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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
Side-黒(ヒノカグツチ): 待機命令
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『総員、第二種戦闘配置へ移行。繰り返す、総員第二種戦闘配置に移行。機神の動きに変化は認められない、よって第三次真珠海作戦は未だ第二段階を維持するものとする。繰り返す~~』
その音声に、少女の姿をした天使は揺り起こされる。
「……ここ……は……」
正しくは、少女の姿と魂を持った天使の自我、だが。
「作戦は……以前変わらず第二段階、動きは無し、ですか……」
「白が心配か?」
「———?!」
コック1人のみが搭乗する部屋、エンジェルユニット専用魔力変換室、そのドアが1人でに開く。
コックの背後より聞こえた声は、黒のものだった。
「何の、よう……でしょう」
「———いや、お前を1度、使ってしまったものでな。……体調は良好か?」
「ええ、優れない箇所はございません。残存魔力は以前、80%以上をキープしております」
「今は艦の設備のほとんどを、お前の魔力生成器官に頼ってしまっているからな、何も異常がないならそれで何よりだ」
コックは一度呆然とし、今の黒の言葉の意味について考え伏す。
なぜ黒は私のことを心配したのか、このような兵器に、マスターら意外の誰かが、わざわざ体調の心配をするとは、と。
「しかし———それにしても顔色が悪いな……そんなに白が心配か?……まあ、アイツなら大丈夫だろう、そんなに心配することでも……」
「…………心配、せずには……いられないのです。…………マスターの心の中を覗いてしまいました。……その際見えた記憶、及び感情は、全て『喪失』で埋め尽くされていたのです」
「喪失……やはりそうか、人界軍のヤツらは……」
「そういうことではございません。……先程の報告で伝えた『雪斬ツバサ』の件に関係のある……」
「つまり……アイツが『雪斬ツバサ』に成り代わってから、そこで出会った人についての『喪失』、と」
「……そうです、そして、今のマスターの心は———非常に不安定です。……詳細は不明ですが、形はどうあれ、マスターは直近に『2つの喪失』を経験しています。ですが、マスターはそれらの喪失を乗り切ってはおられませんでした。
口や表、表層意識では平静を装ってはいるものの、深層意識の中では、『自分が弱かったから守れなかったんだ』となって、自分を自分で追い詰めているばかりで……
このまま、もう一度マスターの周りに、何か不幸なことが———それこそ、『雪斬ツバサ』に成り代わったマスターにも、『白』として私が付き添ってきたマスターとしても看過できない———喪失が降りかかったのならば……そう考えてしまい、心配で心配で仕方がないのです」
「…………それでも、俺は大丈夫だと信じる。……それがアイツだ、今までだって———何度だって乗り越えてここまで来たんだ、だから……」
「っ違います!……マスターは……マスターは……もう『雪斬ツバサ』として、その名を冠した、たった1人の新たな少年として生まれ変わってしまわれたのです!
……だから、もうマスターにとっての記憶は、『白』として生きた頃ではなく、『雪斬ツバサ』としての側面が強く出ています。もちろん、記憶によって構成された人格にも、です。
『雪斬ツバサ』としてのマスターにとって、あの喪失こそが初めての———経験だったのです。
……だから、もう一度———世界を救った救世主でも、その身にそぐわぬ重過ぎる十字架を背負った罪人でもない、ただの少年として歩み出したマスターが……それで壊れてしまわないかが……私は……私は……っ!」
「それでも、アイツを信じるしかないだろうさ。……今のアイツは、『白』として生きた時の記憶もあるんだろう?……ならば、本当に……この世界に存在し得ない『究極の戦士』の誕生だ」
「戦士……戦士、と……今のマスターを、貴方は戦士と呼称されるのですか?!」
「そうだ」
「マスターが戦いに出向かれるのを……承諾すると、そうおっしゃるのですか……!」
「そうだ。…………アイツが、自分の活躍次第で世界が終末に向かうと知ってなお、それでも戦うと言うのなら———ならば俺は迷わずそうしろと口にする。
……アイツの人生はアイツに決めさせるべきものだ。こちらから口を出すなど、それこそ野暮だろう、機巧天使」
「あ……」
コックは頭を抱え、今の自分はどうすべきなのかと自問を続ける。
いや、それ以前の問題でもあった。
********
そもそもマスターは、今の私を『忠実なる下僕』———または『仲間』として認識しておられるのか、今まで共に旅をしてきた我々を『仲間』として認識しているのか、我々のことなど、他人事としか捉えられていないのでは、自らの助けなど必要としていないのでは、と。
実際、前者に関しては心配する必要などなかった。マスターは———私に対する態度を変えてはいなかったのだから。
しかし、後者は———おそらくそうなのだろう。
新たな仲間。
新たな友。
新たな愛人。
新たな名前。
新たな暮らし。
新たな喪失。
———そして、唐突に『それまで歩んできたと押し付けられた』現実。救世主としての責務、雪斬白郎としての罪の重荷。
それらが、既に成り代わったマスターと混ざり合った時、マスターはどちらを信じたか———。
それはもう明白になっていた。
そうか、だからなのか。
だから司令はそう口にした、と。
「……確かに、そう、ですね……『雪斬ツバサ』、その名が示す、マスターの未来は……」
