全てが生

宮浦透

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9.涙の粉

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 枯れ落ちた針葉樹の葉が降り積もり誰もが恐れ生きる時代。二人。貴女はこれからもこの激動の今を生きて、と自身の意図を明かしました。私はそんな此の世のたった一角のような小さな答えを探す小難しいことは少し苦手でした。ここに貴女が好いていた琥珀糖をひとつまみ置いていきます。けれどこれも、届くことなく此の世の流れの一つとなって世界を作るのでしょう。多分、貴女はそれを美しいと言うのでしょう。私には分かりませんが。貴女は墓は要らぬ、と仰られました。少し反対の意はありましたが私は決して貴女を縛る権利は有していません。きっと貴女は私に生きろと、言うのでしょう。まだ貴方には風が吹くと。私がいないからなんなのだ、と。しかしやはり私は強い人間ではありませんでした。
 泣かないでください。
 今はまだ針葉樹が葉を落として然程時が経っていません。今泣くのは世界に不自然に思われます。それと、線香が消えてします。秋の匂いと貴女の涙が混ざって気持ち悪くて安心してしまいそうで。此の世は私たちを騙しましたがそちらは裏も表も無い世界なのでしょうか。次期そちらへ引っ越すと思います。どうしてもと呼ばれた気がするのです。
 この世界はとても、残酷です。
 …生か、死か、それが疑問だ、どちらが男らしい生き方か、じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾やだまを堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押し寄せる苦難に立ち向かい、とどめを刺すのに後には引かぬのと、一体どちらが。福田恆存が残した翻訳の一端は私をとても感化させました。この貴女が残した苦難な此の世に憚るのか、または流されるのか。
 この秋雪は貴女が舞って居るのか、それとも泣いているのか。
 いや、泣いているのだ。
 私が逃げたその日に貴女は結核で倒れた。
 もう逃げない。逃げるからそちらへ行くのではない。あの世で貴女と戦い生きるのだ。だからもう、泣くな。
 取り乱した風と雪と私はどこか世界の端からもっとも世界から離れた前線へと蹴り飛ばされた気がしました。ならきっと、風と雪は貴女のどこかでしょう。琥珀糖をひとつまみ口にするが、やはり貴女の好みは分からない。だからか私が会いに行っても、貴女に理解はされないでしょう。そして貴女が死ぬ時美しいと思ってしまった自分もまた、理解されることはないでしょう。
 次蘇る世界には楽しい現し世が、待っていますよう、祈りながら空へ登ることとしましょう。
 「じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾やだまを堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押し寄せる苦難に立ち向かい、とどめを刺すのに後には引かぬのと、一体どちらが…」
 崖に貴女の墓を作って正解でした。
 泣き止んでください。
 もう、会いに行きますから。
 その時は優しく抱き上げて差し上げます。
 貴女はやはり、私の全てです。
 ゴンと鈍い音が鳴り響く立冬より少し前、私の全ては終幕を迎えた。
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