あやかし花屋の花売り少女

あーもんど

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第二章

その十六

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 作業を開始してから丁度一時間が経過した頃、ろくろっ首・一つ目小僧夫婦が店を訪れてきた。
 お揃いのペアルックに身を包んだ二人は相変わらず仲が良い。
 夫婦になってからはお揃いの洋服で出掛けることが多くなった気がする。

「たっのもー!かのんちゃんは居るかー!?」

「ちょっと、あんた!少しは静かに出来ないのかい?」

 すぐそこに少女が居ると言うのにわざわざ大声で少女を呼ぶ一つ目をろくろっ首は横から小突いた。
 これでは夫婦ではなく、親子に見える。
 一つ目の子供っぽさも今も健在らしい。
 『かのんちゃん、いつも一つ目がわるいねぇ...』と頭を下げるろくろっ首に少女は緩く首を振った。

「一つ目小僧さんがうるさいのは元からだもの。気にしてないわ」

 一つ目をフォローするかと思いきや、とどめを刺した少女。
 一つ目は少女の辛辣且つ素直な言葉にもはや涙目である。
 ぐぬぬぬ....!かのんちゃんは我のこと、そんな風に思っておったのか.....。
 良くも悪くも素直な子供の発言は時に大人を傷付ける....。
 大きな目ん玉の両端に涙を浮かべる一つ目は実に情けない。
 そんな一つ目を見て、ろくろっ首は苦笑を浮かべるだけで慰めるつもりはないみたいだ。
 これで少しは成長してくれれば良いんだけどねぇ...。
 子供っぽい一つ目ももちろん大好きなろくろっ首だが、それにだって限度はある。
 何百歳も年下の幼女に『うるさいのは元から』と言われている時点で完璧アウトだ。
 是非とも、これを機に成長してほしいものである。

「あー?客かー?」

「ええ、そうよ。私が対応するから、そのまま作業を続けておいて」

「あーん?無愛想なてめぇに接客なんて出来んのか?」

 言い方は悪いが、烏天狗なりに少女を気遣っての発言だった。
 コミュニケーション能力が非常に低い少女を心配し、自分が接客をしようと考えたのだ。
 その気遣いや考えは素晴らしいものだが、言い方がアウトである。
 こんな言い方をされれば、大抵の人は『なんだ、こいつ...』と怒りを通り越して引いてしまう筈だ。
 だが....普通からかけ離れた存在である少女は烏天狗の失礼すぎる発言に気にした様子がない。
 どこまでも無表情で....そして、淡々と言葉を返した。

「なら、貴方が接客出来るの?」

「おう!任せとけ!俺の手に掛かれば接客なんて、ちょちょいのちょ....」

「お客様の希望に基づいて、最高の花を共に選び提供することが出来るのね?」

「客の希望....?まあ、なんとかなるんじゃねぇーか?」

「そう。じゃあ、貴方はもある程度覚えているのね?なら、任せるわ」

「い、いや!ちょっと、待って!花言葉なんて知らねぇーよ!」

 花屋での接客において、必要なのは花に対する知識だ。
 花の手入れに関する知識はもちろん、花言葉なんかも覚えていなくてはならない。
 花言葉を元に花を選ぶ人が格段に多いためだ。
 例えば、大好きで仕方ない恋人が居たとしよう。そんな人に『失われた愛』という花言葉を秘める白のチューリップをあげる者は居ないと思う。
 最近ではネットも流通してきて簡単に花言葉を調べることが出来るので、花言葉もよく考えた上で花を選ばなければ相手に要らぬ誤解や不安を与えてしまう可能性がある。
 そのため、花言葉に対する知識も花屋の接客をする上である程度知っておかなければならなかった。
 が....当然ながら、烏天狗は花言葉に対する知識などある筈なく....。
 結局少女に任せるしかなかった。
 あそこまで上から目線で『接客は俺がやる』と言っておきながら、情けない。

「だと思ったわ。やっぱり、接客は私がやった方が良さそうね。貴方は作業に戻ってて」

「....チッ!分かったよ!」

 烏天狗は恥ずかしさを誤魔化すように大きく舌打ちすると、作業に戻っていった。
 その背中を見送り、少女は再度ろくろっ首・一つ目小僧夫婦に向き直る。
 烏天狗の態度の悪さについて特に咎める気はないらしい。気にした様子もない。

「かのんちゃん、大丈夫かい?あのバイトの男....大分柄が悪いみたいだけど」

「大丈夫よ。悪い人じゃないわ」

「そ、そうかい....?」

「ええ。態度が少し悪いだけで悪い人じゃないわ。料理も美味しいし」

 少女の発言は正しいのだが....最後の一言はいらなかった気がする。
 ろくろっ首は料理のうまさで善悪を判断する少女に本気で将来が心配になった。
 かのんちゃんの将来が不安になってきたよ...変な男に引っ掛からないと良いけどねぇ...。
 店の奥の方で花の様子を見て回る烏天狗を一瞥し、ろくろっ首は少女と目線を合わせるようにその場にしゃがみこんだ。

「まあ、かのんちゃんが大丈夫って言うなら信じるよ。それで早速なんだけど、花を選んでほしいんだ」

「どんな花がほしいの?」

「そうだねぇ....あたし達、これから昔世話になった人間達の墓に墓参りに行くんだけどさ....それに持っていく花を選んでほしいんだよ」

「そう....。今日はお盆最終日だものね」

 そう____....今日はお盆の最終日。
 ろくろっ首と一つ目小僧も人間社会の行事に習って、毎年お墓参りを行っていた。
 普段はお菓子を幾つか並べるだけなのだが、花音と知り合ったことにより今年は花束を持っていこうと言う話になったのだ。
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