悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

文字の大きさ
35 / 103
第一章

終戦

 全く……よく回る口だな。

 次から次へと出てくるデマカセに半ば感心しつつ、私は腕を組む。

「御託はいい。貴様が三ヶ国に我が国の情報を渡し、戦争を仕掛けるよう画策していたのは知っている」

「っ……!」

 全てお見通しだと悟ったのか、宰相は頭を抱え込んだ。
が、まだ希望を捨て切れないようで『信じてください……』と弱々しく言う。
そんな彼の前で、私はスッと目を細めた。

「宰相、貴様には本当に────感謝している」

「えっ……?」

 反射的に顔を上げた宰相は、パチパチと瞬きを繰り返す。
『何が起こっているんだ……?』と困惑する彼に対し、私は満面の笑みを見せた。

「こんなにも活きのいいカモを贈ってくれて、ありがとう」

「……ど、どういたしまして?」

 困惑しながらも返事すると、宰相はゆっくり姿勢を正す。
『もしや、そんなに悪くない状況かも?』と思い直し、深呼吸を繰り返した。
何とか現状を呑み込もうとする彼の前で、私は顎を撫でる。

「だからな、ちょっと考えたんだ。貴様にどのような褒美を与えるべきか」

「は、はあ……」

「そこで思いついた。貴様を────私のペットにしてやろう、と」

 『どうだ、妙案だろう』と言わんばかりに、私は胸を張る。
が、宰相はいまいちピンと来ないようで首を傾げていた。

「ぺ、ペット……ですか?」

「ああ、そうだ。光栄に思え」

 『誰もが羨む待遇だぞ』と冗談交じりに言い、私は口角を上げる。
その隣で、ジークが何故か宰相を睨んでいた。
『恨めしい……』と言わんばかりの表情を浮かべながら。

「ぺ、ペットになったら私はどうなるんですか……?」

 宰相はジークの視線に気づいていないのか、それとも気づかないフリをしているのか……具体的な説明を求めてきた。
『まさか、酷い扱いを受けるんじゃ……?』と警戒する彼に、私は小首を傾げる。

「『どう』って……普通に可愛がるだけだが」

「そ、そうなんですか……!?良かった!なら、喜んで陛下のペットになります!」

「そうか。では────」

 亜空間から一本の試験管を取り出し、私は笑顔で腰を折った。
宰相の両頬を掴み上げ、ポンッと試験管のコルクを外す。

「────体を作り変えような?」

 そう言うが早いか、私は宰相の口内へ試験管を突っ込んだ。
すると、宰相は『んっ!?』とくぐもった声を上げ、抵抗するものの……ジークに押さえ付けられる。
『イザベラ様からのご褒美を零すな』と威嚇するジークに対し、宰相は涙目で抗議した。
────が、効果はなく……否応なしに液体を飲み干す。
『ゲホゲホッ……』と咳き込む彼を前に、私は試験管を亜空間に投げ入れた。

「ジーク、もう離していいぞ。ご苦労だったな」

 『いい対応だったぞ』と手放しで褒めると、ジークは僅かに頬を赤くする。
照れているのか少し挙動不審になるが、しっかりと返事して手を離した。
いそいそと私の隣に並ぶジークを一瞥し、宰相へ視線を戻す。
その刹那────宰相の体はグギギギギッと変な音を立てて、縮んだ。
『ひっ……!』と小さな悲鳴を上げる彼は、腕や足から生えてくる毛に戦慄する。

「な、何で……」

 どんどん変形していく体を見下ろし、宰相は青ざめた。
人ではない何かに変わっていく恐怖に憶え、こちらを見上げる。
『話が違う』と言わんばかりの眼差しを前に、私はパチパチと瞬きを繰り返した。

「なんだ?もしや、ペットの意味を下僕か何かと勘違いしていたのか?」

 そのままの意味で言っていた私は、『道理ですんなり納得した訳だ』と頷く。
が、もう始まってしまった人体改造を止める気はない。
勘違いにしろ、同意したことに変わりはないのだから。
『本物のペットになるとは思わなかった』なんて言い訳、通じる筈もなかろう。

「まあ、あれだ。本当に虐げるつもりはないから、安心してくれ」

 『ちゃんと死ぬまで面倒を見てやる』と言い、私は宰相の懇願を一蹴した。
その瞬間────彼は完全に人間じゃなくなり……それはそれは愛らしい狸へ進化を遂げる。
と言っても、中身は宰相のままだが。

