悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

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第三章

旧皇城の成れの果て

「さて、何か収穫があるといいんだが」

 空中に座って下の様子を見守る私は、トントンと一定のリズムで膝を叩く。
────と、ここで魔法陣が発動を終えて消えた。

「ぁ……ぐ……ひっ……」

 実験体達の一人が自分自身を抱き締めて、ガタガタと震える。
恐怖を抑え込むように。
でも、水槽の中を漂う赤い液体に気づくなり硬直した。

「な、なに……なん……な……血が……」

 ゆらゆらと瞳を揺らして狼狽え、彼女は視線を上げる。
そして、血と肉だけになった他の連中を見つけると、悲鳴を上げた。
衝撃のあまり錯乱状態に陥る彼女を他所に、私は自身の顎を撫でる。

「やはり、肉体ごと逆行するのは無理があるか。当初の予定通り、精神のみ飛ばす方向で行こう」

 肉体の再構成が上手く行かず、グチャグチャになった他の連中を見やり、私は思考を切り替えた。
『問題は実体なしで、どうやって過去に干渉するかだな』と悩む私を前に、唯一生き残った実験体は目を白黒させる。

「あ、貴方……自分が何をしたか、分かっているの?」

 責める……というより本気で理解出来ない様子で、彼女は問い掛けた。
かと思えば、自身の手のひらを見つめる。

「私達は確かに今日一日だけ、研究の材料となることを受け入れたわ……でも、死ぬことを容認した覚えは……」

「────研究中に負った怪我は致命傷を含め、一切責任を問わない」

「えっ?」

「そういう約束になっている」

 アリシアより伝え聞いた内容を思い返しながら、私は相手の反論を封じた。
すると、彼女は口元に手を当てて愕然とする。

「う、嘘……私、そんなの知らない……」

 言動の端々に戸惑いを滲ませる唯一生き残った実験体に対し、私は小さく肩を竦めた。

「教えたら逃げそうだから、隠したんじゃないか?貴様らの国の連中が」

「!?」

 唯一生き残った実験体はハッとしたように息を呑み、言葉を失った。
『絶望』という言葉がよく似合う表情を浮かべ、ハラハラと涙を流す。
もうすっかり大人しくなった彼女を前に、私は人差し指を上に向けた。
その途端、他の実験体達の体……いや、血肉が宙を舞い、巨大水槽から取り出される。

 ゴミは実験の邪魔になる。さっさと片付けるが吉だ。

 綺麗に血肉のみ取り除き、私はそれらを一つにまとめた。
そうして出来上がった真っ赤なボールを一瞥し、私は巨大水槽に目を向ける。

「では、そろそろ実験を再開するとしよう」

 唯一生き残った実験体を見つめて宣言すると、彼女は

「……はっ?」

 と、声を上げた。
『何を言っているのか分からない』といった表情で後ろに下がり、唯一生き残った実験体は狼狽える。

「な、何を言って……実験はさっき終わったでしょう?」

「ああ、確かに一回目・・・は終わったな。だから、次の・・実験に移る」

 何食わぬ顔で『まだ続けるぞ』と告げる私に、唯一生き残った実験体はサッと青ざめた。

「『次の』って……それは約束と違……」

「違わない。最初にも言った通り、今日一日・・・・だけ私の研究材料となり糧となることが条件だからな」

 回数制限などないことを指摘し、私はゆるりと口角を上げる。
悲観にくれる、唯一生き残った実験体を眺めながら。

「安心しろ。わざと殺すような真似は、しない。運が良ければ、生きて国に帰れるだろう」

 ────と、述べた翌日。
私は見るも無惨な状態になった彼女を見つめ、顎に手を当てる。

「まさか、本当に耐え抜くとはな」

 一生残る傷を負いながらもまだ生きている実験体に、私は心の底から感心する。
正直、途中で命を落とすと思っていたため。
『でも、おかげであの研究はほぼ終わった』と考えつつ、私は腕を組んだ。

「約束通り、国に帰してやろう」

 床に転がる唯一生き残った実験体を一瞥し、私は後ろを振り返る。
すると、壁際で待機していたリカルドとセザールがこうべを垂れた。

「あとのことは、我々にお任せください」

「研究、お疲れ様でした」

 進んで後処理を引き受けるリカルドとセザールに、私は小さく頷く。
と同時に、転移魔法を活用して執務室へ移動した。

 そのまま寝室に直行しても別に良かったんだが、一応仕事の溜まり具合を確認したくてな。

 『急ぎのものも、あるかもしれないし』と思案しながら、私は執務机の上に積まれた書類の山を眺める。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。

「イザベラ様、いらっしゃいますか?」

 聞き覚えのある声が耳を掠め、私はおもむろに顔を上げる。

「アリシアか。とりあえず、入れ」

「はい、失礼します」

 ゆっくり扉を開き、中に入るアリシアはこちらに向かって一礼した。

「朝早くから、申し訳ありません。至急、ご確認いただきたい書類がございまして」

「構わん。見せろ」

 クイクイッと人差し指を動かし、私は該当書類を早く持ってくるよう促す。
それを合図に、アリシアはこちらへ近づいた。

「以前、相談した件なのですが────」

 胸に抱えている書類をこちらに見せつつ、アリシアは諸々の説明を行う。
私はソレを聞き終えると、具体的な対応について指示した。

「なるほど、分かりました」

 相変わらず理解の早いアリシアは、すんなり話を呑み込む。
『では、部下にもそのように言っておきます』と述べ、クルリと身を翻した。
が、何かを思い出したかのように顔だけこちらを振り返る。

「そういえば────ヴァルテン帝国の皇城跡地に建設していた温泉宿、完成したそうですよ」

 『後ほど詳しい報告を受ける筈ですが、一応お伝えしますね』と述べるアリシアに、私は少し目を見開いた。
というのも、今の今まで温泉宿のことを忘れていたから。

 確か、旧皇城を破壊した時たまたま温泉が出て再利用することになったんだよな。
商業施設として活かした方が、イーサンのダメージも大きくなりそうだから。

 『今頃、どんな吠え面をかいていることやら』と頬を緩め、私はふと窓の外を見る。

 せっかくだから、宿に行ってみるか。ジークも連れて、二人で……いや、今は大勢の方がいいか。
あいつは最近、私と関わることを恐れている様子だから。
二人きりになるのは、辛いだろう。

 思い詰めたような……でも、申し訳なさそうな顔をするジークが脳裏に浮かび、私は嘆息する。
『原因は言うまでもなく、褒美の件だよな』と考えながら。

「アリシア、慰安旅行を計画してくれ。行き先はその温泉宿だ」

 『費用は全てこちらで賄う』と話し、私は視線を前に戻した。

「皇城仕えの者なら、誰でも参加可。接待などもない、完全無礼講だ。これまでの努力を労うための場、とでも言っておけ」

「畏まりました」

 アリシアは突然の提案に驚きつつも了承し、目を細める。
『では、直ぐに準備しますね』と口にする彼女に対し、私は小さく頷いた。

「頼んだ」
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