悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第一章

どうして《アラン side》

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「我が主君から頂いた、せっかくの初仕事────失望されないためにも、全力で行かせてもらう」

 『手加減はしない』と明言すると、リカルド団長は勢いよく斬り掛かった。
残念ながら避けられてしまったが、その衝撃波で体勢を崩す者がちらほら……。
間接的な攻撃ですらコレなのだから、もろに食らったら一溜りもない。

 イザベラ様が強すぎて霞んで見えていたけど、この人も充分チートなんだよな。

 バッサバッサ敵を斬り伏せていくリカルド団長の無双っぷりに、俺は一つ息を吐く。
感心半分呆れ半分といった様子で肩の力を抜く中、不意に体を持ち上げられた。
いや、浮かせられたと言った方が正しいかもしれない。

「ん?下のやつも怪我しているのか」

 『二人とも重傷じゃないか』と零しながら、イザベラ様はNo.4の体も浮かせる。
特に反抗する理由もないのでされるがままになっていると、イザベラ様の前に並べられた。

「悪化するかもしれないから、『いい』と言うまで動くな」

 我々の目をしっかり見て注意を促すイザベラ様は、慣れた様子で治癒魔法を展開する。
当たり前のように治療してくれる彼女の前で、俺は思わず

「どうして……」

 と、問い掛けてしまった。
だって、今までの雇用主は任務遂行が最優先で……俺達のことなんて、どうでもよさそうだったから。
『血反吐を吐いてでも、依頼を成功させろ』というのが、彼らの本音だった。
なのに────

「────どうして、イザベラ様は俺達を助けてくれたんですか……?どうして、守ってくれるんですか……?どうして、治療してくれるんですか……?」

 どんなに強くても、魔力や時間は有限。
俺達みたいな小物にまで、気を使う余裕はないだろう。

 イザベラ様の本質は悪だと分かっているからこそ、戸惑いを覚える。
『この方は一体、何を思ってここに来たんだ?』と。
思考が糸のように絡まって、イザベラ・アルバートという人間を理解出来なくなった。

「俺達は捨て駒なんですから、そのまま見捨てたって……」

 子が親の愛情を確認するかの如く自虐に走ると、イザベラ様は

「────捨て駒だと?」

 と、怪訝そうに眉を顰めた。
『心外だ』と言わんばかりにこちらを睨み、イザベラ様は両腕を組む。

「私がいつ、そんなことを言った?」

「えっ……?」

 捨て駒という認識を否定され、俺は目を丸くした。
他のメンバーも動揺を示し、ゆらゆらと瞳を揺らす。
自分を蔑ろにすることにすっかり慣れてしまった俺達に、イザベラ様は大きく息を吐いた。
かと思えば、僅かに身を乗り出す。

「いいか?よく聞け。貴様らは捨て駒じゃない────私の手足だ」

 『疾風』のメンバー一人一人の顔を見て、イザベラ様は断言した。
ハッと息を呑む俺達の前で、彼女は両足を肩幅程度に開く。
ついでに両手も広げ、不敵に笑った。

「自分の手足を気遣って、何が悪い」

「「「!!」」」

 『当たり前のことだろう』と言ってのけたイザベラ様に、俺達は衝撃を覚える。
ドクンッと大きく脈打つ心臓の音を聞きながら、滂沱の涙を流した。
と同時に、床に崩れ落ちたり子供のように『うわぁーん』と声を上げたりして、感情を吐き出す。
これまでずっと本心を押し殺してきた反動影響か、柄にもなく号泣してしまった。

 一瞬の躊躇いもなく、俺達を『自分の一部』だと言ってくれるこの方が……当然のように、俺達を大切にしてくれるこの方が……嫌な顔一つせず、俺達を真っ直ぐに見てくれるこの方が────愛おしくて堪らない。
この方のためなら、何を差し出しても惜しくない。

