全てが生

宮浦透

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8.朝陽へ向かって叫べ。

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 「ねぇ、今日はどこに行こっか?」
 私、もとい琴海は話しかける。今日はたまたま予定が空いており遊べる日なのだ。
 「琴海ね。今日デートに行きたいの」
 「うん。そうだね」
 1ヶ月に1度、デートに行く。それはもはや習慣になっていた。毎月一緒にゲームセンターに行ったり、映画館に行ったり。
 中学3年生にしては多く遊ぶ方ではないだろうか。
 そしてそれはもう楽しすぎて前の日は夜も眠れないほどだ。
 「琴海ね。昨日楽しみすぎて全然眠れなかったんだよ」
 「そう」
 白人、金髪の私は日本人とイギリス人のハーフだ。イギリスでは別の名前を使うことになっている。
 そのため小さい頃から日本に住んでいる私は、周りからひと目置かれる存在だった。
 すごいと言う人もいる。しかしなかには、あいつだけ目立ってズルい。と言う人もいた。
 正直、コンプレックスに近かった。なにも凄いわけじゃない。目立ちたくて目立ったわけじゃない。
 なのに周りからはひと目置いて注目される。もう黒に染めようかとすら思ったこともある。
 しかし、そんな時ある人物が現れた。
 「それが君だったんだよね」
 「うん」
 この目の前にいる男の子だ。金髪で肌が白いのに、目立っているのに、まるでそれが普通かのように触れてくれた人物がいた。
 髪の毛がすごくサラサラだね。なんて言ってよく髪の毛をといてくれた。
 「じゃあ、デート行こっか」
 「そうだね」
 こんな昔話をしていても仕方ない。そう思った私は鞄を持って、彼氏と家を出た。


 まずは電車に乗った。ここは田舎なため、都会に向かうのだ。
 私は電車など揺れるものが苦手なためすぐに酔ってしまうのだ。
 なので都会ではなく田舎に住んでいる。
 「き、きついかも...」
 吐き気に襲われ、電車を降りようとする。
 丁度ここは駅だ。都内ほどではないが、街が少し栄えている場所。
 ここなら普段目立つ私でもあまり周りを気にせずに行動できる。
 そう思った私は迷わず駅を降りた。
 「ちょっと、お手洗いに行くから、待っててね」
 「あぁ」
 そう彼氏に残して、トイレに入る。
 「かっこ悪いこと、しちゃったなぁ」
 彼氏の前でこんなことをしていいのだろうか。嫌われないだろうか。
 不安だらけの毎日だ。なにせ、恋愛なんて産まれてこのかた初めてなのだから。
 「ありがと、待ってくれて」
 「うん。全然いいよ」
 トイレを後にした私たちは、駅から出てた。
 そこに広がる都会の風景に圧巻してしまった。
 「やっぱり都会って凄いよねぇ。いつ見ても凄いなって思っちゃうよ」
 「そうだな」
 「まずは映画館に行こっか!私見たい映画があるんだ!」
 酔いが完全に無くなった私は彼氏の手を引いて映画館向かった。


 「これ!これ見たかったの!」
 今日この場まで来て見たかった映画は恋愛もの。
ものすごく迫力のある映画なのに最後は感動させられる、そんな物語だ。
 チケットを取り、中に入る。
 妙に暗さを帯びた内部はこれから感動させますよ。と言わんばかりの雰囲気だ。
 映画上映時刻、3時ぴったりになるとライトが消え真っ暗になる。
 みんなが急に静まり返る。これでこそ映画館なのだ。


 「あぁ!そ、そんな!助けないと!」
 「無理です!とにかく今はあなたの人命が先です!」
 映画終盤、海に溺れる彼氏を彼女が必死に助けようとしている。
 「.....っ?!」
 頭にズキりと、電流が走ったような気がした。
 「助けられないなんて!あなた方は人じゃないのか!人でなしなのか!」
 またズキりと、今度は金づちで頭を叩かれたような痛みがはしる。
 「助けられる人は限界があります!」
 「だとしても!もう1人なんて助けられるだろ?!」

 私は助けられたのか?果たしてそうなのだろうか。しかたなかったのだろうか。

 痛みが走る中、私は映画館を飛び出していた。


 謎の痛み、謎の吐き気、謎の胸苦しさ。
 なにもかもが私を襲う。それはまるで、私に生きるなと言わんばかりだ。
 「なんで...?!」
 理由なんてわからない。心当たりなんてない。
 ただ、私は。
 「ただ...??」
 海に近いこと街はあるけば直ぐにでも海へ着く。
 ただ今はそんなこと忘れてしまいたいくらい、切羽詰まっている。
 「私は...??」
 さまざまな頭痛に襲われるなか、理解したことが1つだけある。
 記憶だ。遥か昔?それすら分からない。なのにはっきり鮮明に覚えている。事実を。
 立ち止まり、真横に海が見える道路沿いで、しゃがみ込む。
 「そんな...訳がわからない...」
 いや、それは嘘だ。なにもかもが嘘だ。覚えている。
 「わからない...!!わからないよ...!!」
 ただ認めたくなかった。この事実だけは。
 「なんで...!!なんで...!!」
 かすれ消えそうな声で、私は事実をこぼした。
 「死んじゃったの...?!」

 いつしか、私の手には人形は消えていて。彼氏なんてものはいなくなって。
 それは"偽物"だと気付いた。


 分かっている。何もかもが偽物なんて、分かっている。
 あの人を海で無くして、なのに人形を彼氏にして。
 記憶をなくしたフリをして。
 分かっているんだーー。
 「死んじゃうなんて...聞いてないよ...!!」
 でも、事実はどこまでも追いかけてくるらしい。忘れようとしても、虚構にしようとしても、頭には残るんだ。
 「でも...」
 事実は変わらない。あの人を海で無くした事実。私があの人のことを好きだった事実。なにもかもが変わらない。
 そして、私があの人をもう一生忘れないと言う事実。


 叫ぼう。天国に届くように。
 朝陽つとむくんへ。
 苗字が同じつとむくんへ。
 もう、一生忘れないから。



 「大好きだよ。つとむくん」
 「.....」
 一瞬、誰かが後ろにいたような気がした。




2020.03.18執筆。

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