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第四章 アダルトに突入です
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「そこまでです。大人しく我々に従いなさい。その方があなた方の身の為ですよ」
ゆらりと……今度はカマキリ男が、背を丸めた格好でゆっくりとこちらに近付いてきた。そして徐に懐から書簡の様なものを取り出し、私たちの方へ突き出した。
その書簡を見て、私は息を飲んだ。そこには、“この者達に権限を与える”と書かれ、その上にアーネルリスト王室印が押されていたからだ。
何故この二人が、ギルメリアではなく、アーネルリスト王室の勅命書を持っているのかしら? 誰の命令? ジークフリート陛下?
「それがどうした」
「うっ……ッ」
リドの地獄の底から響いてくるかの様なドスの効いた声と気勢に気圧され、意気揚々と書簡を出したカマキリ男も尻込みした。
流石、魔王様(仮)です! 怖い位の迫力です! うん、怖い!
「いッたたたたたぁー!! ぐふっ!!」
リドは掴んでいた岩男の腕を後ろ手に捻り上げて、カマキリ男の方へと蹴り飛ばした。岩男はカマキリ男の足元へと転がる。
そんな二人を見下ろしながら、リドは威圧的に言い放った。
「今すぐ殺されたくなかったら、とっとと失せろ」
リドの睨みに二人は震え上がり怯んだけれど、怯えながらもカマキリ男はなおも食い下がってきた。
「わ、わ、我々に、そんな口を、聞いて、後悔しても、し、知らんぞ……ッ! 我々は、この国の、王族の、使者、な、なのだからな……ッ!」
「へぇー。それ、誰が発行したの? 本物? ちょっと見せてみてよ」
事の成り行きを見守っていたが、流石に王室の名が出てきたからには黙っていられなくなったのか、傍観を決めていたエル様が沈黙を破った。私たちと二人組の間に躍り出て、カマキリ男の手にある書簡をまじまじと見つめる。
そんなエル様を視界に入れたリドは、「チッ!」と、忌々しげに舌打ちすると、エル様に向かって悪態を吐いた。
「エル。ずっと見てたんなら、こいつが手ぇ出される前に止めろ」
「あー怖い。怒りを押し殺しちゃって。ホントにキミって、アリスが関わると余裕無くなるよね」
「……あ? 何言い出してんだ、てめぇ」
「俺も止めようとしたよ。でも、血相変えて飛んで来るリディアが目に入ったから、キミに譲ったんだよ。お姫様のピンチを救うのは騎士の役目だろ?」
「血相なんか変えてねぇ」
二人組そっちのけで会話が盛り上がってますね。本当に仲良しさんですわね。
エル様を見た二人組が、またもや顔面蒼白になってます。
「エ、エルヴィン王子……ッ!? な、何故こんな所に!?」
「へぇ。俺の顔、知ってるんだ。俺はアンタ達のこと全然知らないのに」
「俺も知らないぞ。そんなモノを出した覚えもない」
「「ジ、ジークフリート陛下ぁーー!?」」
突然私たちの後ろから現れ、会話に参加してきた人物に驚き慄いて、二人組の男達はその場にひれ伏すようにしゃがみ込んだ。
そう、現れ出た彼を、“ジークフリート陛下”と思い込んで。
どんなに変装しても、私にはすぐに分かりましたけれど。
彼はジークフリート陛下ではなく、“金髪のカツラを被ってジークフリートコスをしたトーリ”だということが。
「ど、ど、ど、どうして陛下が、このような所に……ッ? こ、ここは一体!?」
「……お前たちこそ何者だ? 俺の与り知らぬ所で王族の威光を借るとは」
凄いです、トーリ! 本物のジークフリート陛下みたいに偉そうですわ! 本物より本物! ……本物、見たことないですけど。
最後に登場して敵をひれ伏せさせるなんて、まるで水戸●門様みたいですわね!
