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引き上げる
「あ、あの……代金って……」
恐る恐る尋ねてくるノーマンに対し、レクスはキョトンとした表情を見せる。
「ん?そんなものはいらん」
「ですが……」
「これで金をもらったら、プリシラに叱られる。あくまで、失敗作だからな」
「えっ……!?(失敗作……!?それって、何か副作用があったりするのか……!?)」
先程とはまた別の意味で、血の気が引いていくノーマン。
ペタペタと自身の体を触って問題ないか確かめる彼を前に、レクスは呆れたような表情を浮かべた。
「安心しろ、効能に問題はない。ただ、プリシラの納得いく出来ではないというだけだ」
今回で言うと、味だ。
例のオレンジ味のポーションを作る上で出た失敗作。
プリシラは基本成功したもの以外廃棄・放置するため、レクスが定期的に引き取っているのだ。
勿体ないから。
「「「(これで失敗作って……)」」」
ノーマンやセドリックをはじめ、この場に居た全員が遠い目をした。
改めてプリシラの凄さを痛感する彼らを他所に、レクスはスッと真顔になる。
「さて────」
どことなく冷たい声色で言葉を紡ぎ、レクスは不意にリアのことを見た。
「────お前には色々と言いたいことがあるが、今はやめておこう。危険地帯である魔の森の中だからな。ただし、拠点に帰ったら覚悟しておけ」
「……ぼ、僕は悪くない」
絞り出すような声で反論し、リアは震える手を握り締めた。
かと思えば、
「僕は悪くない!」
もう一度、言った。
今度は叫ぶように……半分、自分に言い聞かせるように。
「(あんなことになるとは、思ってなかったんだ……!そりゃあ、多少怪我はするかなって思っていたけど……!でも……!)」
ほぼ全身焼け爛れたノーマンの姿は、温室育ちのリアじゃ耐え切れなかったらしい。
自分で仕出かしたことなのに、彼が一番動揺していた。
「平民は使い捨てのコマ同然の存在だろう!貴族である僕のために死ねるなら、本望じゃないか!」
混乱のあまり変な理屈を捏ねるリアに、レクスも他の騎士達も冷めた目を向ける。
「平民は……ノーマンは使い捨てのコマじゃないし、お前のために死んで喜ぶ変態でもない。それに、青騎士団は実力主義。身分は関係ない、と入団初日に言った筈だ」
「この際だからハッキリ言っておくが、フレイムベアにビビってほぼ動けなかったお前よりはノーマンの方が使えるよ。つまり、青騎士団の考えに当てはめるとお前の価値はノーマン以下ってこと」
「ていうか、まず騎士が他人を盾にするなよなぁ。これを民間人にやられたら、青騎士団の信用ガタ落ちどころの問題じゃないぞ。あまつさえ、魔物の方に突き飛ばすなんて……騎士の風上にも、置けない。軽蔑する」
「あと、一応言っておくが、あのまま突っ立っているか最低でもノーマンの背後に回るくらいにしておけば誰も傷つかなかったんだからな。団長が助けてくれていた」
せめて、ノーマンを突き飛ばさなければ……彼とフレイムベアの距離が想定外に縮まらなければ、レクスの対応圏内だった。
とどのつまり、リアは悪手を引きまくった訳である。
「っ~……!僕は……!」
反射的に何か言い返そうとするリア。
だが、それを遮るようにレクスが手を叩いた。
「とりあえず、引き上げるぞ。この続きは拠点に戻ってからだ(こいつの物言いにイラッとしてつい言い返してしまったが、魔の森で騒ぐのは不味い。ここはただでさえ、戦闘後で血の匂いが濃いし。他の魔物を呼び寄せる可能性が、ある)」
ふと周囲を見回し、レクスは警戒心を強める。
他の騎士達も気を引き締め、動き出した。
そんな中でただ一人、リアだけは不満そうに下を向いている。
「(どうして、僕ばっかりこんな目に……!たかが平民のことで、大事にしすぎだろう!大体、僕の価値があいつ以下ってどういうことだ!実力なら、ちゃんとある!プロの騎士に指南を受けた身なんだから!まだ実戦に不慣れなだけで、僕だってそのうち……!)」
ギシッと奥歯を噛み締め、リアは自身の剣を強く握り締めた。
そのとき、ふとレクスの剣を脳裏に思い浮かべる。
「(そうだ、剣……錬金術師お手製の武器があれば、僕もすぐ団長くらいになれる筈だ!そしたら、もうあいつ以下の価値なんて思われないだろう!)」
先程の戦闘を見ても、レクスの力は武器由来のものだと思っているリアは実に愚かな考えを抱く。
帝国一の騎士と呼ばれる未来を想像しながら、彼は何食わぬ顔で隊列に加わった。
────ちなみにこのあと、リアは拠点のド真ん中で非難と怒号を浴びることになる。
だが、全くと言っていいほど反省はしていないので効果は0だった。