 本気でそう思える相手と巡り会い、俺は決意を固めた。
一生この方についていく、と。
恐らく、他の者達も同じだと思う。
だって、俺と全く同じ目をしていたから。

 たとえ、この方が世界中から後ろ指を差される存在になっても、俺達だけは永遠に味方で居る。
最後の一瞬まで、この方に仕えるんだ。

 『悪とか、正義とかもうどうでいい』と考え、俺は感情の赴くまま手を伸ばす。
────が、ペシッと叩き落とされてしまった。

「動くなと言っただろう、馬鹿者めが」

 『待機命令も聞けんのか』と文句を言いながら、イザベラ様は治療を終える。

「ほら、もういいぞ。そっちのやつも」

 No.4と俺に『もう完治した』と告げ、イザベラ様は踵を返した。
でも、何かを思い出したかのように立ち止まると、こちらを振り向く。

「一つ言い忘れていた」

 そう言って、イザベラ様はこちらに手を伸ばした。

「よくやった、貴様ら。褒めて遣わす」

 少し乱暴に俺とNo.4の頭を撫で、イザベラ様は『これからもこの調子で頼むぞ』と口にする。
どちらかと言うと、任務は失敗に終わったのに……俺達のことを労ってくれた。
『解雇どころか、こんなご褒美まで……』と驚く俺達を他所に、彼女は今度こそ踵を返す。

「リカルド、終わったか?」

「はっ。身体検査と身柄拘束も済んでおります」

「上出来だ」

 『ちゃんと考えて行動出来たな』と手放しで褒め、イザベラ様は敵へ近づく。
命令通り生け捕りにされた青いローブの面々を前に、彼女は自身の顎を撫でた。

「このペンダントはウチの狸共の仕業として……他は恐らく、カモ達だな」

 独り言のようにそう呟き、イザベラ様は一箇所に集められた武器や魔道具をチラッと見る。

「魔剣に加えて、ダメージ軽減の魔道具と身体強化の麻薬か……しかも、通信用魔道具まであるじゃないか。息の合った連携は、これのおかげか?まあ、結界を張った時点でそのカラクリは何の意味も持たないが」

 『結界に阻まれてしまうからな』と説明しつつ、イザベラ様は全ての魔道具の電源を切った。
かと思えば、こちらへそれらを投げ渡す。

「アラン、ダメージ軽減の方は好きに使え。通信の方は言わなくても、分かるな?」

「はい。上手くやります」

「ああ、頼んだぞ」

 責任重大な役を俺達に託し、イザベラ様はニヤリと笑った。
『カモ達がどういう反応を示すのか楽しみだ』と言い、青いローブの集団へ視線を戻す。

「こいつらは一先ず、牢屋に閉じ込めておけ」

「えっ?尋問などは……?」

 思わずといった様子で口を挟むリカルド団長に、イザベラ様は小さく首を振った。

「必要ない」

「で、ですが……」

「わざわざ問い質さなくても、こいつらの狙いや主人には見当がつく」

 『こんな小物に無駄な労力を掛けなくていい』とバッサリ切り捨て、イザベラ様は手を振る。
まるで、猫でも追い払うかのように。

「用が済み次第解放するつもりだから、丁重にな」

 『殺すつもりはない』と明言したイザベラ様に、リカルド団長は目を剥いた。
かと思えば、『分かりました』と溜め息混じりに答える。
一度言い出した聞かない性格の主君のため、反論を諦めたようだ。
せっせと敵を担ぎ上げる彼の前で、俺はスッと目を細める。

 きっとイザベラ様は俺達の時と同様、『こいつらは雇われただけだから』と思っているのだろう。
全く……悪意の塊みたいな人なのに、変なところで甘いんだから。

 『本人は強者の余裕としか思っていないんだろうけど』と肩を竦め、苦笑いする。
────と、ここで結界は解除された。ついでに、浮遊魔法も。
慌てて体勢を整える俺とNo.4は、何とか無事に着地する。
まあ、大した高さじゃなかったため、そのまま落ちても問題なかったが。
『だとしても、心臓にわりぃ……』と肝を冷やしていると、不意に通信用魔道具が光った。

 そして自動的に電源が入り、『ザザッ……』とノイズを響かせる。
会話可能状態へ入ったと思われる通信用魔道具を前に、青いローブの集団は一斉に騒ぎ始めた。
────が、布で口を塞がれているため、くぐもった声しか出せない。
何とかこの状況を伝えようと必死な彼らを前に、俺はニヤリと笑った。

 さあ、早速俺達の出番だ。
イザベラ様のご期待に添えるよう、派手にやろうじゃないか。

 『瀕死にされた分の借りも返さないといけねぇーし』と思い立ち、俺は部下達を手招く。
泣き腫らした顔で近づいてくる彼らにアイコンタクトを送り、俺は────怒号を上げた。
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