悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第三章

ニコラスの葛藤

「い、いいいいいいいい、イザベラ皇帝陛下……!?」

 先程までの勢いは、どこへやら……ニコラスは身を震わせて、すっかり縮こまってしまった。
青い瞳に恐怖を滲ませる彼の前で、私は一つ息を吐く。

「貴様は本当に不器用というか、ガキというか……あんな態度では────他者と仲良くなるなぞ、夢のまた夢だぞ」

「!」

 ハッとしたように息を呑み、ニコラスはこちらを凝視した。

「な、何で知って……」

「具体的に何をするのか言わず、『とにかく付き合え』と言い張っていたからだ。仮に労力搾取や嫌がらせが目的なら、そんな対応はしないだろう?」

 『回りくどいにも程がある』と主張し、私は腰に手を当てる。

「だから、貴様の狙いはあいつらと関わる機会を得ることだと推測した」

「……その通りです」

 観念したのか素直に認め、ニコラスは小さく肩を落とした。
と同時に、そっと眉尻を下げる。

「あの二人は他の奴らと違って、私をあからさまに避けたり嫌がったりしないし、仲良くなれるかと思ったんです」

 『友人が欲しい』という気持ちを前面に出し、ニコラスはグッと手を握り締めた。

「でも、迷わず誘いを断られて……『こいつらも、表に出さないだけで私のことを迷惑に思っているのかもしれない』と考えたら、ついカッとなってしまいました」

 理想と現実のギャップに悩むニコラスは、頭を抱え込む。
その際、短く切り揃えられた青髪が小さく揺れた。

 なるほど。『自分にとって都合のいい思い込み』という名の期待を裏切られて、パニックになったのか。
しかも、こいつの場合他者に拒絶されるという経験があんまりないから、余計ショックだっただろうし。
あんな風になるのも、無理はない。
とはいえ、その特性を他者に『理解しろ』『許容しろ』と求めるのは到底無理な話だ。

 『家族や友人なら、ともかく』と考えていると、ニコラスが顔を歪める。

「冷静に話さなきゃいけないのは、分かっているんです……けど、どうしてもイライラしてしまって……」

 まともに話せない葛藤を吐露し、ニコラスは唇を噛み締めた。
『これでも、出来るだけ怒らないようにしているんですけど……』と述べる彼を前に、私は腕を組む。

「怒りの感情は、別に悪いものじゃない。むしろ、何かをやり遂げるための強い原動力となる良い感情だ」

「!」

 ピクッと反応を示し、ニコラスは大きく目を見開いた。
『強い原動力……』と呟く彼の前で、私は人差し指を立てる。

「ただ、そのためには怒りを適切に扱えるようにならないといけない。ところ構わず発散するだけでは、子供の癇癪と同じだからな」

 『先程の貴様が、まさにそれだ』と言い、私はニコラスを指さした。

「もっと上手くやれ、ニコラス。出来ないのなら────もう全て諦めろ」

 他者と仲良くなることはもちろん、次期当主となることも断念するよう勧める。
その瞬間、ニコラスは呆然と固まった。
ショックのあまり言葉も出ないようで、ただただ瞳を揺らす。
────と、ここでジェーンとマルセルが三人の男女を連れて戻ってきた。

「イザベラ様、お待たせしました」

「こちらが、お探しの者達です」

 さりげなく扉の方に立って退路を塞ぎながら、ジェーンとマルセルはそう言った。
と同時に、連れてこられた三人が顔色を変える。
どうやら、いち早く状況を理解したようだ。

「ぁ……あの、私達……」

「えっ、と……その……」

「だから……っ」

 連れてこられた三人は目に涙を浮かべ、恐怖に震え上がった。
かと思えば、崩れ落ちるようにして膝を折る。

「「「も、申し訳ございません……!」」」

 もう言い逃れは出来ないと判断したのか、三人とも自ら罪を認めた。
額を床に擦り付けて謝罪しつつ、ポロポロと涙を流す。

「言い訳に聞こえるかもしれませんが、私達本当はこんなことやりたくなくて……!」

「ある日、いきなり知らない人達に身分制度撤廃を学内で主張するよう言われたんです……!」

「言う通りにしないと、家族を殺すとまで言われて仕方なく……!」

 情状酌量を求めてか積極的に自白を行い、三人は視線を上げた。
それぞれの瞳に、強い意志と覚悟を宿して。

「イザベラ皇帝陛下、どうか私達の家族をお助けください!」

「図々しいお願いであることは、分かっています!でも、今回だけ情けを掛けてくださいませんか!」

「家族が無事なら、僕達はどうなってもいいので!」

 『煮るなり焼くなり好きにしてください!』と申し出る三人に、私は一つ息を吐く。
そう簡単に命を差し出すな、と呆れながら。

「言われなくても、貴様らの家族は助けるつもりだ」

「「「ほ、本当ですか……!?」」」

 思わずといった様子で身を乗り出し、三人は目を輝かせた。
安堵と歓喜に満ち溢れる彼らの前で、私は横髪を耳に掛ける。

「ああ、本当だ。ただ、貴様らへの処罰についてはまだ何とも言えない。証言通り脅されてやっていただけなら罰しないが、そうじゃない場合は……分かっているな?」

 ただじゃ済まないことを匂わせると、三人ともコクコクと頷いた。
神妙な面持ちでこちらを見据える彼らに、私は『証言に嘘はなさそうだな』と考える。
と同時に、パンッと手を叩いた。
その刹那────アランが、姿を現す。

「えっ……?あっ、何の用でしょうか?」

 私の存在に気づくなり事態を呑み込むアランは、おもむろに臣下の礼を取った。
相変わらず話の早い彼を前に、私は簡単に事情を話す。
その上で、

「こいつらを脅した者達を捕らえて、黒幕を突き止めろ」

 と、指示した。
こういう情報収集や暗躍は、アラン達の得意分野なので。

「出来るだけ、早くな。そのためなら、騎士団を動かしてもいい」

「分かりました」

 『では、直ぐに動き出します』と述べ、アランは例の三人に声を掛ける。
そして、自宅の場所や脅迫してきた連中の特徴を聞き出すと、この場を後にした。

「ジェーン、マルセル。貴様らはもう戻っていいぞ。ご苦労だったな」

 私は扉付近に立つ二人へ話し掛け、『これ以上、本件に関わらなくていい』と告げる。
すると、彼らは胸元に手を添えて一礼した。

「お役に立てたなら、光栄です」

「また何かあれば、声を掛けてください」

 『いつでも力になります』と宣言し、ジェーンとマルセルは空き教室を出て行く。
静かに閉まる扉を前に、私は残ったメンバーへ目を向けた。

 身分制度撤廃を提唱していた三人はリズベットのところに連れて行くとして、ニコラスはどうするか。
このまま教室に返してもいいが、こいつ怒った際にポロッと今のことを喋りそうなんだよな。
さすがに事態を収束させる前に、こちらの動きをバラされるのは不味い。
それに────こんな抜け殻みたいな状態じゃ、授業を受けても意味ないだろうし。

 教師の話を右から左に聞き流すニコラスが安易に想像でき、私は解放を見送る。
『一先ず、場所を移そう』と考えながら手を叩き、理事長室に転移した。

「リズベット、この三人を監視しろ」
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