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第四章 アダルトに突入です
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エルと俺は馬を走らせ、ミストラスの街までやって来た。
この街に俺にピッタリの働き場があるということだが、やはりただ娼館に行きてえだけじゃねえよな?
ミストラスの街は、昔は薄汚れた夜の街という認識しかなかったが、道が整備されてからどんどん発展していき、今ではシャーリン領の繁華街として朝も夜も栄えている。
アリスが考案した珍しい店が建ち並び、他領だけでなく他国からも観光客が訪れるようになった。
表の通りは、お洒落なカフェやブティックなど、庶民が楽しめるリーズナブルな価格の店が多い。
勿論裏通りには昔ながらの娼館や酒場が残っているが、以前のように汚い感じは全くない。“衛生”というものを、アリスが徹底したからだ。
娼館などで働く者たちの為の寮や託児所、病院を設立して、女性が働きやすい環境になっている。
馬を小屋に預け、大通りをエルと並んで歩く。
道行く女たちが俺たちを見ると振り返り、何やらヒソヒソと喋っているのが目に入った。不躾な視線に不快感を覚えながら、俺は溜め息を吐いた。
「おい、エル。お前が顔を隠さねえから、王子だってバレてんじゃねえのか?」
「いや、あれはキミを見て胸をトキメかせているだけだよ」
「はあ?」
「……気付かないかぁー。あーー……似た者カップル…………」
エルが残念なモノを見るような生暖かい眼差しを俺に向けている。
その目ヤメロ。
「で? 俺にピッタリの仕事って何なんだ? 娼館の用心棒とかか?」
それなら、この何年間かで何度かやったことがあるので目新しくもない。
そんな俺を見て、エルの奴は立てた人差し指を左右に振りながら「チッチッチッ」と勿体ぶったように舌を鳴らした。
あー。その顔、殴りてえ。
「そんな平凡な職を、俺が紹介すると思う? そんなの誰にでも思いつくよ」
「悪かったな、平凡で」
「最近ミストラスの街に出来た、最新スポット! 庶民が一時だけでも貴族気分を味わえる、特別なカフェがあるんだって!」
「…………ほぅ」
エルが大袈裟に両手を広げて自慢げに言い放ったが、お前が考えたモンじゃねぇだろ。
“庶民が貴族気分を味わえるカフェ”なんて前代未聞だ。初耳だ。どうせそんな変なモンを思いつくのは……。
「アリスの発案か?」
「当たりー! “執事カフェ”っていうらしいよ。なんとね、そこで働けるのは、容姿の整った男子だけなんだって。リディアにピッタリだろ?」
「ああ!?」
カフェの給仕だと!? 冗談じゃねぇ!!
「絶対ぇ嫌だ」
「えー? でも、日給五千ゼニーだよ?」
「は、はぁーー!? 五千ゼニー!?」
なんだ!? その破格の給料は!? 身体でも売ってんじゃねぇだろうな!?
なんとなく、容姿の整った男たちに傅かれるアリスを想像し、嫌悪感が込み上げた。
どんな男が働いているのか、確かめる必要がある。
「その馬鹿なカフェはどこだ」
「え? 何怒ってんの? そのカフェは今はまだキャスト募集中でやってないよ! 俺が行きたいのは、それの女の子版」
「……あ?」
俺は思いっきり顔を顰めた。そういうコトか。このエロ王子が。
「行きたくねぇ」
「えーー!? キミ、女の子大好きじゃん! 行こうよー!」
「断る。……俺は女が好きなわけじゃねぇ」
「そう言わずに! ここまで来たんだから行こうよ!! そこは“メイドカフェ”っていうんだけど、めっちゃめちゃ可愛い女の子が揃ってるんだって!!」
「一人で勝手に行け」
「これはリディアの為なの! 俺の為じゃないよ!? そこに、“天使のような店員”って言われてる、一番人気の女の子が居るんだって!!」
「……“天使”?」
また“天使”かよ……。
“天使”の大安売りだな。
「リディアが探してる、婚約者の女の子かもしれないだろ? 会ってみたいと思わない?」
会ってみたいのは、てめぇだろ……とは思ったが、俺のことを考えてくれての行動なのかと思えば、少しは聞く耳も持てた。
「……しょうがねぇな。行ってやる……」
「わーい! その“天使ちゃん”、めーーっちゃ可愛いんだってーー! たーのーしーみー!!」
前言撤回だ。
「てめぇは、毒女に刺されろ」
「ちょっ、ちょっと! 縁起でもないこと言わないでくれよ!! ホントに起こりそうで怖いからー!!」
そのメイドカフェとやらで執事カフェの面接も行っているらしく、俺は渋々そのカフェへ向かった。
この街に俺にピッタリの働き場があるということだが、やはりただ娼館に行きてえだけじゃねえよな?
