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第二章
その七
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昔話をしよう。
永遠を約束された寂しがり屋の烏と“死”を確約された一人の少女の悲しい恋物語。
時は200年前の日本。
江戸が栄える時代────そこで烏と少女は出逢った。
杉の大木の木陰で休む男性が一人。
背中に黒い翼を持ち、永遠を約束された種族である彼は、名を烏天狗と言った。
烏のような黒い翼を持ち、空中を飛翔する彼は現在長旅に疲れて休んでいるところだ。
永遠を約束された彼は持て余した暇を旅をすることによって潰していた。
彼のように旅を好むあやかしは意外と多い。ずっと同じ場所に留まる奴も居るが、暇をもて余す彼らは刺激を求めて放浪する者が多かった。
旅をしていれば暇をすることは少ない。
彼らが求める刺激があるかどうかはさておき、暇をする心配はなかった。
だから、彼らは旅を好む。
中には海外にまで足を伸ばすほど旅好きな奴も居る。
烏天狗はそこまでじゃないが、旅は好きだった。
はぁ.....江戸の街は疲れる。
人を避けて歩かないと、いらぬトラブルを引き起こしてしまうからだ。
例えば烏天狗が誰かがぶつかったとしよう。
ぶつかった人は当然“誰と”ぶつかったか気になり、振り返る筈だ。
だが、ぶつかった本人である烏天狗は大抵の人の目には移らないため、必然的に見える範囲内で一番近い人間をぶつかってきた犯人だと断定する。
温厚な人なら、何も言わず立ち去るがそうでない人も居るわけで....。
『ぶつかってきた』『謝れ』と騒ぐ奴も居るだろう。
だが、犯人だと断定された相手からすればそれは濡れ衣で、まったくの嘘っぱちだ。
たまたま側に居ただけなのに冤罪を吹っ掛けられれば相手も黙っていない。
喧嘩になるのは目に見える。
烏天狗に実質的な被害はないが、自分のせいで騒動を引き起こすのは気分が悪い。
そのため、人が密集する場では肩がぶつからないよう人を避けて歩くか、人々の頭上を飛ぶかしていた。
前みたいに子供の首が跳ねるところは見たくねぇーからな...。
実はこの前、武士にぶつかってしまい激昂した武士が近くに居た子供を犯人と定め首を切り捨てたのだ。
気を付けてはいたんだが....いや、それは言い訳に過ぎないか。
言い訳なんて俺らしくないと自らを嘲り、頭を振る。
自嘲にも似た苦笑が漏れた。
「あらあら、暗い顔してどうしたんです?せっかくの綺麗な顔が台無しだわ」
人影が一つ、烏天狗の前に止まった。
俯いた状態の烏天狗の目には艶やかな黒髪が映る。
長い黒髪と女性用の着物。
若葉色の上等な布で織られた着物のおかげで、相手が高貴な身分の者だと一目で分かる。
どっかの城の姫か....?それとも、商人の娘だろうか?
男尊女卑を掲げる日本で、これほど上等な布地で作られた着物を着れる女性は少ない。
女性の多くは毎日奴隷のように働かされていた。過労で倒れる者もしばしば。
烏天狗はゆっくりと視線をあげる。
どっかのお偉いさんの娘か嫁だろう。
はぁ....んな奴の相手なんざ御免だぜ。
高貴な身分にある者は男女問わず、高飛車で偉そうな奴が多い。
そんな者達を多く見てきたせいか、烏天狗の中で身分の高い者への評価は極めて低かった。
ゆっくりと焦らすように顔を上げた烏天狗は思わず、溜め息を溢す。
大量のそばかすに荒れた唇、一重の小さい目。
化粧である程度カバーしているため、そばかすや唇の荒れは近くで見なければ分からないが、目の前の少女はお世辞にも『綺麗』とは言えない容姿をしていた。
これはまた....なんていうか、地味な顔立ちの女だな。歳は10後半と言ったところか?随分と若い女だ。
烏天狗が少女に抱いた最初の感想はこの程度のもの。
後に自分の人生を大きく変える運命の人だと知らず、烏天狗は素っ気ない返事を返した。
「良いとこの娘が俺に何の用だ?」
「用ってほどでもないけど....ちょっと気になって。暗い顔をしていたし」
そんな下らない理由で俺に話し掛けてきたのか?
良いとこの娘がわざわざ話し掛けてくるもんだから、なんか深い理由でもあるのかと思ったんだが.....。
少女の幼さが残るあどけない表情からは嘘っぽさは感じられない。
「そうか。俺の顔は元々こんなんだ。心配して来てくれたとこ、悪いがな。用件はそれだけか?なら、俺はもう行くぞ」
人間に関わるとろくなことがない。
昔の苦い思い出を思い浮かべながら、烏天狗は立ち上がる。
ついた土や葉っぱを手で払い落とし、さっさとこの場を去ろうとした....が、目の前に娘にガシッと腕を掴まれた。
それはもう凄い力で。
雌ゴリラか?と一瞬本気で疑ってしまうほど、彼女の力は強かった。
「ま、待って!」
「あー?」
少女の計り知れない握力によってミシミシと烏天狗の腕が悲鳴をあげる。
いってぇーな!くそっ!
こいつ、本当に女か?
