悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第二章

ソラリス神殿の内部状況

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◇◆◇◆

「────国の次は宗教か。面白い」

 次から次へと湧いてくる身の程知らず共に、私はフッと笑みを漏らす。
すると、報告のために執務室を訪れていたアランは『ひぇ……』と頬を引き攣らせた。
何となく、私の機嫌が悪いことを感じ取ったのだろう。
『触らぬ神に祟りなし』とでも言うように後ろへ下がる彼の前で、同席していたジークは肩を落とす。

「それじゃあ、また忙しくなってしまいますね……やっと、イザベラ様と一緒に過ごせるかと思ったのに」

 『残念です……』と零すジークは、黄金の瞳に憂いを滲ませた。
でも、ワガママを言ってはいけないと思っているのか不満を呑み込む。
相変わらず健気で我慢強い彼を前に、私はスッと目を細めた。

「何を言っている?先の戦争のように、また戦場デートでもすればいい話だろう。わざわざ、傍を離れる必要はない」

 『まあ、夫婦水入らずの時間は完全にお預けだが』と肩を竦め、私は隣に座るジークを見上げた。

「こういうデートでは、不服か?」

「い、いえ……!イザベラ様のご負担にならないのであれば、いつでもどこでもお供します!」

 僅かにこちらへ身を乗り出し、ジークは『連れて行ってください!』と申し出た。
かと思えば、ふとテーブルの上にある報告書へ目をやる。

「でも、本当に戦場・・デートでいいんですか?国を相手取るときと違って、宗教は何かと柵があると思いますが……」

 『武力行使で制圧してしまっていいのか』と懸念を漏らし、ジークは不安げな様子を見せる。
恐らく、私が悪者として仕立て上げられる可能性を危惧しているのだろう。

 神の使い神官を大量虐殺なんてすれば、あらゆるところから恨みを買いそうだからな。
下手すると、暴動が起きる。そのソラリス神殿を心の拠り所にしている者達によって。
まあ、所詮力では私に敵わないと思うが……怒りの矛先を我が国の民や部下に向けられたら、少し困る。
ソラリス神殿の信者を皆殺しにしないといけない。

 『それはちょっと面倒』と考えつつ、私は顎に手を当てる。
ソラリス神殿という厄介な存在とどう付き合っていくか真剣に悩み、一つ息を吐いた。

「仕方ない……今回は穏便に行くか」

 『あまり気は進まないが』とかぶりを振り、私はソファから降りる。
と同時に、ジークの手を引いた。

「────ソラリス神殿を乗っ取りに行くぞ、ジーク、アラン」

 『今すぐ出発だ』と述べる私に、ジークはパッと表情を明るくする。

「はい!」

「全っ然、穏やかじゃねぇ……しかも、俺も一緒に行くのかよ」

 シレッと部屋から出て行こうとしていたアランは、『逃げ遅れた~』と嘆いた。
が、その表情はどこか楽しそうである。
きっと、先日の借りを返す機会が出来て浮かれているのだろう。

「まあ、同行は構わないですけど、どうやって神殿を乗っ取るつもりなんです?」

 至極当然の質問を投げ掛け、アランは『トップをすげ替えるとか?』と零す。
パチパチと瞬きを繰り返す彼の前で、私は小さく肩を竦めた。

「それはこれから考える」

 そう言うが早いか、私は足の爪先でトントンと床をつつく。
と同時に、景色は変わり────国境付近へ。

「ソラリス神殿の本部へ案内しろ」

「それを先に言ってから、転移してくださいよ……」

 『めちゃくちゃビビッた』と言いながら心臓を押さえ、アランは辺りを見回す。
そして現在位置を把握すると、海の方角を指さした。
『○○キロくらい先にあります』と補足する彼に頷き、私は浮遊魔法で全員を浮かせる。
と同時に、風魔法で加速した。
弾丸のようなスピードで空を駆け抜けながら、私はちょっと特殊な結界を展開する。
今回は隠密行動が肝となるため。

 コソコソするのは、正直あまり好きじゃないんだがな。
でも、あとの面倒を考えると我慢するしかない。

 『全く……皇帝も楽じゃない』と嘆息する中、目的地である白い建物を発見する。
宮殿のように豪華な外観のソレを前に、私はふわりと地上へ降り立った。
その途端、アランがこちらへ詰め寄ってくる。

「ちょっ……何を考えているんですか!敵の目の前に姿を現すなんて……!」

 『ここ、正面玄関前ですよ!』と小声で怒鳴ってくるアランに、私は目頭を押さえる。
お前こそ、どこに目をつけているんだ?と呆れながら。

「私達の姿は他の者達に見えていない。ほら、現に誰もこちらに気づいていないだろう?」

「えっ……?」

 不意に足を止め、周囲を見回すアランは『た、確かに……』と納得した。
かと思えば、申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「なんか、すみません……勝手に騒いで」

「ああ」

 適当に謝罪を受け流し、私はさっさと歩を進めていく。
『時間が勿体ない』と考える私を前に、ジークとアランは後へついてきた。

「あぁ、そうだ。一つ言い忘れていたが、私達の姿は見えないだけできちんと実体がある。透明人間のようなものだと思ってくれていい」

「何ですか、その便利な魔法」

 『暗殺なんかで使えそう』と目を輝かせるアランに、私は小さく肩を竦める。

「声や音は消せないから、正直そこまで便利じゃないぞ。貴様レベルの暗殺者には、必要のないものだ」

「へぇー……って、音や声は消せないんですか!?それを早く言ってくださいよ!」

 『普通の声量で話しちゃったよ!』と嘆き、アランは慌てて口元を押さえる。
対するジークは非常に落ち着いていて、じっとこちらを見つめていた。
凄く幸せそうな顔で。
『ジークは利口だな』と思いつつ、私は建物内へ足を踏み入れる。

 もう夕方だからか、人はまばらだな。祈祷室にも、数名しか居ない。

 ほとんど家具のない空間を一瞥し、私は廊下を進む。
『とりあえず、二階に上がるか?』なんて、考えるものの……それでは、偵察しに来た意味がないのでグルッと建物内を一周した。
そこで、判明したのは────神官・信者のほとんどが、善良な人間であること。

「多少宗教にのめり込んでいる感じはあるが、爆発事件を起こすような奴らには見えないな」

「俺も同意見です。もし、あれが演技なら褒賞ものですよ」

「そうなると、怪しいのは上層部の者達だけになりますね」

 まだ踏み込めていない二階の一室────教皇の執務室を眺め、ジークはゴクリと喉を鳴らす。
どことなく緊張した素振りを見せる彼の前で、私はゆるりと口角を上げた。

「もし、そうなら大掛かりなことをしなくて済むな」

 『楽に終わらせられる』と考え、私は閉まりきった扉へ触れる。

「アラン、中に人は?」

「奥に一人、中央に二人ってところですかね」

「手前側に家具などの障害物はあるか?」

「う~ん……多分、ないと思います」

 気配探知と扉の隙間から見える景色を頼りに、アランはそう答える。

 私と全く同じ見解だな。

「じゃあ、転移魔法で中に入るぞ。二人とも、じっとしていろ」
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