Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
180 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-黒(ヒノカグツチ): 実戦

しおりを挟む
「……11時方向、高度328に敵影確認! 神話的概念生命体です、数は5628、来ます!」

 その声が鳴り渡ったのは、先程の作戦行動説明より僅か5分ほどした後だった。

 それまでの航行は順調にも程があるぐらいで、敵機の存在など微塵も認められはしなかったが———。

「総員、第一種戦闘配置! 右舷砲雷撃戦よーい!」

 神話的概念生命体、機神によって作られた非炭素系概念付与生命体の総称である。

『敵対者を排除する』という命令じみた概念が付与されたコイツらに対しては、あらゆる通話手段———それこそ、コックの思考投影能力すら通話、対話としての意志疎通の意味をなさなかった。


「魔力支援砲、てーーっ!」

 しかしコイツらの厄介なところはその数である。個々で何かしら特異な攻撃方法を持っているわけではなく、基本的に特攻を狙ってくる。

 が、数が圧倒的に多い上、スピードも速いのだ。

 そのため、第一次、第二次真珠海作戦は、コイツらのために潰されたと言っても過言ではないほどに、人界軍に多大な損害を出している。

「数、減らしきれません! 30秒後接触します!」



『撃ち方止め! 正面魔力障壁展開! 本艦に傷をつけさせるな、いいな!』

「しっしかし司令、魔力障壁展開直後、この艦も魔力障壁に衝突するのでは……そこの試運転もロクに行っては……」

『知らん、!』

「「ええっ?!」」

『幸い魔力障壁の形状は歪曲している、下手に神話的概念生命体に直接激突されるよりマシだ! 反動推進型エンジン故進むのが多少遅くなるとは言えど、この艦を用いて魔力障壁を押す!』


「なんて無茶苦茶な……」

『荷電粒子砲を使うか?……そっちの方が倫理的にも無茶苦茶だともぉっ! 魔力障壁、前面展開っ!!!!』

 可視化された黄色の魔力障壁が展開された直後、艦内に衝撃が走る。

「うおわあっ!!」

 魔力障壁と本艦が接触したのだ。
「続いて神話的概念生命体と接触します!」

『衝撃緩和用意をしろ!……よし、気合いで乗り切れっ!!!!』

 マジでそのつもりかよ、と艦内クルーが一斉に口をポカンと開けた瞬間だった。

「おおおわあああっ!!」
「きゃああああっ!!!!」

『来たか特攻……! 意外と衝撃は通る、か……魔力障壁の損傷状況は……っ?!』

「魔力障壁……っ、損傷率……57、59%……ただ今60%を突破しました、敵機魔力点総数は残り4259!」

「視界があっ、視界が見えないっ!!!!」
「クソ、奴らめ……魔力障壁前で爆散などしやがって……!」

「損傷率80%突破! このままでは危険です!」


『ならば……コック、お前の出番だ、目覚めろ!』




『エンジェルユニット機構起動、コックピット-ver.2-、起動。魔力概念加速式正面主砲、発射シーケンスに入ります』

 いつものように陽気に話す機巧天使はそこにはおらず、兵器の1機構として組み込まれた、意志のない機械の声のみが流れ出す。

「魔力概念加速式正面主砲、発射シークェンスに入りました!」

 シークェンスの言い方にも違いがあるのも、コックの無機物感を助長させる。



『魔力概念充填、超加速開始…………』
「損傷率94%!……敵機魔力点未だ3000を切っていません!」

『魔力概念加速巡行……出力最大……』
「損傷率98%を突破! 計算上3秒後に完全消失します!」

「2秒後発射だ、いいなコック!」
『最大出力維持……加速巡行中』

「損傷率99.———8%! 晴れます!」

『出力、臨界……っ!!!!』
「聞いていたなコック、発射だっ!!!!」
 



 先程まで爆煙で覆われていた視界は、今度は瞬く閃光に包まれる。

「おわあああっ!!!!」
「本艦にも多少被害が出ています、このまま照射は……」


「構わん、続けろ! ヤツらの大半を焼き払ってくれる!!!!」

「敵機魔力点……急激に減少! 1357、1268、1121、987……!」

「その勢いだ、しかし……敵機の減りが意外と遅い……?」

「敵機、回避行動をとっています! ただぶつかってくるだけの能無しじゃ……!」
「なかった、というわけか……!」

「敵各機方向転換、こちらへと向かってきます!」




「…………ぬぅ……ホーミングレーザーだ! 敵各機をロックオンしろっ!」

 瞬間、こちらに向かって突進を続ける敵各機の周りに、橙色に縁取られた四角模様が現れる。

 その数、数百個以上。ディスプレイは、重複した囲いのオレンジで埋め尽くされていた。
 ディスプレイに大量のみかんでもぶつけたのかとでも言いたくなるほど穢らわしい光景であった。


「ホーミングレーザー、一斉掃射!……っ?!」

「魔力反応……直下200mからですっ!」

 既にレーザーが敵各機1機1機に対して降り注ぐ爆裂の雨の中、その中を下から1つ貫く、蒼き閃光があり。

 その下よりの閃光は、瞬く間に16とその数を増した。

「……第7、8、9、10機動小隊の援護射撃です!」

「ようやく来たか———!」

 艦内が大きく揺れる。
 次秒、ディスプレイには黒い煙が立ち込める。


「第1滑走路に敵機被弾! 電磁カタパルト、破損しました!」
「その他被弾なし、致命的損傷、皆無!」


「今になってまた被弾か……敵各機の状況は?」
「魔力点反応43!……もうすぐ鉄の雨を抜けます!」
「目標地点まで残り10!」




「敵各機魔力点反応、完全消失っ!……大穴方面、標的Z反応点、以前変化なし!」




「急速降下、及び潜航を図る!……エンジンブースターを4時の方向に向けろ!」

 ヒノカグツチ両部に付けられたエンジンブースターがゆっくりと真下に向かってその向きを変え、それに伴い艦正面の向きも下へと向けられる。

「左舷魔力支援砲は全て大穴に向けておけ、魔力障壁出現初期位置も大穴方面に固定!」

「魔力支援砲損傷なし、全て8時の方面に向きました!」



「いよぉし……全艦、最大船速! 急速降下、開始っ!!!!」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...