悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第一章

任務

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 本当に、なんというか……ここの世界のやつらはチョロいな。

 『詐欺でもしたら、大儲けしそうだ』と考えつつ、私は足を組んだ。

「とりあえず、貴様らのことは大体分かった。早速任務を与えるから、そっちで適当に役割分担してことに当たれ」

「「「はっ!」」」

 ようやく私の下についた実感が湧いてきたのか、それとも待遇に気を良くしたのか……『疾風』のメンバーはこうべを垂れる。
随分とお利口になった彼らの前で、私は銀髪を耳に掛けた。

「任務は全部で三つだ。一つ目、アルバート家の屋敷の警備。これには、使用人の護衛も含まれている。というか、そっちがメインだ」

 『今一番無防備なのは、屋敷の使用人だからな』と話し、私はソファの背もたれに寄り掛かる。

「こちらに連れて来れれば、私の方で守ってやれるんだが、そのうち首都と住居をあっちに移す予定でな。ここは仮住まいなんだ」

 『だから、敢えて使用人達は置いてきた』と語り、私はゆるりと口角を上げた。

「諸々の手続きと城の建築が終わり次第、アルバート領へ引っ越すから心に留めておけ。貴様らも連れていくつもりだからな。無論、『疾風』専用の住居は別で用意する。安心しろ」

 居場所を与えるつもりであることを明かすと、彼らはホッとしたように息を吐き出す。
人数が人数なので、使用人達と同じ屋根の下というのは避けたかったのだろう。
『そんなの使用人の方だって、困るしな』と考えていると、アランが不意に顔を上げた。

「ちなみに引っ越した後の旧皇城って、どうするんだ……じゃなくて、ですか?」

 しっかり立場を弁え敬語に言い直す彼に対し、私はこう答える。

「破壊する手筈になっている」

「は、破壊……」

「ああ。こんなものが残っていたら、いつまでもヴァルテン帝国のことを忘れられないだろう?」

 コンコンッと踵で床を叩き、私は不敵に笑う。
『歴史も吹き飛ばす勢いで派手にやるつもりだ』と語り、身を起こした。
『ひぇ~!勿体ねぇ~』と零すアランを他所に、私はプラプラと足を揺らす。

「それで、話を戻すが」

 おもむろに背筋を伸ばし、私はアラン達を見下ろした。
『無駄話はここまでだ』と言葉でも態度でも示し、口を開く。

「貴様らに与える任務、その二つ目を発表する。ずばり────ジークの監視だ」

「はっ?何で?」

 素で聞き返すアランは、パチパチと瞬きを繰り返す。
『もしや、不仲?』と問う彼に、私はヒラヒラと手を振った。

「恐らく、貴様の考えているような監視じゃないぞ」

「えっ?」

「私が案じているのは、ジークの裏切りじゃなくて────体調面のことだ」

「……ますます、意味が分からないんですが」

 怪訝そうな表情を浮かべて、アランはコテリと首を傾げた。
『何がどうして、そうなった?』と瞬きを繰り返す彼に、私は一つ息を吐く。

「ジークのやつ、放っておくと永遠に仕事しているんだ。今日だって、半ば強引に寝かせたんだぞ」

「はあ……」

「でも、私は常にジークを気に掛けてやれるほど暇じゃない。そこで貴様らに監視を頼みたいんだ」

「なるほど……?」

 ようやく事態が呑み込めてきた様子のアランに、私は指を二本立ててみせる。

「詳しい業務内容は、主に二つ。その日のジークの行動を記録し、私に報告すること。また、体調に異変が生じた際は多少手荒でも構わないから休ませること」

 『薬や手刀を使ってもいい』と予め許可を出し、ジークのお守りを丸投げした。
『私の貴重な労働力を守ってくれ』に願いつつ、両腕を組む。

「これで、二つ目の任務内容も理解したな?じゃあ、最後────三つ目の任務だが……」

 僅かに声のトーンを落とし、私は重々しい雰囲気を放った。
ハッとしたように背筋を伸ばす彼らの前で、私は亜空間からある書類を取り出す。

「ここにリストアップされた貴族の動向を探れ。それが三つ目の任務だ」

 『一番危険度が高いから、慎重にな』と言い聞かせ、書類を渡した。

 実のところ、あまり心配はしていない。
恐らく、反乱云々の情報は出てこないと思うから。
過激な手段に出そうなやつらは第一皇子とエステルの処刑を餌に粗方洗い出し、粛清した。
なので、『いつかは……』と夢見るやつくらいは居るかもしれないが、本格的に動き出す勢力は居ないだろう────今のところは。

 様子見を装った狸共を脳裏に思い浮かべ、私はニヤリと笑う。
『運良く生き残っただけの小物めが』と心の中で呟き、窓の外を見つめた。

 きな臭いやつらが動き出すとしたら、他国からの支援を受けた時だな。
余程強力な後ろ盾を得ない限りは、大人しくしているだろう。
私の実力を知っている分、余計にな。

 慎重に動いているであろう一部の貴族を想像し、私は『くくくっ……!』と低く笑う。
愉快で愉快でしょうがなかったから。

 せいぜい、頑張って私の前にカモを運んでくるんだな。

 『ピンチをチャンスに』とは少し違うが、私は他国の侵略を逆手に取っていた。
適当に数ヶ国打ち負かせば慌ててこちらの機嫌を取りに来るだろう、と。
無論、『その貴族が』じゃない。
────『ヴァルテン帝国の破滅を機に、外交を打ち切った他国が』だ。
いや、この場合は『我が国を狙うハイエナ』と言った方が正しいか。

 表面上は『私情で国を乗っ取るなど、有り得ない』と激怒していたが、内心はウハウハだっただろうな。
だって、まだ九歳の子供が上手く国を回せるなんて微塵も思っていない筈だから。
今のうちに領土や財産を掠め取ろうと、画策していてもおかしくない。
それがどれほど愚かな選択かも知らないで。

 『全く……無知とは恐ろしい』とほくそ笑みながら、私はご機嫌で足を揺らす。
『交友のあった国以外にも外交を持ち掛けられるかもしれない』と思い、スッと目を細めた。

 帝国の膿を一気に出し切り、他国との交友も上手く行けばジークだけでも国を運営していける筈。
そしたら、私は研究に専念出来る。

 明るい未来を見据え、私は『あともう一踏ん張り』と奮起した。
と同時に、立ち上がる。

「という訳で、あとは頼んだ。私は少し寝る」

 もうすっかり暗くなった外の景色を一瞥し、私はさっさと寝室に引っ込んだ。
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