あやかし花屋の花売り少女

あーもんど

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第二章

その六

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 二人揃って朝食を終えると、少女は烏天狗を気にかけることなく、店へと出た。
 対する烏天狗は朝食で使ったお椀やお皿、包丁などを慣れた手つきでスポンジで優しく洗う。
 米粒1つ残すことなく朝食を平らげた少女の皿はとても綺麗だった。
 魚の皮や骨以外の残飯はない。
 子供とは思えないほど、使い終わった皿は綺麗だった。
 少女くらいの歳の子は上手く箸を使えないため、食い散らかすことが多い。
 にも関わらず、少女は気品を感じるほどお行儀良くご飯を食していた。
 そーいや、子供が大抵苦戦する箸をあいつは簡単そうに使ってたな。
 少女の皮を被った成人女性なのでは?と思わず疑ってしまうほど、普通の大人と変わらない。
 仕事も家事も一人でこなす時点で普通の子供ではない。
 烏天狗は泡がついた食器を冷たい水で洗い流し、水切り籠へ移す。
 あとはシンクを磨き上げれば食器洗い完了だ。
 酷く綺麗な字で『シンク拭き用』と書かれた白いタオルを手にし、ごしごしと中を拭いていく。
 これはあの餓鬼の字か?
 あいつのくらいの年齢の餓鬼なら、ぐちゃぐちゃな字しか書けない筈だが....。
 均等な大きさで書かれた端正な字は大人顔負けの美字であった。
 悔しいが、俺より字上手いな....。
 流し書きしてしまうことが多い烏天狗の字は読みづらく、初見では読めない人も居るほど。
 英語の筆記体で書かれた文章の日本語バージョンみたいなものである。
 気を付けて慎重に書けば誰にでも分かるような字が書けるが、気を抜くとすぐに繋ぎ字になってしまうのが烏天狗の悩みだったりする。
 こればっかりは根気強く練習し、体に覚えさせるしかない。

「っし!こんなもんか」

 お掃除のプロ並みに綺麗に磨きあげたシンクを見て、満足そうに微笑むと烏天狗は脱衣場にある洗濯機に使用済みのタオルを放り込む。
 全然洗濯物溜まってねぇーな。
 一人暮らしだからという面もあるだろうが、一番の理由は少女の服の大きさにある。
 中身がどんなにも大人びていようと、彼女は小さな女の子に過ぎない。
 服のサイズが小さい分、洗濯物が溜まるのも遅かった。
 洗濯機を回すほどの量でもないので烏天狗はそのままリビングへ戻ってくる。
 殺風景なリビングには食事用とは別のテーブルと三人掛けのソファ、それからやや小さめのテレビしかない。
 見渡す限り“白”が続く空間に烏天狗は息を吐き出した。
 こんな息が詰まりそうなほど白い空間で毎日過ごして....あいつはよく気が滅入らないな。
 俺だったら、無理だ。
 こんな殺風景な場所で一人暮らしなんて....俺だったら、寂しくてしょうがない。

「....なあ?...」

 お前は俺をよく『寂しがり屋の烏さん』と言っていたよな?
 あのときは恥ずかしくて否定したけど....けど、俺はお前の言う通り“寂しがり屋の烏”だ。
 一人が寂しくて....孤独が怖くて....だから、久々に見つけた視える子供に縋りついている。
 俺を一人にしないでくれ、と....幼い子供に縋っているんだ。
 どうだ?情けないだろ?
 それでも.....あの餓鬼の手をどうしても離せなかった。
 一人になるくらいなら、いっそ殺してくれと願うのに....残酷な神様は俺に“永遠”を与えた。
 あやかしではなく、“人”として生を授かったならば....お前の後を追って、すぐに死んでやったのに。
 夏樹....もう一度俺を『寂しがり屋な烏さん』と呼んでくれ。
 沸き上がる恋情と孤独、怒り....それらは全て彼の自殺願望を強めるものだった。
 封印していた筈の想いが溢れだす。

 ───彼の脳裏に過るのは一人の女の笑顔。
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