あやかし花屋の花売り少女

あーもんど

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第二章

その十四

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 数えるのが億劫になるほど長く生きた人生の中で恐らくこんなにも後悔したのは今回が初めてだったと思う。
 俺は初めて誰かのために涙を流した。
 夏樹の笑顔も笑い声も全部、目を瞑れば鮮明に思い出せるのに....俺の愛したお前はもうこの世に居ない。
 その事実がどうしようもなく、俺の胸を締め付けた。
 喉の奥に何かが引っ付いて、上手く言葉が出てこない。
 頭も心もぐちゃぐちゃで何も考えられねぇーんだ....すげぇ女々しいだろ?
 なあ、夏樹....頼むから、もう一回だけ...俺を『寂しがり屋の烏さん』と呼んでくれ。
 その耳に馴染む高い声で俺を....呼んでくれよ。
 最愛の人を失った烏天狗の悲しみは深く、彼は胸を引き裂かれるような痛みに再び涙を溢した。
 夏樹の首元の引っ掻き傷を手でなぞり、優しく撫でる。
 恐らくこの傷は毒に苦しむあまり、首を掻きむしった時についたものだろう。
 痛かったよな.....辛かったよな....苦しかったよな?
 ごめんな、助けに来てやれなくて....お前をここから奪い去ることが出来なくて...。

「ごめんっ.....本っ当にごめんなっ....!」

 何度謝っても足りない。
 どれだけ謝罪の言葉を口にしようと、地におでこを擦り付けて懺悔しようと罪悪感や後悔は拭いきれない。
 烏天狗は化粧を剥ぎ取った夏樹の素顔を目に焼き付けるように凝視した。
 唇の形やほくろの位置でさえも忘れぬよう目に焼き付ける。
 この夏樹の遺体を目にしたときから、烏天狗は決めていたことがあった。

 ────この遺体は俺が責任もって埋葬する。

 そう、遺体の処理についてだ。
 夏樹を売った父親や夏樹を殺した奴が居る後宮の連中に俺の女の埋葬はさせたくない。
 簡易的な墓になるだろうが、最期くらい俺の手で送り出してやりたい。
 人間社会のシステムなど興味がなかった烏天狗だが、愛する女の遺体の埋葬は自分で行いたかった。

「生前のお前は奪い去れなかったが、お前の魂が入っていた身体うつわは奪い去っていくぞ....」

 こんな暗くて冷たい場所....一緒に出よう、夏樹。
 烏天狗が今、夏樹にしてやれることはただ一つ。ここから夏樹の遺体を奪い去り、丁寧に心を込めて埋葬してやること。それだけだ。
 己の出来ることの少なさに歯痒さを感じながらも、烏天狗はそっと夏樹の遺体を抱き上げる。生前の彼女が何度も烏天狗に強請ったお姫様抱っこで。

「行こう、夏樹....もう二度と離さなねぇーから」

 当然返事は返ってこない。
 烏天狗は返事のない屍にキスを一つ落とし、牢屋のような部屋から夏樹の遺体と共に脱出した。



 その後、烏天狗は夜遅くに想い出の場所である杉の木の根元に穴を掘り、夏樹の遺体をそこに埋めて埋葬したと言う。
 その日から杉の木の下では夜な夜な啜り泣く男の霊が出ると噂になったとか、ならなかったとか....。
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