人間寸劇

宮浦透

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2.2つの答え

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 辛いときこそ笑顔を。
 これが彼女の口癖だった。
 「ねえ、今回のテストの点数さ、欠点かも」
 「ほんと?!」
 「手応えがまったくなかった」
 「ちなみに教科は?」
 なんでそんなこと聞くのだろう。なんておもいつつも答える。
 「数学だよ」
 昔から理数が苦手だったので、理科の暗記はなんとかなったにしても数学に関してはとてもひどいものだった。
 「うわあ。また君が落ち込む教科じゃん」
 「苦手だから仕方ないって思うんだけどね、やっぱり落ち込むもには落ち込むんだよ」
 「地味に責任感強いのが君のだめなところかもね」
 昔からそうだ。苦手なものでも負けじと努力する。しかし、すべてがすべてうまくいくわけでもないのだ。いくら努力していても限界というものがある。そのいい例が理数だ。
 「どうでもいいって思うべきなのかな」
 「それは言いすぎかな」
 けらけらと笑いながら、言葉を続ける。
 「もし失敗しても次につなげればいいし、全力で頑張ろ。わたしはそう思うようにしてるよ」
 「いつも点数が悪くても笑っているのはなんで?」
 純粋な疑問をぶつける。何事でも、失敗しても笑っている彼女を見ていると元気をもらう。しかしだからこそ不思議なのだ。
 少なくとも悪い点数で嬉しくはないはずだ。 
 「辛いからって落ち込んでたら余計に辛いだけじゃん?」
 「そうだけど...」
 「辛いときこそ笑顔を。心の底から笑って辛さを吹き飛ばすんだよ」
 「そんなものなのかな」
 笑うことで辛さを忘れられるのかもしれない。しかしいつまでも笑っているわけにもいけないと思う。そうだよ。と言葉を続ける。
 「辛いときこそ笑顔を。辛いときこそ・・・」






 ・・・そこで夢は終わる。また悪魔のような時が帰ってくる。
 「ああ、またここで終わるのか」
 体を起こす。時計を見れば時間は朝7時。朝日が体に突き刺さる。
 「辛いときこそ、何なんだよ。笑顔でいる他に何があるんだよ」
 辛いときこそ笑顔を。そういった彼女はもういない。あの優しい声も、笑った優しい笑顔も見れない。目の前には誰もいない。
 覚えていないのだ。笑顔の他に何があるのかわからないのだ。きっともうその一つを見てられれば幸せになれるはずだ。そう信じて生きてきた。目の前から彼女が消えてからもう10年が経つ。
 「帰ってきて答えを教えてくれよ...」
 ある日悲劇は唐突にやってきた。
 「辛いときこそ笑って!」
 そう彼女の残したボイスメッセージを聞き返す。もう今聞ける彼女の声はこれしかない。
 「ああ、笑うよ」
 辛いときこそ笑顔を。いつかもう一つの答えを見つけられると信じて。



 果たしてこの笑顔は本当の笑顔なのだろうか...




2020/12/23 に著作
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