やけに力の強い少女は骨が軋む音など気にする様子がない。
おい、誰かこいつを引っぺがしてくれ。
烏天狗は切に願う_____....力を緩めてくれ、と。
永遠を約束された寂しがり屋の烏と“死”を確約された一人の少女の悲しい恋物語。
時は200年前の日本。
江戸が栄える時代────そこで烏と少女は出逢った。
杉の大木の木陰で休む男性が一人。
背中に黒い翼を持ち、永遠を約束された種族である彼は、名を烏天狗と言った。
烏のような黒い翼を持ち、空中を飛翔する彼は現在長旅に疲れて休んでいるところだ。
永遠を約束された彼は持て余した暇を旅をすることによって潰していた。
彼のように旅を好むあやかしは意外と多い。ずっと同じ場所に留まる奴も居るが、暇をもて余す彼らは刺激を求めて放浪する者が多かった。
旅をしていれば暇をすることは少ない。
彼らが求める刺激があるかどうかはさておき、暇をする心配はなかった。
だから、彼らは旅を好む。
中には海外にまで足を伸ばすほど旅好きな奴も居る。
烏天狗はそこまでじゃないが、旅は好きだった。
はぁ.....江戸の街は疲れる。
人を避けて歩かないと、いらぬトラブルを引き起こしてしまうからだ。
例えば烏天狗が誰かがぶつかったとしよう。
ぶつかった人は当然“誰と”ぶつかったか気になり、振り返る筈だ。
だが、ぶつかった本人である烏天狗は大抵の人の目には移らないため、必然的に見える範囲内で一番近い人間をぶつかってきた犯人だと断定する。
温厚な人なら、何も言わず立ち去るがそうでない人も居るわけで....。
『ぶつかってきた』『謝れ』と騒ぐ奴も居るだろう。
だが、犯人だと断定された相手からすればそれは濡れ衣で、まったくの嘘っぱちだ。
たまたま側に居ただけなのに冤罪を吹っ掛けられれば相手も黙っていない。
喧嘩になるのは目に見える。
烏天狗に実質的な被害はないが、自分のせいで騒動を引き起こすのは気分が悪い。
そのため、人が密集する場では肩がぶつからないよう人を避けて歩くか、人々の頭上を飛ぶかしていた。
前みたいに子供の首が跳ねるところは見たくねぇーからな...。
実はこの前、武士にぶつかってしまい激昂した武士が近くに居た子供を犯人と定め首を切り捨てたのだ。
気を付けてはいたんだが....いや、それは言い訳に過ぎないか。
言い訳なんて俺らしくないと自らを嘲り、頭を振る。
自嘲にも似た苦笑が漏れた。
「あらあら、暗い顔してどうしたんです?せっかくの綺麗な顔が台無しだわ」
人影が一つ、烏天狗の前に止まった。
俯いた状態の烏天狗の目には艶やかな黒髪が映る。
長い黒髪と女性用の着物。
若葉色の上等な布で織られた着物のおかげで、相手が高貴な身分の者だと一目で分かる。
どっかの城の姫か....?それとも、商人の娘だろうか?
男尊女卑を掲げる日本で、これほど上等な布地で作られた着物を着れる女性は少ない。
女性の多くは毎日奴隷のように働かされていた。過労で倒れる者もしばしば。
烏天狗はゆっくりと視線をあげる。
どっかのお偉いさんの娘か嫁だろう。
はぁ....んな奴の相手なんざ御免だぜ。
高貴な身分にある者は男女問わず、高飛車で偉そうな奴が多い。
そんな者達を多く見てきたせいか、烏天狗の中で身分の高い者への評価は極めて低かった。
ゆっくりと焦らすように顔を上げた烏天狗は思わず、溜め息を溢す。
大量のそばかすに荒れた唇、一重の小さい目。
化粧である程度カバーしているため、そばかすや唇の荒れは近くで見なければ分からないが、目の前の少女はお世辞にも『綺麗』とは言えない容姿をしていた。
これはまた....なんていうか、地味な顔立ちの女だな。歳は10後半と言ったところか?随分と若い女だ。
烏天狗が少女に抱いた最初の感想はこの程度のもの。
後に自分の人生を大きく変える運命の人だと知らず、烏天狗は素っ気ない返事を返した。
「良いとこの娘が俺に何の用だ?」
「用ってほどでもないけど....ちょっと気になって。暗い顔をしていたし」
そんな下らない理由で俺に話し掛けてきたのか?
良いとこの娘がわざわざ話し掛けてくるもんだから、なんか深い理由でもあるのかと思ったんだが.....。
少女の幼さが残るあどけない表情からは嘘っぽさは感じられない。
「そうか。俺の顔は元々こんなんだ。心配して来てくれたとこ、悪いがな。用件はそれだけか?なら、俺はもう行くぞ」
人間に関わるとろくなことがない。
昔の苦い思い出を思い浮かべながら、烏天狗は立ち上がる。
ついた土や葉っぱを手で払い落とし、さっさとこの場を去ろうとした....が、目の前に娘にガシッと腕を掴まれた。
それはもう凄い力で。
雌ゴリラか?と一瞬本気で疑ってしまうほど、彼女の力は強かった。
「ま、待って!」
「あー?」
少女の計り知れない握力によってミシミシと烏天狗の腕が悲鳴をあげる。
いってぇーな!くそっ!
こいつ、本当に女か?
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