悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第三章

学校の調査

「とりあえず、学校内で秘密裏に調査を始めるか」

 『くれぐれも、今回の訪問は公表するなよ』と釘を刺し、私は扉の方に足を向けた。
挨拶もそこそこにこの場を立ち去ろうとする私に、リズベットは少しばかり表情を硬くする。
と同時に、背筋を伸ばした。

「分かりました。よろしくお願いします」

 落ち着いた声色で返答し、リズベットは深々と頭を下げる。
一応、こちらの手を煩わせていることに罪悪感は抱いているのか、やけにしおらしかった。
きちんと筋を通そうとするリズベットを前に、私は

「ああ」

 とだけ、答える。
そして、自身に隠密系統の魔法を掛けると、部屋から出ていった。

 さて、どうするか。
一番安全かつ確実なのは、このまま教室なり食堂なりに行って生徒達の会話を盗み聞きすることだが。

 ソラリス神殿に潜入した時と同様、自分の姿が見えないことを考慮し、私は悩む。
────と、ここで向かい側の曲がり角から見知った顔を二つ発見した。

「いや、協力者を作るか」

 『そちらの方が手っ取り早い』と判断し、私は二人に近づく。

「ちょっと来い」

 そう言うが早いか、私は二人の首根っこを引っ掴んで空き教室に連れ込んだ。
『な、何……!?』と騒ぐ男女を前に、私は魔法を解く。

「静かにしろ。他の奴らにバレたら、面倒だ」

「「い、イザベラ様……!?」」

 思わずといった様子で大声を出す二人は、慌てて口元を押さえた。
『ごめんなさい……!』と小声で謝罪する男女を前に、私は小さく肩を竦める。
別にいい、と言う代わりに。
『幸い、廊下には誰も居なかったしな』と考えつつ、私は腕を組んだ。

「単刀直入に言う────貴様らに頼みたいことが、ある」

 私の協力者になるよう求めると、二人は互いに顔を見合わせる。
と同時に、どちらからともなく頷き合った。

「「承知しました。何なりとお申し付けください」」

 素早くこちらに向き直り、二人は恭しくこうべを垂れる。
喜んで協力する姿勢を見せる男女に対し、私は頭を捻った。

「まだ何を頼むかも話していないのに、即答とは驚いたな」

「イザベラ様に限って無茶ぶりはしないだろう、と思いまして」

「それに、貴方には大恩がありますから。基本、何でもやりますよ」

 元スラム・・・・の子供である二人は、『どうぞ、こき使ってください』と願い出た。
あまりにも従順すぎる男女を前に、私は自身の顎を撫でる。

 正直危機感が足りないと思うが、こちらとしては好都合。
説得に余計な時間を要さずに済むからな。

 『楽でいい』と心底思いながら、私は銀髪を手で払った。

「では、学内で身分制度撤廃を提唱している連中……その中でも、特に積極的に活動している奴らをここへ連れてきてくれ」

 『無論、私の存在は伏せてな』と指示すると、二人は小さく頷く。

「「分かりました」」

 『さりげなく、連れ出してきます』と言い、二人は扉の方へ足を向けた。
どうやら、早速行動を開始するつもりらしい。

「────待て。最後に貴様らの名前を聞かせろ」

 私は立ち去ろうとする二人を引き止め、そう口にした。
さすがに協力者の名前も知らないのは、どうかと思ったので。
『今後の展開次第では、長い付き合いになるかもしれないしな』と考える中、二人は一瞬固まる。

「ぁ……えっと、ジェーンです」

「ま、マルセルと言います」

 呆然としながらもきちんと名乗り、二人は胸元を握り締めた。
どことなく緊張している様子の男女を前に、私はゆるりと口角を上げる。

「そうか。では────ジェーンとマルセル、頼んだぞ」

「「は、はい」」

 反射的に首を縦に振り、ジェーンとマルセルは表情を硬くした。
かと思えば、少しばかり頬を緩める。
『イザベラ様に名前を呼んでもらえた』と喜び、上機嫌で教室を出た。
その刹那────何やら、騒ぎ始める。

 声の数はあいつらも含めて、三つ。
多分、関係のない第三者と出会して揉めているのだろう。

 『運の悪い奴らだ』と思いつつ、私は教室の扉の陰から様子を窺った。
すると、これまた見覚えのある顔を発見する。

「あいつは確か、伯爵家の……」

 『無能すぎて、次期当主の承認を断ったやつだ』と思い出し、私は前髪を掻き上げた。

「名前は確か、ニコラス・ジェンソン・ヒックスだったか」

 資料で見た奴のプロフィールを脳裏に思い浮かべ、私は顎に手を当てる。
────と、ここでニコラスが壁を殴った。

「だから、『ちょっと付き合え』と言っているんだ!私の誘いを断るつもりか!」

 ジェーンとマルセルに対して憤慨し、ニコラスは目くじらを立てる。

「お前らも他の奴らみたいに、私を見下しているのか!?」

 身分制度撤廃に関する影響を受けているのか、ニコラスは以前より攻撃的だった。
フーフーと鼻息を荒くする彼の前で、ジェーンとマルセルは困ったような素振りを見せる。

「いえ、そんなことはありません」

「ただ、今は少し立て込んでいて」

 ニコラスを刺激しないように配慮しつつ、二人はやんわり断りを入れた。
何とかこの場を丸く収めようとする彼らの前で、あっちは理解を示す……訳もなく、更に激昂する。

「嘘をつけ!そんな見え透いた詭弁に、騙されると思うな!」

 『私を馬鹿にしているのか!』と怒鳴りつけ、ニコラスはギシッと奥歯を噛み締めた。
全く怒りの収まる気配がない彼を前に、ジェーンとマルセルは困り果てる。

 このままでは、埒が明かないな。仕方ない────私が出るか。

 『極力、私の存在は隠しておきたかったんだがな』と辟易しながらも、教室から出てニコラスの腕を掴んだ。

「こいつは私の方で対処する。貴様らはさっさと行け」

 『己の役目を果たせ』と言い、私はニコラスを引っ張って教室に戻る。
そしてジェーンとマルセルの走り去る音を聞き流し、ニコラスの膝裏に蹴りを入れた。
その途端、彼はバランスを崩して倒れ込む。

「な、何をする!?私が誰か分かって……ひっ!」

 こちらを振り返りようやく私のことを認識したニコラスは、竦み上がった。
かと思えば、表情を強ばらせて後退る。

「い、いいいいいいいい、イザベラ皇帝陛下……!?」
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