エル様も、胡乱な目付きで書簡を眺め回している。
「王室印は見たところ本物みたいだけど、この勅命書は俺が出したモノじゃないし、兄上でもない。じゃあ誰が出したんだろうね。……調べるから、それ貸してくれない?」
「そ、そ、それは……ッ!」
慌てふためきながらひれ伏す二人組を、ズラリと並んで見下ろす圧巻のイケメン三人……と、女一人。
「な、なんということだ……魔王に、エルヴィン王子にジークフリート陛下まで…………ま、待てよ……ま、まさか、この女は……ッ!」
カマキリ男が目を剥き出して私を見上げた。その目に、何故か恐怖の色が見て取れる。
「く、暗くてよく分からなかったが、も、もしや……貴女様は……あの、齢8歳でオークションにて魔王を落札し、呪術でラスター公爵家を破滅に追いやった……宰相の娘……アリス・ローズ・シャーリン公爵令嬢……ッ!?」
えーと……随分と話に尾ひれがついちゃってますわね。私が落札したのは魔王(仮)の妹ですし。それにしても、異国の方にまで、この名が轟いているとは知りませんでしたわ。
ガタガタと震え出した二人を見下ろして、私は悪役令嬢らしく、手の甲を口元に当て、高らかに笑い声を上げてみた。
普段、絶対やらないような感じで。
「オォーーホッホッホッホッホッ!」
二人組の血の気が、サァーッと引いたのがわかった。顔面は、蒼白を通り越してチアノーゼみたいな紫色になっている。
そうして私は、ニヤリと口の端だけ上げて笑うと、ビシッと人差し指を突き出して、二人組を指差した。
「呪いますわよ」
「「ヒ、ヒイィィーーーー!!!」」
私の言葉に、二人組はピョンッと飛び上がるように立ち上がって踵を返すと、転げるようにその場から一目散に逃げ出していった。
「ちょっと……レディに対して“ヒィー”は、失礼じゃないかしら?」
「流石としか言いようがない」
「確かに、あの笑い方は俺でも怖ぇ」
「俺が変装してまで出る幕でも無かったな」
三人がぽかんと口を開けて私を見つめている。
私は唇を尖らせて抗議してみた。
「そうは言いますけどね、私だって、物凄く怖かったんですからねー。きっと貴方たちが助けてくれるってわかってたから立ち向かえましたけど」
そういうと、リドが「ククッ」と面白そうに笑いながら、私の頭の上にポンと大きな掌を乗せた。
「てめぇは、ホントに無茶ばっかだな。昔から」
「あ、それ、俺もさっきアリスに言ったよ。厄介ごとばっかり拾ってきて、こっちをハラハラさせるのが趣味なんだよね。アリスは」
呆れるように笑ったエル様の横で、トーリが金髪のカツラを取りながら呟いた。
「全くだ。こっちの心臓がもたん。俺たちをあまり心配させるな。……それより、さっきの奴らは一体何者だったんだ? 書簡の印も本物のようだったが……」
それは私が聞きたいですわ。ユリウスは一体何故あの男たちに追われていたのかしら?
ゆらりと……今度はカマキリ男が、背を丸めた格好でゆっくりとこちらに近付いてきた。そして徐に懐から書簡の様なものを取り出し、私たちの方へ突き出した。
その書簡を見て、私は息を飲んだ。そこには、“この者達に権限を与える”と書かれ、その上にアーネルリスト王室印が押されていたからだ。
何故この二人が、ギルメリアではなく、アーネルリスト王室の勅命書を持っているのかしら? 誰の命令? ジークフリート陛下?
「それがどうした」
「うっ……ッ」
リドの地獄の底から響いてくるかの様なドスの効いた声と気勢に気圧され、意気揚々と書簡を出したカマキリ男も尻込みした。
流石、魔王様(仮)です! 怖い位の迫力です! うん、怖い!
「いッたたたたたぁー!! ぐふっ!!」
リドは掴んでいた岩男の腕を後ろ手に捻り上げて、カマキリ男の方へと蹴り飛ばした。岩男はカマキリ男の足元へと転がる。
そんな二人を見下ろしながら、リドは威圧的に言い放った。
「今すぐ殺されたくなかったら、とっとと失せろ」
リドの睨みに二人は震え上がり怯んだけれど、怯えながらもカマキリ男はなおも食い下がってきた。
「わ、わ、我々に、そんな口を、聞いて、後悔しても、し、知らんぞ……ッ! 我々は、この国の、王族の、使者、な、なのだからな……ッ!」
「へぇー。それ、誰が発行したの? 本物? ちょっと見せてみてよ」
事の成り行きを見守っていたが、流石に王室の名が出てきたからには黙っていられなくなったのか、傍観を決めていたエル様が沈黙を破った。私たちと二人組の間に躍り出て、カマキリ男の手にある書簡をまじまじと見つめる。
そんなエル様を視界に入れたリドは、「チッ!」と、忌々しげに舌打ちすると、エル様に向かって悪態を吐いた。
