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第二章
次期当主の承認
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「つまり、貴様はまだ実際に起こってもいない出来事をさも事実のように語ったのか」
『皇帝に嘘を言った訳だ』と主張すると、シートン男爵は一気に青ざめる。
震える手で床に這いつくばり、深々と頭を下げた。
「も、申し訳ございません……ですが、これも陛下を思ってのことで!決して、よこしまな思いがあった訳では……」
「ない、と言い切れるのか?本当に?」
「っ……」
根が素直なのか嘘つきになりきれないようで、シートン男爵は口を噤んだ。
が、このまま引き下がる訳にはいかないのか控えめにこちらを見つめる。
「……確かに息子を娶って頂けたらという思いは、ありました。陛下のように聡明で美しく、気高い女性はなかなかおりませんので。是非、家族になりたかったのです」
「……ほう?ジークにしか許さなかった関係を求めるか」
『随分とワガママだな』と吐き捨て、私はスッと真顔になった。
その途端、周囲の温度は下がる。
比喩的にではなく、物理的に。
これは警告だ、シートン男爵。
それ以上、踏み込むな。
「私はジーク以外を娶るつもりも、隣に置くつもりもない。肝に銘じておけ」
「お、お待ちください……!それでは、お世継ぎを作れなかった時どうするつもりで……」
『どうするつもりですか?』と続ける筈であっただろう言葉を、私は氷結魔法で遮った。
いや、凍らせて口を塞いだと言った方が正しいか。
「……『口は災いの元』だと知らんのか、こいつは」
腹の底から湧いてくる怒りを鎮めつつ、私は氷漬けになった男爵を見つめた。
全く……まだ妊娠・出産出来るような年齢じゃない小娘に『お世継ぎ』なんて、一体何を言っているんだ。
それとも、あれか?この世界の出産平均年齢は十歳前後なのか?
『はぁ……』と溜め息を零し、私は硬直している息子達へ視線を向けた。
「おい、貴様ら。長生きしたいなら、さっさとその父親を捨てろ。じゃないと、確実に共倒れだぞ」
『こいつ、正真正銘のアホだからな』と述べ、私はパンッと手を叩く。
すると、シートン男爵一家は廊下へ転移した。
それに合わせて氷結も解除したため、男爵は今頃意識を取り戻している筈である。
別に殺しても良かったんだが、ガキ達に実親の死を見せるのはちょっとな……。
『末っ子はまだ八歳くらいだったし』と考え、私は一つ息を吐いた。
────と、ここで別の訪問者が現れ、謁見の間へ足を踏み入れる。
チラチラとこちらの顔色を窺いながら歩を進める彼らは、玉座の前で跪いた。
と同時に、挨拶と用件を述べる。
息子を次期当主として認めてほしい、か。
先日、手酷く断ったのに全く懲りていないようだな。
『一人息子だから』と甘やかして育てられた三文安を前に、私は一つ息を吐く。
先日会った時と変わっていないな、と思って。
「却下だ。こいつは次期当主として、認められない」
「な、何故ですか……!?」
「単純に相応しくないからだ。簡単な礼儀作法も覚えられぬ者に、当主は務まらない」
跪いたとき立てる足が逆であることを指摘し、私は『微塵も成長していないじゃないか』と呆れる。
というのも、先日の謁見で全く同じことを言ったから。
別に礼儀作法を破ったことが、問題なんじゃない。
私個人としては、そこまで気にならないため。
でも、この程度のことすらこなせない奴が次期当主というのは看過出来ない。
無知を通り越してアホとしか思えない体たらくに、私はやれやれと頭を振った。
『せめて、礼儀作法くらい教え込んでから来い』と考える中、伯爵は深々と頭を下げる。
「お、お願いします……!何でもしますので、息子をどうか次期当主に認めてください!」
「却下だ。どうしても認めてほしいなら、それなりに教育を施せ」
『話はそれからだ』と告げると、伯爵は泣き崩れた。
恐らく、我が子を思ってのことなんだろうが……こればかりはどうしようもない。
甘やかして育てた過去の自分を恨め、としか言いようがなかった。
