悪辣令嬢の独裁政治 〜私を敵に回したのが、運の尽き〜

あーもんど

文字の大きさ
97 / 103
第三章

慰安旅行

「頼んだ」

 ────と、告げた二ヶ月後。
私はジークやアリシアを引き連れて、温泉宿に足を運んだ。
立派な外観のソレを前に、私は『よくここまで』と少し感心する。

 旧皇城のイメージを完全に払拭するため、異国に伝わる和風建築とやらを参考にするよう言ったんだが……結構いいな。

 『風情があると言うのか』と思案する中、アリシアが宿の扉を開けた。
かと思えば、こちらを振り返る。

「一先ず、各自部屋に荷物を置いて温泉なり見学なりしてきてください。夕食の時間までは、自由行動とします」

 『わざわざ、固まって動く必要はないですし』と言うアリシアに、私達は小さく頷いた。
そして、各々事前に決めていた部屋へ足を運ぶと、一息つく。

 靴を脱いで室内を歩くのは、なんだか変な気分だな。
それに床へ座るなど、普通じゃ考えられない行いだ。

 『これも和風建築の影響か』と畳を撫で、私は少しばかり気を良くする。
異国の文化に触れるのが、思ったより楽しくて。

「これは温泉の出来栄えも、期待出来そうだな」

 個室風呂に繋がる扉を見つめ、私はおもむろに立ち上がった。
好奇心に押されるまま歩を進める私は、久方ぶりの風呂を堪能する。

 普段は浄化魔法で体の洗浄を済ませてしまうが、たまにはこういうのも悪くないな。

 『ちょうどいい湯加減だし』と目を細め、私は浴槽の中で足を伸ばした。
まだまだ小さな自身の体を見下ろし、ふと天井を見上げる。

 そういえば、ジークは少し背が伸びていたな。
まあ、こちらでは三年もの歳月が過ぎていたのだから当然だが。
特にあいつは成長期の真っ只中だし。

 『これから、もっと大きくなる筈だ』と想像しながら、私は風呂から上がる。
なんだか、無性にジークに会いたくなってしまって。
『いい加減待つのも飽きたし、少しくらい接触を図ったっていいだろう』と思い、浴室を出た。
そのまま浴衣とやらに着替えると、私は彼の部屋へ転移する。

「────い、イザベラ様……!?」

 ジークはいきなり目の前に現れた私を見るなり、仰け反った。
『何故ここに……!?』と驚愕する彼を前に、私はタオルを投げ渡す。

「髪を拭け」

「えっ?あっ、はい!」

 困惑しつつも首を縦に振り、ジークは私の背後に回る。
『し、失礼します……!』と言って銀髪に触れる彼の前で、私は腕を組んだ。

「それと、もう一つ────褒美の件、そろそろ決まったか」

 『内容ではなく、覚悟が』と心の中で呟き、私は前を見据える。
と同時に、ジークが身動きを止めた。

「ぁ……そ、れは……」

 明らかな動揺を示すジークは、途端に言い淀む。
顔を見ずともパニックになっていることが分かる彼に、私は小さく肩を竦めた。

「ジークが何をそんなに恐れているのか知らんが、私はどんな願いをされても態度や機嫌を変えない」

「!」

 ハッとしたように息を呑み、ジークはタオルを持つ手に力を入れる。
どこか雰囲気が変わったように感じる彼の前で、私はゆるりと口角を上げた。

「だから、安心して話せ────と言っても、今すぐは難しいだろうからもう少しだけ待ってやる」

 さすがにこの場で洗いざらい吐かせるのは不憫なので、催促に留める。
────と、ここで掛け時計がゴーンゴーンと音を奏でた。

「おっと、もう夕食の時間だな」

 『食堂に行くか』と思い立ち、私は出入り口の方へ足を向ける。
その際、まだ濡れていた髪が一瞬にして乾いた。

「────あ、あの……イザベラ様」

 掠れた声で、控えめに……でも、確かな意志を持って引き止めてくるのはジークだった。
先程と違ってどこか凛としている様子の彼は、私の前へ回る。
『もう逃げない』という意思表示をするかのように。

「夕食後、お部屋にお邪魔してもよろしいですか?褒美のことで、お話があります」

 ようやく腹を括ったのか、ジークは自ら返答の機会を持ち掛けてきた。
真剣な面持ちでこちらを見つめる彼に対し、私はフッと笑みを漏らす。
『それでこそ、私の伴侶だ』と思いながら。

「分かった」

 金の瞳を見つめ返して返事し、私は『何を望むのか、楽しみにしておこう』と述べた。
と同時に、部屋を出ていき、食堂へ直行する。
────間もなくして、身支度を整えたジークや他のメンバーも集まり、各々着席した。

「イザベラ様、乾杯をお願いします」

 慰安旅行の幹事であるアリシアは、水の入ったグラスを差し出して頼んでくる。
なので、私は小さく頷いてソレを受け取った。

「貴様ら、今夜は無礼講だ」

 長テーブルにつく面々を見やり、私はゆるりと口角を上げる。

「好きなだけ、飲んで食べて騒げ────乾杯」

 手に持ったグラスを軽く持ち上げ、私は宴会の始まりを宣言した。
すると、参加者達は一斉に『乾杯!』と復唱してグラスの中身を飲み干す。

「っ~……!やっぱ、酒は美味いな~!」

 アランは空になったグラスを振り回して、『最高!』と叫んだ。
早くも酔ってきている様子の彼を前に、リカルドは

「料理も格別だぞ」

 と、勧める。
多分、早々に酔い潰れることを懸念して酒から気を逸らしたいのだろう。
『さすがに幹部がいち早くダウンするのは困る』と言いたげなリカルドを他所に、セザールは酒を追加する。

「それにしても、不思議な食事ですね。酒も料理も見たことないやつばっかだし」

 テーブルの上に置かれた酒瓶や生魚の料理を前に、セザールは少しばかり身を乗り出した。
興味津々といった態度を取る彼の前で、アリシアは人差し指を立てる。

「和風建築に因んで、その国の食文化も再現してみたんです」

 『和食と言うらしいのですが』と説明し、アリシアは僅かに頬を緩めた。
自分の考案したものが、認めてもらえて嬉しいのだろう。

 ほぼ思いつきで計画した慰安旅行だが、思いのほか皆楽しんでいるようだな。

 どんちゃん騒ぎと化す食堂を見回し、私はスッと目を細める。
『たまには、こういうのも悪くないな』と感じる中、時間はあっという間に過ぎていき、お開きとなった。

 さて、部屋に戻ってジークを待つか。

 数時間前に交わした約束を思い返し、私は席を立つ。
そして、酔い潰れた者を介抱しているリカルドやセザールに声を掛けると、自室へ転移した。
途端に暗くなる視界を前に、私は一先ず明かりをつける。
────と、ここでタイミングを見計らったかのように扉をノックされた。

「イザベラ様、俺です」

「入れ」

 間髪容れずに入室の許可を出し、私は出入り口の方を振り向く。
その刹那、ジークが扉を開けて現れた。

「失礼します」

 どことなく緊張した面持ちでこちらを見つめるジークは、ゆっくりと室内に足を踏み入れる。
まるでこれから決戦にでも行くような出で立ちの彼を前に、私は近くの座布団へ腰を下ろした。

「とりあえず、座れ」
感想 134

あなたにおすすめの小説

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。