悪役令嬢は魔王様の花嫁希望

Dizzy

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第四章 アダルトに突入です

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 夜の帳が落ちる頃、順番待ちしていた馬車が大きな屋敷の正面で止まり、扉が開かれる。
 私は先に降りたリドの手を取り、優雅な仕草で馬車から降り立った。そのままリドの腕に手をかけてエスコートされて歩いて行くと、眩いばかりに光り輝くダンスホールへと入っていった。
 広い大広間には豪華なシャンデリア。色鮮やかな衣装を纏った男女が華麗にワルツを踊っている。
 私たちもその合間をぬけてフロアへと躍り出た。腕を組み、リドに腰を引き寄せられ、音楽の調べに乗って滑り出る。

「……お前、本当にダンス上手くなったな」
「踊っているのがリドだからよ」
「いや……」

 リドのリードは本っ当ぉに踊りやすい。段違いに上手過ぎる。上から批評されても素直に従ってしまえる。思わず感嘆の溜め息を吐いて見上げると、髪を整え正装したいつもより五割増以上イケメンになったリドの綺麗な顔が目に入った。眼福です。
 残念ながら目元あたりは仮面で隠してしまっているのだが、美丈夫イケメンは隠し切れないらしく、周りのお嬢様方の視線を釘付けにしている。罪な男だ。
 華麗にターンをして背を反らせると再び腰を引き寄せられた。軽やかに踊れてとても気持ちがいい。リドと踊っていると、自分がかなり上達したような錯覚を起こしてしまう。

「俺は知ってるからな」
「? 何を?」
「お前が努力してたこと」
「へっ!?」

 リドの口角が上がっている。リドから褒められることがあまりないので、私は間抜けな声を出しつつも、ちょっとニヤけてしまった。おっと、気を抜いたらダメだ。リドの超絶技巧ダンスに置いていかれちゃう! そう思っていたのだが、リドは始終優しくゆったりとリードしてくれた。……どうしたのかしら、なんか心做しか今日はリドが優しい。
 出掛ける時も、リドは私のドレス姿を褒めてくれた。
 淡い紫色の生地にオーガンジーレースを幾重にも重ね、まるで花弁のようなスカートをクリノリンで膨らませたドレス。なんと、なんと、聞いて驚け!! リドからのプレゼントなのだ! ……ちょっぴり肩の露出が多過ぎのような気もしますが、まさかリドがこんなロマンチックで可愛らしいドレスを選んでくれるなんてっ! 感動で倒れそうでしたわ!!
 髪は、色でバレないようにありがちな茶髪のカツラを被っている。顔の仮面もドレスに合わせ紫色の蝶のディテールにしてみた。
 そんな私を見てリドは「まるで妖精の王女だな。髪色が気に入らないが……仕方ねえか」と言ったのだ。……いやいや『妖精の王女』って何? 褒め言葉なの? 私褒められたんだよね……?
 そして「知ってるか? 男が女にドレスを贈るのは、自分好みに着飾らせたのを脱がす楽しみを味わう為らしいぜ」と、耳元で囁かれた……。
 色気半端ないってぇぇぇーー!!(半泣き)
 それよりもリドだ。この日の為に急遽用意した正装服は、少し光沢のある黒の布地に銀糸の精緻な刺繍をあしらった飾り気のあるもので、長身で体格の良いリドに大変似合っている。リドの華やかな美貌をよりいっそう引き立てているように見える。リド、貴方こそ『夜の王』の様ですよ。

「リド、なんか今日優しいね」
「あ?」

 私が思ったままを口にすると、リドは心外だとばかりに顔を歪めた。

「……だって、私に合わせてゆっくり踊ってくれてるでしょ?」
「ああ……そういうことか。今日の目的はお前が舞踏会の雰囲気を味わうことだろ? ダンスに集中し過ぎたら周りが見えないだろうが」
「そうだよね。ありがとう」

 私が微笑むと、リドは不機嫌そうに目を逸らしてしまった。
 あ、まただ。また戻っちゃった。

 実は最近、リドの私に対する態度が素っ気ないというか、冷たいと感じていた。だから、とても単純な自分が嫌になるけど、今日はリドが優しくて……嬉しくて、つい浮かれてしまった。
 リドが冷たくなったのは、あのパジャマパーティーの後くらいからかな。もしかして私がフォクシーに冷たくしてしまったから反発して……なんてことはないよね?

