悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第一章

衝動《アラン side》

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◇◆◇◆

 ────時は少し遡り、イザベラ様が転移を果たす数分前。
俺達『疾風』の精鋭部隊は、アルバート家の屋敷……いや、城の警備に当たっていた。
────のだが……思わぬ襲撃に遭い、苦戦を強いられている。

 イザベラ様には出来るだけ生け捕りにするよう、言われている……けど!相手が強すぎて、そんな余裕ない!
もう相手の息の根を止めるしか……!
でも、この膠着状態からどうやって抜け出せば……!?

 短剣で相手の攻撃を弾きつつ、俺は眉を顰めた。
使用人を庇いながらの戦闘ということもあり、防戦一方でなかなか攻め込めない。
第一、俺達の得意分野は暗殺なので正面切った戦闘に向いてなかった。
『結構不味い状況かもしれないな』と苦々しい表情を浮かべ、俺は背に庇った使用人達を一瞥する。

 忍び込んできた敵の数は二十弱……。
イザベラ様との戦闘も予期しているのか、言うまでもなく全員強い。
その上、統率まで取れている。

 しっかりと集団・・戦闘になっている現状を前に、俺は苦悩した。
『このままだと、確実にこちらが負ける』と考え、知恵を絞る。
『一か八か、全員で攻め込むか?』なんて、馬鹿な考えが脳裏を過ぎった瞬間────『疾風』のNo.4が重傷を負った。
周囲に飛び散る血痕と床に落ちる左腕を目で追い、俺はサァーッと青ざめる。

「っ……!陣形を崩すな!」

 既のところで理性を保ち、俺は真っ直ぐに前を見据える。
『こんなの日常茶飯事だろ』と自分に言い聞かせながら。

 どうも、イザベラ様に情けを掛けられてから自分が……『仲間を失いたくない』という衝動が、抑えられなくなってきている。
以前までは、何も感じない……とまではいかずとも、取り乱すことのないように本心を押し殺してきたのに。
────助けたい、と思ってしまう。

 グッと短剣を握り締め、俺は奥歯を噛み締めた。
『今、陣形を崩す訳にはいかない』『感情論抜きで物事を考えろ』と自制しつつ、敵の攻撃を捌く。
半ば投げやりになって毒針を放ち、相手を牽制した。
そのおかげか、青いローブの彼らは一旦距離を取る。

 『よし……!』と安堵したのも束の間────彼らは鞘に差したままだった剣を引き抜いた。
かと思えば、空を切る。
その瞬間────剣の動きをなぞるように、水や炎が吹き出してきた。

 あれはまさか────魔剣……!?

 迫り来る攻撃を前に、俺は思わず立ち尽くす。
『絶望』の二文字が脳裏を過ぎり、思考が停止した。

 魔剣とは魔道具の一種で、その名の通り魔法を宿す剣のこと。
作り手の力量によって威力や出力はまちまちだが、上物であればたった一振りで数十人を殺すことも可能。
ただ、込められた魔力が尽きればガラクタと成り下がるため、使うタイミングをよく考えなければならなかった。

 恐らく、イザベラ様対策で持ってきたんだろうが……長期戦を警戒して一気に畳み掛けてきた、と。
もし、あいつらの目的が殺害や撹乱ではなく情報を持って帰ることならば……長居は避けたいだろうから。

 『そんな大層なものを使ってまで、仕掛けてくるか』と思いつつ、俺は短剣を仕舞う。
その代わりとして鞭を手に持ち、水や炎を勢いよく薙ぎ払った。
風圧で失速した水と掻き消された炎を見つめ、俺は第二波を警戒する。
────と、ここで青いローブの奴らが居ないことに気づいた。

 逃げた……のか?魔剣の攻撃を煙幕の代わりとして……?
いや、そんな筈……

「!?」

 何の気なしに横を向いた俺は、思わず目を疑った。
だって────左腕を失った『疾風ウチ』のNo.4に、敵が一斉攻撃を仕掛けていたから。
それも、魔剣で。

 不味い……!あの至近距離では、もろに攻撃を受けてしまう……!

