悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第一章

疾風

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◇◆◇◆

 よし、眠ったな。

 スースーと規則正しい寝息を立てるジークに目を向け、私は『ふぅ……』と息を吐き出す。
こいつは放っておくと、いつまでも仕事をするため気が抜けないのだ。
『私以外の者が近寄ると、直ぐに起きるし』と辟易しつつ、防音魔法や結界魔法を展開した。
風魔法を駆使してカーテンも締め切り、睡眠に適した環境を作る。

 全く、世話の焼けるやつだ。
どうして、自分を労ることが出来ないんだか……真面目なのはいいことだが、ここまで極端だと欠点にもなり得るな。

 やれやれとかぶりを振り、私はおもむろに立ち上がる。
その際、目元に当てた手を取っ払ったからかジークが『ん……』と身じろぎするものの、何とかセーフ。
しっかり寝ていることを確認し、私は僅かに肩の力を抜く。
と同時に、自室へ転移した。
一瞬で変わった景色に大して驚くこともなく、ソファへ移動し、腰を下ろす。

「────それで、貴様らは私に何の用だ?」

 一見、誰も居ない────ように見える室内で、私は質問を投げ掛けた。
すると、床や天井から黒ずくめの奴らがゾロゾロと姿を現す。

「やっぱり、バレていたか」

 そう言って、私の前にやってきたのは────ギャレット一家惨殺の際、世話になった暗殺集団の一人。
直接言葉を交わしたリーダー格の男、と言えば分かるだろうか。

「バレるも何も、隠す気なんて元々なかっただろ」

「まあな。うっかり、敵と勘違いされたら困るし」

 呆気からんとした様子で肩を竦め、リーダー格の男はガシガシと頭を搔く。
その拍子に揺れる赤髪を前に、私はゆるりと口角を上げた。

「それより、何でまだここに居るんだ?」

 『国外逃亡したんじゃないのか?』と遠回しに問うと、リーダー格の男は首の後ろに手を回す。

「他所には、どうも馴染めなくてね。俺達にはやっぱり、ここが一番だ。それに俺達を追う者は、もう居ないだろう?」

 ギャレット一家と皇室の滅亡を指摘し、リーダー格の男は『なら、もう逃げる理由ないし』と述べた。
尤もな言い分を振り翳す彼に、私は小さく相槌を打つ。

「確かにそうだな。でも────何故、わざわざ私の前に現れたんだ?まさか、ただ挨拶しに来た訳ではないだろう?」

 『貴様らはそこまで礼儀正しいやつじゃない』と断言し、相手の出方を伺った。
すると、彼は案外素直に

「ああ」

 と、首を縦に振る。
随分と潔い反応を見せる彼は、後ろに控える部下達へ目配せしてからこちらに向き直った。
かと思えば、サッと跪く。部下達も一様に。

「回りくどいのは面倒だから、単刀直入に言わせてもらう。俺達を────お前の下に置いてくれ」

 『雇ってほしい』と申し出たリーダー格の男に、私は内心首を傾げる。
『正気か?』と相手の精神状態を気にしつつ、怪訝な表情を浮かべた。

「何故だ?貴様らは愚かな使用人達と違って、私の本質をよく理解しているだろう?」

 『危険人物であることは分かっている筈だ』と述べると、彼は小さく頷く。

「ああ、分かっている。お前が足の爪先から、頭のてっぺんまで悪に染まり切った人間であることは。でも────」

 そこで一度言葉を切り、リーダー格の男は自信ありげに笑った。

「────お前は善人を甚振って、悦に浸るようなクズじゃないだろ。ちゃんと自分の中でルールを確立し、それに沿った行動を取っている。高潔な悪だ」

 『下劣な犯罪者とは違う』と断言し、真っ直ぐにこちらを見据える。
どことなく無邪気な印象を受ける眼差しに、私はスッと目を細めた。
『随分と好意的な解釈だな』と鼻で笑い、一先ず話の先を促す。

「つまり、お前のルールに従っている間は……支配下に置かれている間は、安全。いや、むしろ贅沢出来る。お前は自分のモノにひもじい思いをさせたり、我慢させたりすることを嫌う人種だから」

「何故、そう思う?」

「下々の苦悩は、己の恥だと思っているからだ。実際、自分側の人間には寛大な措置を行っているだろ」

 『給金とか、待遇とか』と具体例を並べ、リーダー格の男は青い瞳に自信を宿す。
『自分の見解に間違いはない』と確信している様子の彼に、私は思わず笑みを漏らした。

「くくっ……!小童が。知ったような口を」

 『生意気だな』と言い、私はソファから立ち上がる。
その途端、場に緊張が走るが……リーダー格の男をはじめ、全員大人しくしていた。
私の中にある『高潔な悪』とやらを信じているのか、誰一人として殺気も敵意も放たない。
ただじっとこちらを見つめているだけ。