「狸が本物の狸になるとは、どんな因果だろうな」

 『変化する動物はランダムなんだが』と言い、オロオロしている宰相を抱き上げた。
涙目になってこちらへ手を伸ばしてくる宰相に、私は笑みを浮かべる。

「安心しろ、直ぐに仲間を増やしてやる────帝国に居る、他の狸共を使ってな」

 『一人じゃないから、寂しくないぞ』と告げると、宰相はいきなり身動きを止めた。
まさか、そこまでバレているとは思ってなかったらしい。

 きっと、情報収集スパイのために敢えて残してきたんだろうが……無駄だったな?
あいつらなら、今頃アラン達に捕獲されていると思うぞ。

「残念だが、完全にゲームオーバーだ。貴様を助けるやつは、もう一人も居ない」

 情け容赦なく一縷の望みを打ち砕き、私はニヤリと笑った。

「一生、私のペットとして必死に媚びを売りながら暮らすんだな」

 『くれぐれもご主人様の機嫌を損ねるなよ?』と言い、私はジークに宰相を手渡す。
これぐらい脅しておけば、変な気は起こさないだろうと思って。
まあ、もっとも……狸程度では、ジークに傷一つ付けられないだろうが。
『一体、どれだけ保護魔法を掛けてあると思っているんだ』と思いつつ、私は顔を上げる。

 ────どうやら、あちらも片がついたようだな。

 三人の王の首を刈り取った敵のリーダーと護衛を鎮圧した進軍のメンバーを見やり、私はフッと笑う。
『ちょうどいいタイミングだ』と考え、一歩前へ進むと────彼らは一斉に跪いた。

「イザベラ皇帝陛下、我々に報復する機会を下さり、ありがとうございます」

 王達の首を私の前に並べ、敵のリーダーは清々しい笑顔を見せる。
これまでの鬱憤を晴らせて、満足しているのだろう。

「いや、私は何もしていないぞ。というか、貴様らに役目を取られただけなんだが」

「そ、それは……すみません」

 『つい、夢中になってしまって……』と零す彼に、私は一つ息を吐く。

「まあ、いい。それより────貴様らはこれから、どうするつもりだ?」

 反旗を翻した以上、祖国には受け入れられないだろう。
逆賊と似たような扱いになるから。
最悪、処刑されてもおかしくない。

 『さすがにそれは目覚めが悪い』と思案していると、敵のリーダーは躊躇いがちに口を開く。

「もし……もし、許されるのであれば────イザベラ皇帝陛下の傘下に加えて頂きたく……」

「いいぞ」

「えっ?」

 即答で了承を得られたからか、敵のリーダーは目を剥いて固まった。
まじまじとこちらを見つめてくる彼に対し、私はこう言葉を続ける。

「人手は多い方がいいし、各国の内情を詳しく知る者が居ると、今後の統治に役立つ」

「で、ですが……私共は陛下に攻撃を……」

「それは外道共の指示でやっただけだろう?それに王の首を討ち取った時点で、禊は済んでいる」

 目の前に置かれた生首を宙に浮かせ、私は『これで充分だ』と告げた。
でも、当人達は納得出来ない様子でオロトロと視線をさまよわせる。
『このまま許されていいのか……?』と疑問に思う彼らの前で、私は大きく息を吐いた。

 まどろっこしいのは、どうも苦手なんだよな。

 『面倒臭い』と肩を竦め、私は一歩前へ出る。
と同時に、手を腰に当てた。

「いいから、黙ってついてこい」

「っ……!はい!」

 強気な一言が効いたのか、敵のリーダーはようやく首を縦に振った。
『よろしくお願いします!』と述べる彼に一つ頷き、私はチラリと横に目を向ける。

「で、そっちの奴らはどうする?」

 家具として扱われていた者達へ質問を投げ掛け、私は返答を待つ。
自分の人生なのだから自分で決めろ、と。

 今までの扱いに甘んじるも良し、一念発起して人権を得るも良し。
私は貴様らの選択を尊重する。

 『奴隷からの解放が幸せとは限らない』と知っているため、敢えて積極的に助けようとはしなかった。
『どちらの道に進んでもきっと苦しいからな』と思案する中、椅子になっていた少女が声を上げる。

「わ、私も一緒に連れて行ってください……!もう家具になるのは……誰かに虐げられるのは、嫌なんです!」

 『人として生きたい!』と主張し、少女はこちらへ駆け寄ってきた。
泣きながら土下座する彼女を前に、また一人……また一人と救いを求めてやってくる。

「お、お願いします……!」

「何でもやりますから……!」

「贅沢は言いません……!」

 イザベラより遥かに年上の男女が、恥も外聞もかなぐり捨て頭を下げている。
きっと、それだけ辛い目に遭ってきたのだろう。
『どの世界にも、差別や迫害はあるのだな』と思いつつ、私は嫣然と笑った。

「そうか。なら、まとめて面倒を見てやる。安心して、私のところに来い」

「「「はい……!!」」」

 泣き崩れるようにして首を縦に振る彼らは、『ありがとうございます』とお礼を言う。
声が枯れるまで、何度も。
『そんなに言わなくても聞こえている』と呆れながら、私は後ろを振り返った。

「さて────話もまとまったし、そろそろ帰るか」

 そう言うが早いか、私はパチンッと指を鳴らし、城へ戻る。
────もちろん、新たに仲間になった者達も連れて。
感想 134

あなたにおすすめの小説

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです【書籍化進行中・取り下げ予定】

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっております。……本当に申し訳ございませんm(_ _;)m

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。