 先程は距離があったため何とか相殺出来たが、今はそんな余裕なかった。
『回避か、防御か』という二択を迫られるNo.4に、俺は────反射的に飛びつく。

「リーダー……!?」

 困惑の滲んだ声で俺を呼ぶNo.4に、『悪い』と小さく謝った。
そして、No.4を押し倒す形で床に転がり、覆い被さる。
『任務中は合理的に考えて動くこと』という約束を破り、俺は魔剣の集中砲火と敵の斬撃を背中で受け止めた。

「うっ……!」

 痛みのあまりくぐもった声を上げながら、俺は僅かに腰を浮かせる。
貫通した剣先が、No.4の体を傷つけないように。

 あ~あ、やっちまった……これ、多分死ぬな。
あれだけ『味方を庇うな』『弱点を見せるな』と言っておきながら、結局一番の馬鹿は俺だった。

「本当、情けねぇ……」

 吐血と共に自虐を吐き出し、俺はゆっくりと後ろを振り返る。
と同時に、敵から剣先を突きつけられた。

「おい、イザベラ・アルバートに関する情報を全て吐け。そうすれば、治療・・してやる」

 治療、ねぇ……『完治』と明言しない辺り、助ける気0だな。
まあ、そもそも助けられるレベルの怪我じゃねぇーけど。
内臓グチャグチャの上、骨もズタズタだからな。
ぶっちゃけ、即死しなかったのが不思議なくらいだ。

 『今、生きているのが奇跡』と考えつつ、俺はフッと笑う────イザベラ様のように、心底相手を見下しながら。

「誰が教えるか、バーカ!」

 まるで子供のような態度を取り、俺はベーッと舌を出した。
精一杯の強がりと意地を見せる俺に対し、敵は顔色一切変えない。

「そうか。なら────死ね」

 感情の起伏が感じられない硬い声でそう言い、敵は一斉に剣を振り上げた。
今にもこちらへ駆け寄ってきそうな仲間を目で制し、俺はそっと目を伏せる。

 これでいい……これでいいんだ。
俺達をまとめて面倒見てやると言ってくれた、あのお方に不義理な真似はしたくないから。

「でも、やっぱりちょっと残念かも……イザベラ様の作る時代をこの目で見届けたかった」

 胸の奥で燻る後悔の念を吐き出し、俺はなんだか切ない気持ちになった。
その瞬間────

「ならば、ずっと私の傍に居ればいいだろ」

 ────聞き覚えのある声が耳を掠める。
ハッとして顔を上げると、そこには────銀髪の少女と紺髪の美丈夫が……。

 い、イザベラ様……!?それに帝国最強の騎士と謳われる、リカルド団長まで……!?

「そうだ、これは返そう」

 そう言って、イザベラ様は時が止まったかのように制止していた水や炎を────逆流させた。
『あっちに行け』とでも言うように手をヒラヒラさせる彼女の横で、リカルド団長が口を開く。

「では、こちらも」

 『どうせなら』といったニュアンスで、彼は少し体勢を変えた。
かと思えば、剣や鎧で受け止めていた斬撃を全て跳ね返す。
そのせいで敵は一気にバランスを崩し、たたらを踏んだ。

「っ……!退却……退却だ!今すぐ、ここから離脱する!」

 不利を悟ったのか、敵のリーダーと思しき男が『早くしろ!』と急かす。
すると、部下達は慌てた様子で何か……ペンダントのようなものを取り出した。

 あれはマチルダ嬢の持っていたものと同じ……?いや、それよりもっとデザインはシンプルだが……この状況を考えると、脱出用の魔道具とみて間違いないだろう。

 ────と、考えたのは俺だけじゃなかったようで……イザベラ様が魔法を使う。

「リカルド、退路は塞いだ。全員生け捕りにして、私の前に連れてこい」

「はっ」

 騎士の礼を取って応じるリカルド団長は、クルリと体の向きを変えた。
ズンズンと敵へ近づいていく彼を前に、あちらはてんやわんや。

「お、おい……!何で魔道具が発動しないんだよ……!?」

「わ、分かりません……!」

「動作確認の段階では、問題なく作動していた筈ですが……!」

 ペンダントを振ったり、叩いたりしながら彼らは半泣きになる。
『脱出用の魔道具があるから』と強気に攻めてきたのに、まさかの故障で動揺を隠し切れないのだろう。
『しかも、相手は帝国最強の騎士だもんな』と半ば同情していると、敵が慌てて武器を手に持った。
彼らの視線の先には、大剣を構えるリカルド団長の姿が。

「お前達の作った魔道具ごときが────イザベラ皇帝陛下の結界に勝てる訳ないだろう」

 いつの間にか展開されていた半透明の結界を示唆し、リカルド団長は足を止める。

「我が主君から頂いた、せっかくの初仕事────失望されないためにも、全力で行かせてもらう」
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