人間寸劇

宮浦透

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1.眠る僕、俄雨

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 窓を向いて一人。されど二人。
 ひどく窓を打ち付ける俄雨。そして空はまるで心を映し出したかのように灰色に濁っていた。外を見ることすら面倒になり再び布団に寝そべる。どれだけ経ったのか。一人になったあの日から、一時も心は僕を許してくれなかった。
 「寝かせてくれませんか」
 そう言っても先輩は首を縦に振るどころか、少し笑って横に振り始めた。
 「雨、止みませんね」
 あいも変わらず先輩は笑ってみせた。愛くるしいその笑みはなんの含みもないようだった。
 俄雨は夜まで止むことはないそうで、あと少なくとも数時間はこの嫌な音と空気を味合わなければならないらしい。もうここ数日、いや数ヶ月は家を出ていない。大学どころか、家の扉を開ける気にすらならない。気付けば家の中に食料が置かれている。それを何も気にせず貪る。誰がなんの目的で買ってきて家の中に置いていくのか分からない。もうそんな話は知ったことではなかった。
 もうそんな、誰を気にする余裕も無かった。ただ今は今の状況に入り浸るほかなかった。
 「カーテン、閉めますか」
 酷く濁った外を見ることが嫌になりカーテンを閉め切る。日はほぼ入っていないはずなのにカーテンを閉め切ると余計に暗くなり、電気をつけるほかなくなる。明明しく降り注ぐ人工の光にも嫌われたようで、どうにも鬱陶しさが紛れない。
 半年前、目の前で大切な人を失った。
 「先輩、今度こそ僕は寝ます」
 先輩は未だ笑っていた。こちらを向いてしっかりと、笑っていた。
 自ら絶つその命は、案外すんなり掌から抜け落ちたのだった。
 「助けて」の一言を聞いた時は、頭が真っ白になった。好きな人の弱音は思っていたより深刻だったそうで、その大事に気づいた時にはもう手遅れだった。
 「先輩…」
 もう彼女の体はあらゆる人間に蝕まれ、苛まれていた。
 その癖、見え透いた嘘をついていた。
 なのに、見え透いた嘘は僕を騙した。
 ビルの上に呼び出された時にはもう彼女は救えないほどだった。全てあのサークルが原因だった。彼女が壊された原因は、全てそこにあった。
 ──復讐に走った僕は真っ先に先輩を目に付けた。そして殺した。
 なぜなのか、殺したはずの先輩が目の前でこちらを向いて、笑っているのだ。
 目の前に先輩が現れてから、数ヶ月、目を瞑ることすら許されなかった。
 ある意味これは先輩の復讐なのかも知れない。
 僕は彼女をボロボロにした先輩を許さなかった。
 そして先輩は復讐の対象にした僕を許さなかった。
 きっと先輩は僕を殺すまで消えないのだろう。もう精神を保つことすらままならない。いや、もう狂っているのかもしれない。
 眠る僕、俄雨。
 今もなお、俄雨はうるさい。
 そして今もなお、先輩はこちらを向いて笑っている。
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