悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第三章

太陽神ソラリス

「あぁ、そういえばまだちゃんと名乗ってなかったね────僕は太陽神ソラリスだよ」

 『よろしく』と口にするソラリスに、アランは遠い目をする。
ソラリス神殿の者達も、心ここに在らずといった状態で固まっていた。

「やっぱ、神様だったのか……会話の内容からして、そんな気はしていたけど……てか、イザベラ様は何でこの状況を普通に受け入れてんの……」

 『順応能力、高すぎだろ……』とボヤき、アランは目頭を押さえる。
呆れとも感心とも捉えられる言動を取る彼の前で、ソラリスはチラリとこちらを見た。

「言われてみれば、そうだよね……何でこの人間は全く動じてないの?」

 『普通、少しは驚くよね?』と言い、ソラリスは不安そうな素振りを見せる。
ちょっと腰が引けている彼を前に、私は横髪を手で払った。

「そんなことはどうでもいいから、さっさと本題を話せ」

 そう言うが早いか、私はクイクイッと人差し指を動かす。
すると、ソラリスが少し前のめりになった。

「か、神の背中を魔法で押すとか……君、本当に変わっているね」

「これ以上、無駄口を叩くなら今度は下半身を吹き飛ばすぞ」

 喋るための口と考えるための頭があれば、こちらとしては構わないので脅しを掛ける。
『いい加減、雑談は飽きた』と辟易する私を前に、ソラリスは頬を引き攣らせた。
恐ろしい人間だ、と怯えながら。

「わ、分かったよ。本題に入る」

 『だから、下半身を吹き飛ばすのはやめて』と述べつつ、ソラリスはコホンッと一回咳払いする。

「単刀直入に言うね────オリエンス・シルヴァ・エリジウムの世界へ行ってほしい」

「!?」

 アランはハッとしたように息を呑み、ソラリスを凝視した。
動揺のあまり声も出ない様子の彼を他所に、ソラリスは小さく肩を竦める。

「実は彼より、イザベラ・アルバートの身柄譲渡を求められているんだ。応じなければ強硬手段に出る、という脅迫付きでね」

 やれやれとかぶりを振るソラリスに、私はスッと目を細める。

 やはり、そういう類いの話か。
まあ、世界と一体化しているクソ皇帝が別世界に居る私へ接触を図る場合、自分の管理領域世界に呼び寄せるか別世界ごと支配するかの二択しかないからな。

 『世界と分離化している神であれば、こちらへ赴くことも出来るんだが』と、私は思案する。
────と、ここでソラリスが自身の顎を撫でた。

「こちらとしては彼とあまり争いたくないから、出来れば身柄譲渡に応じたい」

 だろうな。クソ皇帝の言う『強硬手段』とは、謂わば殺し合いだから。
他の世界を支配する上で、その持ち主たる神の死は必須なのだ。

 『避けては通れない道』と考える中、アランが身を乗り出す。

「ちょ、ちょっと待ってください!そちらの事情は分かりましたが、だからってイザベラ様を生贄に捧げるような真似は許せません!」

 『俺は絶対に反対です!』と抗議し、アランは私のことを背に庇った。
神ソラリスに勝てるほど、強くないくせに。

 全く……命知らずなやつだな。だが、その度胸だけは褒めてやろう。

 ポンッと軽くアランの背中を叩き、私は一歩前へ出る。
『貴様は下がっていろ』と言うように。

「い、イザベラ様……」

「安心しろ、私は自己犠牲精神など持ち合わせていないから」

 言外に『生贄になる気はない』と言ってのけると、アランは少しばかり表情を和らげた。
かと思えば、フッと笑みを漏らす。

「いらぬ心配でしたね」

 『よく考えてみれば、イザベラ様は悲劇のヒロイン体質じゃないし』と言い、アランは肩の力を抜いた。
素直に後ろに控える彼の前で、私はソラリスと顔を合わせる。

「聞いての通りだ。身柄譲渡の件は断る」

「……」

 ソラリスは明らかに表情を曇らせ、不服そうな態度を取った。
が、上から目線で命令したり力に任せて従わせたりしようとはしない。
多分、こちらの実力を何となく察しているからだろう。

 利口なやつだ。大抵の神は食って掛かってくるところなのに。

 『話の通じるやつだな』と再確認し、私は言葉を紡ぐ。

「とはいえ、クソ皇帝の暴挙には少々思うところがある」

「!」

 ピクッと僅かに反応を示し、ソラリスはこちらを見つめた。
金の瞳に僅かな期待を滲ませる彼の前で、私は腕を組む。

「だから────クソ皇帝を退ける役割は、私が担ってやってもいい」

 『一番、面倒かつ危険な仕事を引き受ける』と明言した私に、ソラリスは大きく目を見開いた。

「ほ、本当かい!?」

「ああ。もし、貴様が戦いに敗れてここもあいつの管理領域になったら厄介だしな」

 『今は立場上、身を隠して生活することも出来ないし』と考えながら、私は腰に手を当てる。

「無論、貴様には協力してもらうぞ」

「それはもちろん!」

 『丸投げするつもりはないよ!』と言い、ソラリスは自身の胸元に手を添えた。

「僕に出来ることがあれば、何でも言ってほしい!」

 余程クソ皇帝と事を構えるのが嫌なのか、ソラリスは協力的な姿勢を見せる。
なので、私は

「じゃあ、送迎をしろ」

 遠慮なく要求を口にした。
すると、ソラリスは目が点になる。

「えっ?送迎?それって、つまり……」

「ああ、一度あちらの世界に行ってくるつもりだ。クソ皇帝を退けるなら、直接対決するのが一番だからな」

 『遠隔でどうこうするのは、難しい』と述べ、私は自身の顎を撫でた。

 まあ、送迎などなくても異世界転移系統の魔法を使えば一応自力で行けるが。
でも、クソ皇帝との戦闘を視野に入れるなら魔力は出来るだけ温存しておきたい。

 『勝つ自信はあるが、油断していい相手じゃないからな』と考え、私は少し慎重になる。
あちらの世界に行くということは、クソ皇帝にとって有利なフィールドで戦うことを意味しているため。
『念には念を入れておくべきだろう』と思案する中、ソラリスが真っ直ぐこちらを見据えた。

「分かった。送迎役を引き受けよう」

 『君ばかりに負担を強いる訳には、いかないし』と言い、ソラリスは表情を引き締める。
本当は他の神が管理する領域へ干渉なんて、やりたくないだろうに。

「ただ、そのためには君へ印をつけないといけない。行きはさておき、帰りは座標が分からないからさ」

 『別世界の状況まで、把握することは出来ないんだ』と説き、ソラリスはこちらに手を差し伸べた。
多分、印を付ける上で接触する必要があるのだろう。

「そうか。なら、早く付けろ」

 そう言って迷わずソラリスの手を取ると、彼は小さく頷く。

「ああ」

 私の手をそっと持ち上げ、ソラリスはゆっくりと自身の力を流した。
────が、バチッと静電気のようなものを発して手が離れる。

「は、弾かれた……?僕の力が……?」
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