「ああ、全てはアイツの人生、アイツに俺は全て任せるつもりだ。……と言っても、俺の読みが正しければ、アイツは後に『雪斬白郎』としての自分と、そして過去と対峙することになるだろうな。
……紛れもない、本人の選択によって、だが」
その音声に、少女の姿をした天使は揺り起こされる。
「……ここ……は……」
正しくは、少女の姿と魂を持った天使の自我、だが。
「作戦は……以前変わらず第二段階、動きは無し、ですか……」
「白が心配か?」
「———?!」
コック1人のみが搭乗する部屋、エンジェルユニット専用魔力変換室、そのドアが1人でに開く。
コックの背後より聞こえた声は、黒のものだった。
「何の、よう……でしょう」
「———いや、お前を1度、使ってしまったものでな。……体調は良好か?」
「ええ、優れない箇所はございません。残存魔力は以前、80%以上をキープしております」
「今は艦の設備のほとんどを、お前の魔力生成器官に頼ってしまっているからな、何も異常がないならそれで何よりだ」
コックは一度呆然とし、今の黒の言葉の意味について考え伏す。
なぜ黒は私のことを心配したのか、このような兵器に、マスターら意外の誰かが、わざわざ体調の心配をするとは、と。
「しかし———それにしても顔色が悪いな……そんなに白が心配か?……まあ、アイツなら大丈夫だろう、そんなに心配することでも……」
「…………心配、せずには……いられないのです。…………マスターの心の中を覗いてしまいました。……その際見えた記憶、及び感情は、全て『喪失』で埋め尽くされていたのです」
「喪失……やはりそうか、人界軍のヤツらは……」
「そういうことではございません。……先程の報告で伝えた『雪斬ツバサ』の件に関係のある……」
「つまり……アイツが『雪斬ツバサ』に成り代わってから、そこで出会った人についての『喪失』、と」
「……そうです、そして、今のマスターの心は———非常に不安定です。……詳細は不明ですが、形はどうあれ、マスターは直近に『2つの喪失』を経験しています。ですが、マスターはそれらの喪失を乗り切ってはおられませんでした。
口や表、表層意識では平静を装ってはいるものの、深層意識の中では、『自分が弱かったから守れなかったんだ』となって、自分を自分で追い詰めているばかりで……
このまま、もう一度マスターの周りに、何か不幸なことが———それこそ、『雪斬ツバサ』に成り代わったマスターにも、『白』として私が付き添ってきたマスターとしても看過できない———喪失が降りかかったのならば……そう考えてしまい、心配で心配で仕方がないのです」
「…………それでも、俺は大丈夫だと信じる。……それがアイツだ、今までだって———何度だって乗り越えてここまで来たんだ、だから……」
「っ違います!……マスターは……マスターは……もう『雪斬ツバサ』として、その名を冠した、たった1人の新たな少年として生まれ変わってしまわれたのです!
……だから、もうマスターにとっての記憶は、『白』として生きた頃ではなく、『雪斬ツバサ』としての側面が強く出ています。もちろん、記憶によって構成された人格にも、です。
『雪斬ツバサ』としてのマスターにとって、あの喪失こそが初めての———経験だったのです。
……だから、もう一度———世界を救った救世主でも、その身にそぐわぬ重過ぎる十字架を背負った罪人でもない、ただの少年として歩み出したマスターが……それで壊れてしまわないかが……私は……私は……っ!」
「それでも、アイツを信じるしかないだろうさ。……今のアイツは、『白』として生きた時の記憶もあるんだろう?……ならば、本当に……この世界に存在し得ない『究極の戦士』の誕生だ」
「戦士……戦士、と……今のマスターを、貴方は戦士と呼称されるのですか?!」
「そうだ」
「マスターが戦いに出向かれるのを……承諾すると、そうおっしゃるのですか……!」
「そうだ。…………アイツが、自分の活躍次第で世界が終末に向かうと知ってなお、それでも戦うと言うのなら———ならば俺は迷わずそうしろと口にする。
……アイツの人生はアイツに決めさせるべきものだ。こちらから口を出すなど、それこそ野暮だろう、機巧天使」
「あ……」
コックは頭を抱え、今の自分はどうすべきなのかと自問を続ける。
いや、それ以前の問題でもあった。
********
そもそもマスターは、今の私を『忠実なる下僕』———または『仲間』として認識しておられるのか、今まで共に旅をしてきた我々を『仲間』として認識しているのか、我々のことなど、他人事としか捉えられていないのでは、自らの助けなど必要としていないのでは、と。
実際、前者に関しては心配する必要などなかった。マスターは———私に対する態度を変えてはいなかったのだから。
しかし、後者は———おそらくそうなのだろう。
新たな仲間。
新たな友。
新たな愛人。
新たな名前。
新たな暮らし。
新たな喪失。
———そして、唐突に『それまで歩んできたと押し付けられた』現実。救世主としての責務、雪斬白郎としての罪の重荷。
それらが、既に成り代わったマスターと混ざり合った時、マスターはどちらを信じたか———。
それはもう明白になっていた。
そうか、だからなのか。
だから司令はそう口にした、と。
「……確かに、そう、ですね……『雪斬ツバサ』、その名が示す、マスターの未来は……」
「ああ、全てはアイツの人生、アイツに俺は全て任せるつもりだ。……と言っても、俺の読みが正しければ、アイツは後に『雪斬白郎』としての自分と、そして過去と対峙することになるだろうな。
……紛れもない、本人の選択によって、だが」
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