「我が息子は……まだ幼く……世界をよく知らない、だけで……やれば出来る子、なんです……」
絞り出すような声で懇願し、伯爵は縋るような目を向けてくる。
が、私は一切意に介さなかった。
「ならば、出来る子になってから出直してくれ。無論、現当主の死後半年を迎えるまでにな」
ヒラヒラと手を振って帰るよう促し、私は『とんだ、茶番だったな』と零す。
すると、伯爵が勢いよく顔を上げた。
「へ、陛下は勝手に我々を品定めし、相応しいかどうか決めてらっしゃいますが────陛下はどうなんです!?」
息子を馬鹿にされてヤケを起こしたか、伯爵は食ってかかってきた。
血迷ったとしか思えない言動を前に、私はゆるりと口角を上げる。
「どういう意味だ?」
「どうもこうも、そのままの意味です!イザベラ皇帝陛下は本当に王として、相応しいのですか!?逆賊に近い形で即位したのに……!?他人のことを見定める前に、まずはご自身のことを顧みてください!」
これでもかというほど不満をぶちまけ、伯爵は『はぁはぁ』と肩で息をする。
興奮状態なのか顔を真っ赤にする彼の前で、私は思わず失笑した。
「ほう?それで?相応しくなかった場合は、退位を迫るのか?」
特に取り乱すこともなく至って冷静に受け答えすると、伯爵は面食らう。
が、直ぐにこう切り返してきた。
「は、はい!我々貴族は爵位や領地の返上を引き合いに出されているのですから!それくらい、やっていただかないと!」
『割に合わない!』と主張する伯爵に、私はスッと目を細める。
「貴様、それを本気で言っているのか?元ヴァルテン帝国の貴族や国民はさておき、元クリーガー王国・フィーネ王国・シックザール帝国の権力者が私以外の奴に服従するとでも?」
「!!」
「最近、支配下に置いたアンヘル帝国だってそうだ。奴らが大人しくアルバート帝国の下についているのは、ひとえに私を恐れてのこと。私が退位すれば、あっさり手のひらを返すだろう」
「……」
返す言葉が見つからないのか、伯爵はいきなり口を噤んだ。
先程までの威勢はどこへやら……ゆらゆらと瞳を揺らしながら、俯いている。
ようやく、私という存在がどれほど重要なのか理解したらしい。
まあ、『王に相応しくない』という意見には概ね賛同するがな。
基本、私は自分中心で他人を思いやる心など持たないから。
でも、私以外の奴に王を任せられないのもまた事実。
『本物のイザベラとの約束もあるし』と肩を竦め、私は手で髪を払った。
「これらを踏まえた上で、もう一度問おう。貴様はそれを本気で言っているのか?」
『皇帝に嘘を言った訳だ』と主張すると、シートン男爵は一気に青ざめる。
震える手で床に這いつくばり、深々と頭を下げた。
「も、申し訳ございません……ですが、これも陛下を思ってのことで!決して、よこしまな思いがあった訳では……」
「ない、と言い切れるのか?本当に?」
「っ……」
根が素直なのか嘘つきになりきれないようで、シートン男爵は口を噤んだ。
が、このまま引き下がる訳にはいかないのか控えめにこちらを見つめる。
「……確かに息子を娶って頂けたらという思いは、ありました。陛下のように聡明で美しく、気高い女性はなかなかおりませんので。是非、家族になりたかったのです」
「……ほう?ジークにしか許さなかった関係を求めるか」
『随分とワガママだな』と吐き捨て、私はスッと真顔になった。
その途端、周囲の温度は下がる。
比喩的にではなく、物理的に。
これは警告だ、シートン男爵。
それ以上、踏み込むな。
「私はジーク以外を娶るつもりも、隣に置くつもりもない。肝に銘じておけ」
「お、お待ちください……!それでは、お世継ぎを作れなかった時どうするつもりで……」
『どうするつもりですか?』と続ける筈であっただろう言葉を、私は氷結魔法で遮った。
いや、凍らせて口を塞いだと言った方が正しいか。
「……『口は災いの元』だと知らんのか、こいつは」
腹の底から湧いてくる怒りを鎮めつつ、私は氷漬けになった男爵を見つめた。
全く……まだ妊娠・出産出来るような年齢じゃない小娘に『お世継ぎ』なんて、一体何を言っているんだ。
それとも、あれか?この世界の出産平均年齢は十歳前後なのか?
