悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

文字の大きさ
70 / 103
第二章

開校式

しおりを挟む
「これらを踏まえた上で、もう一度問おう。貴様はそれを本気で言っているのか?」

 『本当に退位していいのか』と迫る私に、伯爵は力無く首を横に振る。

「い、いいえ……私が間違っておりました。ご無礼をどうぞ、お許しください」

 『出過ぎた真似をしました』と謝罪し、伯爵は深々と頭を下げた。
すっかり冷静になったのか、恐怖のあまり縮こまっている。
『なんてことを言ってしまったんだ』と後悔する彼の前で、私は足を組み直した。

「許してやってもいい。ただし────今後、当主承認制度の関係で謁見出来るのはあと一回までとする」

「「!?」」

 ハッとしたように目を見開き、伯爵夫妻は硬直した。
『チャンスはあと一回だけ……』と呟く彼らを前に、私は手のひらを前に突き出す。

息子ソレを今から躾直すか、新たな候補を立てるかは貴様らの自由だ。よく考えて、判断しろ」

 家の存続が架かった制約を設け、私はゆっくりと手を横に動かした。
すると、伯爵一家は廊下へ転移を果たす。
今頃パニックに陥っているであろう伯爵夫妻を想像し、私は『くくくっ……!』と笑った。

 さあ、親心を取るか家の存続を取るか……はたまた、両方を勝ち取るか────

「────楽しみだな」

 と、呟いた翌月。
私は衝撃な光景を目にする。
というのも、例の伯爵家の息子が────リズベットの創立した学校に姿を現したから。
しかも、入学生・・・として。

 開校式を見に来た野次馬や外部生────正式な生徒ではないものの、簡単な読み書きや計算を学びに来た者ならいざ知らず……しっかり講義を受けられる入学生として来るとは。

 『面白い』と頬を緩める私は、屋上からグラウンドを眺める。
真剣に開校式へ参加している彼を前に、伯爵夫妻の狙いを考えた。

 恐らく、私も創立に関わっている学校なら成長具合をきちんと見てもらえると判断したのだろう。
もちろん、単純に貴族として必要な教養を学べるカリュキュラムだからというのもあるが。

「それでも、平民ばかりの学校へ入れるという決断はなかなか出来るものじゃない。伯爵夫妻は本気で息子の再教育に力を注ぐつもりだな」

 『覚悟の度合いが見て取れる』と呟き、私はフッと笑みを漏らす。
その選択が功を奏すといいな、と思いながら。

「────イザベラ様、とても楽しそうですね」

 そう言って、横に並んだのは同じく開校式の立ち会いを任されたジークだった。
高い手摺りにそっと触れ、こちらを見つめる彼は柔らかく微笑む。
歓喜の入り交じった瞳を前に、私は小さく肩を竦めた。

「そりゃあ、こんな異色のメンバーを見ればな」

 例の伯爵夫妻の息子はもちろん、スラムの子供達や特筆した才能を持たない元奴隷達など……とにかく、色んな事情を持つ人間が集まっている。
リズベットがどうやって彼らを導くのか、師匠として非常に楽しみだ。

 『あいつもついに教える側へ回ったんだな』と感慨深い気持ちになる中、ジークは顎に手を当てる。

「確かになかなか興味深い者達が入学して……あれ?ケイラー侯爵家の次期当主も居ますね」

「ああ。多分、体良く厄介払いされたんだろ。表向きは『次期当主として、見識を広めるための入学』となっているが」

 次期当主となったことで力をつけないよう、貴族や親戚から徹底的に距離を取らせる算段なのだろう。
で、在学中にあらゆるところへ根回しして帰ってきた時には居場所をなくすのが目的。
実に腹黒い計画だが、何の後ろ盾もない子供には効果的。
でも────

「────恐らく、奴らの狙い通りには行かないだろう。むしろ、真逆の結末になるかもな」

 我が弟子リズベットの高等教育と、新興貴族になり得る才能を持った生徒達との縁……その二つを上手く利用出来れば、本当の意味で当主となるのは難しくない。
奴自身もソレに気づいているからこそ、入学を決めたものと思われる。
どことなく悪い顔をしているケイラー侯爵の次期当主に、私は『面白いことになりそうだな』と目を細めた。
────と、ここでグラウンドに居るリズベットがこちらを振り返る。

「恩師様からも一言くださーい!」

 『せっかく来たんでんですからー!』と主張し、リズベットは大きく手を振った。
その途端、生徒や野次馬もこちらを見る。
と同時に、絶句した。
まさか、皇帝まで立ち会っているとは思わなかったのだろう。
慌てて姿勢を正す彼らの前で、私はグラウンドに転移した。
と同時に、用意された簡易ステージへ上がる。
無論、ジークも一緒だ。

