
「そうだ!そいつは今、どこに居るんだ?」
「居ないよ、そんなの...。ここに住んでいるのは私だけ。私の面倒を見る大人なんて居ないわ」
「はっ....?」
保護者が居ない....?嘘、だろ....?
まさか、こんな幼い子供が一人暮らしをしているとでも言うのか!?
自分のことも満足に出来ない年頃の餓鬼を一人暮らしだと!?
雷をその身に食らったような衝撃が烏天狗に走った。
驚きのあまり、言葉を返せずにいる烏天狗を少女は相変わらずの無表情で見つめる。
その茶色がかった瞳からはやはり何の感情も窺えなかった。
淡々と事実だけ述べる少女は機械みたいである。
親元を離れて暮らしているだけでなく、面倒を見てくれる大人も側に居ない....普通の子供は『寂しい』と泣きわめく筈だ。
なのに少女は弱音一つ吐かずにそこに居る。
「なあ....寂しくねぇーのか?」
少女にそう問いかける烏天狗の声は少しだけ震えていた。
あやかしである彼は知っている。
一人の辛さを....孤独の虚しさを....。
基本群れることを好まないあやかしは一人で生活する者が多かった。
一つ目とろくろっ首夫婦のように共に暮らす者は極端に少ない。あの夫婦はあやかし社会の例外であった。
烏天狗の問いに少女はどう答えるべきか迷う。
表情が乏しいのではなく、感情が乏しい彼女には『寂しい』という感情が理解出来なかった。
そのため、なんと答えるべきか迷っているのだ。
『寂しい』という言葉もその意味も知っているが、その感情を体験したことがない少女はどう答えるべきか迷いながらも花の蕾のように愛らしい唇を開く。
「......不便だと感じることはあるけれど、寂しいと感じたことはないわ」
「....そう、か」
子供だからと昼間しか活動できなかったり、小柄な体のせいで上手く道具が使えなかったりと不便は多いが、『寂しい』と感じたことはなかった。
少女の回答に烏天狗はその綺麗な顔を歪める。
心なしか黒い翼が悲しそうに羽と羽を寄せ合っていた。
不便だと感じることはあるけど、『寂しい』と感じことはないか....。
俺よりずっと心か強いじゃねぇーか。餓鬼のくせに生意気だな。
少女を褒めているのか、毒づいているのか分からないが、これが烏天狗の率直な感想であった。
ギュッと胸の辺りを強く握り締める烏天狗を少女は一瞥すると、再びお天道様を見上げる。
雲一つない青空には相変わらず、生き生きとした太陽が強い光と熱を放っているだけであった。
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