『はぁ……』と溜め息を零し、私は硬直している息子達へ視線を向けた。
「おい、貴様ら。長生きしたいなら、さっさとその父親を捨てろ。じゃないと、確実に共倒れだぞ」
『こいつ、正真正銘のアホだからな』と述べ、私はパンッと手を叩く。
すると、シートン男爵一家は廊下へ転移した。
それに合わせて氷結も解除したため、男爵は今頃意識を取り戻している筈である。
別に殺しても良かったんだが、ガキ達に実親の死を見せるのはちょっとな……。
『末っ子はまだ八歳くらいだったし』と考え、私は一つ息を吐いた。
────と、ここで別の訪問者が現れ、謁見の間へ足を踏み入れる。
チラチラとこちらの顔色を窺いながら歩を進める彼らは、玉座の前で跪いた。
と同時に、挨拶と用件を述べる。
息子を次期当主として認めてほしい、か。
先日、手酷く断ったのに全く懲りていないようだな。
『一人息子だから』と甘やかして育てられた三文安を前に、私は一つ息を吐く。
先日会った時と変わっていないな、と思って。
「却下だ。こいつは次期当主として、認められない」
「な、何故ですか……!?」
「単純に相応しくないからだ。簡単な礼儀作法も覚えられぬ者に、当主は務まらない」
跪いたとき立てる足が逆であることを指摘し、私は『微塵も成長していないじゃないか』と呆れる。
というのも、先日の謁見で全く同じことを言ったから。
別に礼儀作法を破ったことが、問題なんじゃない。
私個人としては、そこまで気にならないため。
でも、この程度のことすらこなせない奴が次期当主というのは看過出来ない。
無知を通り越してアホとしか思えない体たらくに、私はやれやれと頭を振った。
『せめて、礼儀作法くらい教え込んでから来い』と考える中、伯爵は深々と頭を下げる。
「お、お願いします……!何でもしますので、息子をどうか次期当主に認めてください!」
「却下だ。どうしても認めてほしいなら、それなりに教育を施せ」
『話はそれからだ』と告げると、伯爵は泣き崩れた。
恐らく、我が子を思ってのことなんだろうが……こればかりはどうしようもない。
甘やかして育てた過去の自分を恨め、としか言いようがなかった。
「我が息子は……まだ幼く……世界をよく知らない、だけで……やれば出来る子、なんです……」
絞り出すような声で懇願し、伯爵は縋るような目を向けてくる。
が、私は一切意に介さなかった。
「ならば、出来る子になってから出直してくれ。無論、現当主の死後半年を迎えるまでにな」
ヒラヒラと手を振って帰るよう促し、私は『とんだ、茶番だったな』と零す。
すると、伯爵が勢いよく顔を上げた。
「へ、陛下は勝手に我々を品定めし、相応しいかどうか決めてらっしゃいますが────陛下はどうなんです!?」
息子を馬鹿にされてヤケを起こしたか、伯爵は食ってかかってきた。
血迷ったとしか思えない言動を前に、私はゆるりと口角を上げる。
「どういう意味だ?」
「どうもこうも、そのままの意味です!イザベラ皇帝陛下は本当に王として、相応しいのですか!?逆賊に近い形で即位したのに……!?他人のことを見定める前に、まずはご自身のことを顧みてください!」
これでもかというほど不満をぶちまけ、伯爵は『はぁはぁ』と肩で息をする。
興奮状態なのか顔を真っ赤にする彼の前で、私は思わず失笑した。
「ほう?それで?相応しくなかった場合は、退位を迫るのか?」
特に取り乱すこともなく至って冷静に受け答えすると、伯爵は面食らう。
が、直ぐにこう切り返してきた。
「は、はい!我々貴族は爵位や領地の返上を引き合いに出されているのですから!それくらい、やっていただかないと!」
『割に合わない!』と主張する伯爵に、私はスッと目を細める。
「貴様、それを本気で言っているのか?元ヴァルテン帝国の貴族や国民はさておき、元クリーガー王国・フィーネ王国・シックザール帝国の権力者が私以外の奴に服従するとでも?」
「!!」
「最近、支配下に置いたアンヘル帝国だってそうだ。奴らが大人しくアルバート帝国の下についているのは、ひとえに私を恐れてのこと。私が退位すれば、あっさり手のひらを返すだろう」
「……」
返す言葉が見つからないのか、伯爵はいきなり口を噤んだ。
先程までの威勢はどこへやら……ゆらゆらと瞳を揺らしながら、俯いている。
ようやく、私という存在がどれほど重要なのか理解したらしい。
まあ、『王に相応しくない』という意見には概ね賛同するがな。
基本、私は自分中心で他人を思いやる心など持たないから。
でも、私以外の奴に王を任せられないのもまた事実。
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