「皇帝イザベラ・アルバートだ。まあ、せいぜい励め。以上」

 拡声魔法を活用しながらそう言い、私はさっさとステージを降りる。
が、弟子のリズベットに引き止められた。

「ちょっ……待ってください!さすがに短すぎますー!」

「いや、貴様が『一言ください』って言ったんだろ」

「だからって、本当に一言で終わらせないでくださいよー!」

 『言葉の綾じゃないですか!』と述べ、リズベットはグイグイと私の腕を引っ張った。
が、私は微動だにしない。物理的にも、精神的にも。

「はぁ……そんなに演説してほしいなら、ジークに頼め。私は長話などしたくない」

 『面倒臭い』という本音を見せる私に、リズベットはガクリと項垂れた。
かと思えば、標的をジークに変える。

「もうチンチクリンでもいいので!なんか、話してください!」

「えっ?」

 急に水を向けられたジークは、リズベットに引き摺られるままステージへ立った。
あまりのことに、一瞬ポカンとするものの……わりと直ぐに状況を受け入れ、前を見据える。

「ご紹介にあずかりました、ジーク・ザラーム・アルバートです。まずは生徒の皆さん、ご入学おめでとうございます。記念すべき第一期生が、これからどのような偉業を成し遂げて行くのかとても楽しみです。どうか、我々の……いえ、学校創立を決心してくださったイザベラ様のご期待にお応え出来るよう、頑張ってください」

 いや、何故そこで私の名前を出す……。
あと、入学生を鼓舞するのは構わないが、あまり圧を掛けるなよ。
十歳未満の子供だって、チラホラ居るんだから。

 『私関連のことには、本当妥協しないよな』と思案する中、ジークは言葉を続ける。

「いつの日か皆さんが学校を卒業し、アルバート帝国で活躍されることを祈ります。くれぐれも……くれぐれもここで培った経験や実力を悪用し、イザベラ様を困らせないようお願いしますね。もし、そのような事態になれば……容赦しません、俺が」

 『学ぶ機会をくださったイザベラ様に楯突くなんて、許せない』とでも思っているのか、ジークはしっかり釘を刺す。
おかげで、入学生の約半分は縮こまってしまった。
が、意外にも元奴隷やスラムの者達はしゃんとしている。

「はい、必ずやイザベラ様のお役に立ちます!」

「ご迷惑になるようなことは、しません!」
 
「陛下には、多大なる恩がありますから!」

「一生を捧げる覚悟です!」

 重すぎる感情を吐露し、彼らはグッと手を握り締めた。
意欲的を通り越してどこか狂気的な彼らを前に、ジークは満足そうに頷く。

「それでは、改めましてご入学おめでとうございます。どうぞ、楽しい学校生活を送ってください」

 そう言って挨拶を締め括り、ジークは軽く一礼した。
かと思えば、直ぐに私の元へ戻ってくる。
その様子はどこか、犬に似ていた。

「い、イザベラ様……先程の挨拶は、どうでしたか?」

 見えない尻尾を振りながら隣に並び、ジークは顔を覗き込んでくる。
期待に満ち溢れた黄金の瞳を前に、私は一つ息を吐いた。

「まあ、良かったんじゃないか?ジークらしくて」

「ほ、本当ですか……?ありがとうございます!」

 花が綻ぶような笑みを浮かべ、ジークはこれでもかというほど喜びを露わにした。
すっかり上機嫌になる彼に対し、私は手を差し伸べる。

「さあ、そろそろ帰るぞ。お互いこのあと予定もないことだし、ゆっくりしよう」

「はい!」

 間髪容れずに首を縦に振り、ジークはそっと手を重ねた。
控えめに手を握ってくる彼の前で、私は転移魔法を発動する。
そして皇城へ帰還すると、久々に夫婦水入らずの時間を堪能した。


✄-------------------‐-------------------‐------✄‬


いつも、『悪辣令嬢の独裁政治 ~私を敵に回したのが、運の尽き~』をお読みいただき、ありがとうございます。
作者のあーもんどです。


本作はこれにて、第二章完結となります。
第三章の執筆に伴い、しばらく更新をお休みします。
(ちなみに本作は第三章で完結予定です。もう少しだけ、お付き合い頂けますと幸いです)

再開時期は未定です。
決まり次第、小説家になろう様の活動報告にてお知らせいたします。


また、この場をお借りして言わせてください。
いつも感想やお気に入り登録など、ありがとうございます!
とても、励みになります!


今後とも、『悪辣令嬢の独裁政治 ~私を敵に回したのが、運の尽き~』をよろしくお願いいたします┏○ペコッ
しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした

まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】 その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...