 阿呆共めが……もっと警戒心を持て。
無防備にも程があるぞ。
肉食動物の前で、腹を出して寝ているようなものだと気づけ。

 『得体の知れない化け物を相手にしている自覚があるのか』と呆れつつ、私は手を伸ばす。
ハッと息を呑むような音が聞こえたが、私は気にせず────リーダー格の男の肩を叩いた。

「少々思うところはあるが、まあ気に入った。貴様らを雇おう」

「「「!!」」」

 殺されなかったことに安堵したのか、それとも色良い返事を貰えたことに歓喜したのか……彼らは表情を和らげる。
なんなら、涙ぐむ者まで居た。

 全く……大袈裟だな。

 『どういう反応をされると思っていたんだ』と溜め息を零し、私はソファに腰掛ける。

「それじゃあ、早速仕事をやるから必要な情報を全部出せ」

 クイクイと人差し指を動かし、私は『寄越せ』とアピールした。
すると、リーダー格の男は笑いながら口を開く。

「オーケー。まず、俺達の組織のことから話していく」

 そう前置きしてから、彼はゆっくりと説明を始めた。

「俺達は裏じゃ、そこそこ名の知れた『疾風』のメンバー。ちなみに俺────アランがリーダーな。んで、今ここに居る部下は精鋭部隊の奴ら」

 何を示しているのか順番に指さし、アランは『まあ、メンバー紹介はおいおい』と後回しにする。
きっと、人数が多いからだろう。

「メンバーの総数は非戦闘要員も含めて、百人程度だ」

「百人?桁を一つ間違えてないか?」

 思わず口を挟んでしまう私に対し、アランは苦笑を零した。

「ウチは孤児なんかも居るから、人数だけは多いんだよ。実際に仕事出来るのは、半数以下だけどな」

「それだと、ちょっと生活が苦しくないか?いずれ仕事出来るよう、教育するにしても子供の数が……」

「あー、違う違う。俺達は別に戦闘要員を確保するため、孤児を拾っている訳じゃない」

 『小さい頃から英才教育を受けさせて~とかじゃないから』と言い、アランは胸の前で手を振る。
困ったような表情を浮かべるアランに疑問を抱いていると、彼は『はぁ……』と大きな溜め息を零した。

「実は俺達さ、全員元々孤児だったんだよ。だから、同じような境遇のやつを見ると放っておけないっつーか……いや、偽善なのは分かっているんだ。俺達みたいな荒くれ集団に関われば、もう光の道を歩むことは出来ない。でもさ、明日どうなるかも分からない子供を見捨てるような真似だけはしたくなかった」

 観念したように吐き出したアランの本音は、酷く暗く……罪悪感が滲み出ている。
『自分達のような人間が手を差し伸べて、ごめん』と……『英雄ヒーローじゃなくて、ごめん』と思っているのだろう。

 私からすれば、くだらない葛藤悩みだが。
だって、『助けた』という結果は変わらないのだから。

 『まだまだ青いな』と笑い、私は肘掛けに体重を載せた。

「ならば、貴様らの庇護下にある者達も含めて面倒を見てやる」

「「「!!」」」

 ハッとしたように顔を上げ、アラン達は硬直した。
動揺のあまり目を白黒させる彼らの前で、私はチラリと窓の外を見る。

「裏手にある離宮を使え。そこは現在、使われていない。とはいえ、盗人が入るかもしれないから関係者以外、入れないよう結界を張ってやろう」

 『部屋割りも内装も全部好きにしろ』と告げると、アランが僅かに身を乗り出した。
不安と期待の籠った目でこちらを見つめ、ゴクリと喉を鳴らす。

「い、いいのか……?」

「ああ。ただし、管理はしっかりしろよ。子供達でも使ってな」

 『幼くても、掃除や洗濯くらい出来るだろ』と言い、遠回しにメンバー全員の入居を許可した。
その途端、アランはガバッと勢いよく頭を下げる。

「ありがとう……本当にありがとう!」

 床に額を擦り付けながら、アランは心からの感謝を述べた。
『一生ついていきます!』と改めて決意表明する彼に、私は一つ息を吐く。
『いや、単純すぎるだろ』と。
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