「エル。ずっと見てたんなら、こいつが手ぇ出される前に止めろ」
「あー怖い。怒りを押し殺しちゃって。ホントにキミって、アリスが関わると余裕無くなるよね」
「……あ? 何言い出してんだ、てめぇ」
「俺も止めようとしたよ。でも、血相変えて飛んで来るリディアが目に入ったから、キミに譲ったんだよ。お姫様のピンチを救うのは騎士の役目だろ?」
「血相なんか変えてねぇ」
二人組そっちのけで会話が盛り上がってますね。本当に仲良しさんですわね。
エル様を見た二人組が、またもや顔面蒼白になってます。
「エ、エルヴィン王子……ッ!? な、何故こんな所に!?」
「へぇ。俺の顔、知ってるんだ。俺はアンタ達のこと全然知らないのに」
「俺も知らないぞ。そんなモノを出した覚えもない」
「「ジ、ジークフリート陛下ぁーー!?」」
突然私たちの後ろから現れ、会話に参加してきた人物に驚き慄いて、二人組の男達はその場にひれ伏すようにしゃがみ込んだ。
そう、現れ出た彼を、“ジークフリート陛下”と思い込んで。
どんなに変装しても、私にはすぐに分かりましたけれど。
彼はジークフリート陛下ではなく、“金髪のカツラを被ってジークフリートコスをしたトーリ”だということが。
「ど、ど、ど、どうして陛下が、このような所に……ッ? こ、ここは一体!?」
「……お前たちこそ何者だ? 俺の与り知らぬ所で王族の威光を借るとは」
凄いです、トーリ! 本物のジークフリート陛下みたいに偉そうですわ! 本物より本物! ……本物、見たことないですけど。
最後に登場して敵をひれ伏せさせるなんて、まるで水戸●門様みたいですわね!
エル様も、胡乱な目付きで書簡を眺め回している。
「王室印は見たところ本物みたいだけど、この勅命書は俺が出したモノじゃないし、兄上でもない。じゃあ誰が出したんだろうね。……調べるから、それ貸してくれない?」
「そ、そ、それは……ッ!」
慌てふためきながらひれ伏す二人組を、ズラリと並んで見下ろす圧巻のイケメン三人……と、女一人。
「な、なんということだ……魔王に、エルヴィン王子にジークフリート陛下まで…………ま、待てよ……ま、まさか、この女は……ッ!」
カマキリ男が目を剥き出して私を見上げた。その目に、何故か恐怖の色が見て取れる。
「く、暗くてよく分からなかったが、も、もしや……貴女様は……あの、齢8歳でオークションにて魔王を落札し、呪術でラスター公爵家を破滅に追いやった……宰相の娘……アリス・ローズ・シャーリン公爵令嬢……ッ!?」
えーと……随分と話に尾ひれがついちゃってますわね。私が落札したのは魔王(仮)の妹ですし。それにしても、異国の方にまで、この名が轟いているとは知りませんでしたわ。
ガタガタと震え出した二人を見下ろして、私は悪役令嬢らしく、手の甲を口元に当て、高らかに笑い声を上げてみた。
普段、絶対やらないような感じで。
「オォーーホッホッホッホッホッ!」
二人組の血の気が、サァーッと引いたのがわかった。顔面は、蒼白を通り越してチアノーゼみたいな紫色になっている。
そうして私は、ニヤリと口の端だけ上げて笑うと、ビシッと人差し指を突き出して、二人組を指差した。
「呪いますわよ」
「「ヒ、ヒイィィーーーー!!!」」
私の言葉に、二人組はピョンッと飛び上がるように立ち上がって踵を返すと、転げるようにその場から一目散に逃げ出していった。
「ちょっと……レディに対して“ヒィー”は、失礼じゃないかしら?」
「流石としか言いようがない」
「確かに、あの笑い方は俺でも怖ぇ」
「俺が変装してまで出る幕でも無かったな」
三人がぽかんと口を開けて私を見つめている。
私は唇を尖らせて抗議してみた。
「そうは言いますけどね、私だって、物凄く怖かったんですからねー。きっと貴方たちが助けてくれるってわかってたから立ち向かえましたけど」
そういうと、リドが「ククッ」と面白そうに笑いながら、私の頭の上にポンと大きな掌を乗せた。
「てめぇは、ホントに無茶ばっかだな。昔から」
「あ、それ、俺もさっきアリスに言ったよ。厄介ごとばっかり拾ってきて、こっちをハラハラさせるのが趣味なんだよね。アリスは」
呆れるように笑ったエル様の横で、トーリが金髪のカツラを取りながら呟いた。
「全くだ。こっちの心臓がもたん。俺たちをあまり心配させるな。……それより、さっきの奴らは一体何者だったんだ? 書簡の印も本物のようだったが……」
それは私が聞きたいですわ。ユリウスは一体何故あの男たちに追われていたのかしら?
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