ミストラスの街は、昔は薄汚れた夜の街という認識しかなかったが、道が整備されてからどんどん発展していき、今ではシャーリン領の繁華街として朝も夜も栄えている。
アリスが考案した珍しい店が建ち並び、他領だけでなく他国からも観光客が訪れるようになった。
表の通りは、お洒落なカフェやブティックなど、庶民が楽しめるリーズナブルな価格の店が多い。
勿論裏通りには昔ながらの娼館や酒場が残っているが、以前のように汚い感じは全くない。“衛生”というものを、アリスが徹底したからだ。
娼館などで働く者たちの為の寮や託児所、病院を設立して、女性が働きやすい環境になっている。
馬を小屋に預け、大通りをエルと並んで歩く。
道行く女たちが俺たちを見ると振り返り、何やらヒソヒソと喋っているのが目に入った。不躾な視線に不快感を覚えながら、俺は溜め息を吐いた。
「おい、エル。お前が顔を隠さねえから、王子だってバレてんじゃねえのか?」
「いや、あれはキミを見て胸をトキメかせているだけだよ」
「はあ?」
「……気付かないかぁー。あーー……似た者カップル…………」
エルが残念なモノを見るような生暖かい眼差しを俺に向けている。
その目ヤメロ。
「で? 俺にピッタリの仕事って何なんだ? 娼館の用心棒とかか?」
それなら、この何年間かで何度かやったことがあるので目新しくもない。
そんな俺を見て、エルの奴は立てた人差し指を左右に振りながら「チッチッチッ」と勿体ぶったように舌を鳴らした。
あー。その顔、殴りてえ。
「そんな平凡な職を、俺が紹介すると思う? そんなの誰にでも思いつくよ」
「悪かったな、平凡で」
「最近ミストラスの街に出来た、最新スポット! 庶民が一時だけでも貴族気分を味わえる、特別なカフェがあるんだって!」
「…………ほぅ」
エルが大袈裟に両手を広げて自慢げに言い放ったが、お前が考えたモンじゃねぇだろ。
“庶民が貴族気分を味わえるカフェ”なんて前代未聞だ。初耳だ。どうせそんな変なモンを思いつくのは……。
「アリスの発案か?」
「当たりー! “執事カフェ”っていうらしいよ。なんとね、そこで働けるのは、容姿の整った男子だけなんだって。リディアにピッタリだろ?」
「ああ!?」
カフェの給仕だと!? 冗談じゃねぇ!!
「絶対ぇ嫌だ」
「えー? でも、日給五千ゼニーだよ?」
「は、はぁーー!? 五千ゼニー!?」
なんだ!? その破格の給料は!? 身体でも売ってんじゃねぇだろうな!?
なんとなく、容姿の整った男たちに傅かれるアリスを想像し、嫌悪感が込み上げた。
どんな男が働いているのか、確かめる必要がある。
「その馬鹿なカフェはどこだ」
「え? 何怒ってんの? そのカフェは今はまだキャスト募集中でやってないよ! 俺が行きたいのは、それの女の子版」
「……あ?」
俺は思いっきり顔を顰めた。そういうコトか。このエロ王子が。
「行きたくねぇ」
「えーー!? キミ、女の子大好きじゃん! 行こうよー!」
「断る。……俺は女が好きなわけじゃねぇ」
「そう言わずに! ここまで来たんだから行こうよ!! そこは“メイドカフェ”っていうんだけど、めっちゃめちゃ可愛い女の子が揃ってるんだって!!」
「一人で勝手に行け」
「これはリディアの為なの! 俺の為じゃないよ!? そこに、“天使のような店員”って言われてる、一番人気の女の子が居るんだって!!」
「……“天使”?」
また“天使”かよ……。
“天使”の大安売りだな。
「リディアが探してる、婚約者の女の子かもしれないだろ? 会ってみたいと思わない?」
会ってみたいのは、てめぇだろ……とは思ったが、俺のことを考えてくれての行動なのかと思えば、少しは聞く耳も持てた。
「……しょうがねぇな。行ってやる……」
「わーい! その“天使ちゃん”、めーーっちゃ可愛いんだってーー! たーのーしーみー!!」
前言撤回だ。
「てめぇは、毒女に刺されろ」
「ちょっ、ちょっと! 縁起でもないこと言わないでくれよ!! ホントに起こりそうで怖いからー!!」
そのメイドカフェとやらで執事カフェの面接も行っているらしく、俺は渋々そのカフェへ向かった。
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