恐る恐る尋ねてくるノーマンに対し、レクスはキョトンとした表情を見せる。
「ん?そんなものはいらん」
「ですが……」
「これで金をもらったら、プリシラに叱られる。あくまで、失敗作だからな」
「えっ……!?(失敗作……!?それって、何か副作用があったりするのか……!?)」
先程とはまた別の意味で、血の気が引いていくノーマン。
ペタペタと自身の体を触って問題ないか確かめる彼を前に、レクスは呆れたような表情を浮かべた。
「安心しろ、効能に問題はない。ただ、プリシラの納得いく出来ではないというだけだ」
今回で言うと、味だ。
例のオレンジ味のポーションを作る上で出た失敗作。
プリシラは基本成功したもの以外廃棄・放置するため、レクスが定期的に引き取っているのだ。
勿体ないから。
「「「(これで失敗作って……)」」」
ノーマンやセドリックをはじめ、この場に居た全員が遠い目をした。
改めてプリシラの凄さを痛感する彼らを他所に、レクスはスッと真顔になる。
「さて────」
どことなく冷たい声色で言葉を紡ぎ、レクスは不意にリアのことを見た。
「────お前には色々と言いたいことがあるが、今はやめておこう。危険地帯である魔の森の中だからな。ただし、拠点に帰ったら覚悟しておけ」
「……ぼ、僕は悪くない」
絞り出すような声で反論し、リアは震える手を握り締めた。
かと思えば、
「僕は悪くない!」
もう一度、言った。
今度は叫ぶように……半分、自分に言い聞かせるように。
「(あんなことになるとは、思ってなかったんだ……!そりゃあ、多少怪我はするかなって思っていたけど……!でも……!)」
ほぼ全身焼け爛れたノーマンの姿は、温室育ちのリアじゃ耐え切れなかったらしい。
自分で仕出かしたことなのに、彼が一番動揺していた。
「平民は使い捨てのコマ同然の存在だろう!貴族である僕のために死ねるなら、本望じゃないか!」
混乱のあまり変な理屈を捏ねるリアに、レクスも他の騎士達も冷めた目を向ける。
「平民は……ノーマンは使い捨てのコマじゃないし、お前のために死んで喜ぶ変態でもない。それに、青騎士団は実力主義。身分は関係ない、と入団初日に言った筈だ」
「この際だからハッキリ言っておくが、フレイムベアにビビってほぼ動けなかったお前よりはノーマンの方が使えるよ。つまり、青騎士団の考えに当てはめるとお前の価値はノーマン以下ってこと」
「ていうか、まず騎士が他人を盾にするなよなぁ。これを民間人にやられたら、青騎士団の信用ガタ落ちどころの問題じゃないぞ。あまつさえ、魔物の方に突き飛ばすなんて……騎士の風上にも、置けない。軽蔑する」
「あと、一応言っておくが、あのまま突っ立っているか最低でもノーマンの背後に回るくらいにしておけば誰も傷つかなかったんだからな。団長が助けてくれていた」
せめて、ノーマンを突き飛ばさなければ……彼とフレイムベアの距離が想定外に縮まらなければ、レクスの対応圏内だった。
とどのつまり、リアは悪手を引きまくった訳である。
「っ~……!僕は……!」
反射的に何か言い返そうとするリア。
だが、それを遮るようにレクスが手を叩いた。
「とりあえず、引き上げるぞ。この続きは拠点に戻ってからだ(こいつの物言いにイラッとしてつい言い返してしまったが、魔の森で騒ぐのは不味い。ここはただでさえ、戦闘後で血の匂いが濃いし。他の魔物を呼び寄せる可能性が、ある)」
ふと周囲を見回し、レクスは警戒心を強める。
他の騎士達も気を引き締め、動き出した。
そんな中でただ一人、リアだけは不満そうに下を向いている。
「(どうして、僕ばっかりこんな目に……!たかが平民のことで、大事にしすぎだろう!大体、僕の価値があいつ以下ってどういうことだ!実力なら、ちゃんとある!プロの騎士に指南を受けた身なんだから!まだ実戦に不慣れなだけで、僕だってそのうち……!)」
ギシッと奥歯を噛み締め、リアは自身の剣を強く握り締めた。
そのとき、ふとレクスの剣を脳裏に思い浮かべる。
「(そうだ、剣……錬金術師お手製の武器があれば、僕もすぐ団長くらいになれる筈だ!そしたら、もうあいつ以下の価値なんて思われないだろう!)」
先程の戦闘を見ても、レクスの力は武器由来のものだと思っているリアは実に愚かな考えを抱く。
帝国一の騎士と呼ばれる未来を想像しながら、彼は何食わぬ顔で隊列に加わった。
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だが、全くと言っていいほど反省はしていないので効果は0だった。
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