 リドに言われて、私は慌てて踊りながら周りを観察する。すると、ダンスを楽しんでいるのはごく僅かな者で、大多数の者はお喋りしたり、何やら男女で身体を密着させて大広間から出て行ってしまったり……ということに気付いた。

「普通の夜会はこんな感じじゃ……」
「ねえだろうな。仮面で身分も正体も隠して楽しむのが仮面舞踏会の醍醐味だからな。羽目を外して一晩だけの関係を楽しもうとしてる連中ばっかりだ」
「……リドよく知ってるね……」
「エルに誘われてたまに……な」

 ……何!?
 リドもワンナイト・ラブを楽しんじゃってたってこと!?

 私は不機嫌にぷぅーと頬を膨らませた。あのエロ第二王子め。リドに碌なこと教えないわね! 悪友め!

 そう、どうして私がこんな怪しげな仮面舞踏会に参加しているかと言うと、パジャマパーティーの次の日。お父様からお呼びがかかって、シャーリン家うち主催のパーティーを開けと命令されてしまったのだ……。
 そのパーティーは、まさに私の誕生日に行われる。そこでユリウスをお披露目して、“養子にする”と発表をするらしい。
 そして……そして……ッ! 私とジークフリート陛下との結婚式の発表もするというのだ。私はその発表後、シャーリン家を出て結婚式まで宮廷で過ごす。
 そんなパーティーなので、もちろん陛下もお招きする。盛大なものになるだろう。
 盛大に開けば開くほど、そこが婚約破棄イベント会場になってしまいそうで怖い……。そうなった場合、私は間違いなくお父様に抹殺される。
 まあ、かなりの確率で、陛下にパーティーをすっぽかされてしまう気もするけど……。

 あのお父様あくま……。うちにはお母様が居ないので、なんとお父様は私に女主人としてパーティーの仕切りを任すと言ってきたのだ。

 責・任・重・大ッ!
 …………無理でしょおおおおおおお!!
 私まだ、社交界デビューしてないんだよ!? 知識としては知ってるけど、夜会の雰囲気とか、全然わからないよ!!

 私の窮地を知って、リドが『雰囲気だけでも体験しとくか?』と、仮面舞踏会に連れ出してくれた。

「ただの舞踏会なら、ホストは殆ど挨拶とダンスで終わるだろうな。ダンスはなんとなく掴めただろ?」
「うん。ありがとう。他の人がたくさん居る中で踊るの初めてだけど、こんな感じなのね」

 だがやはり、私は夜会に出たことがないけれど、ただの夜会と仮面舞踏会は違うことはわかる。
 なんか……雰囲気が淫靡だよね。
 ここは社交界デビューもしてない処女の小娘が安易に来ちゃ行けないとこだった。
 私ぐらいの年齢のご令嬢も結構いるけど、とっっっても遊び慣れている感じがする。そして、リドを見る眼差しがギラギラしている。これはマズイ。非常にマズイ。

「なんか……リド、ご令嬢たちから狙われてない?」
「お前もな。男共の欲塗れな視線をビシビシ感じるぜ……クソッ。髪色変える位じゃ隠せねえか」
「もうすぐダンス終わっちゃう。どうしよう」
「この曲が終わったら、ダンスに誘われる前に速攻でテラスに出るぞ」
「わかった」

 私が頷くと、リドは踊りながらなんとなくフロアの隅の方へ移動していく。そして音楽が止むと、次の曲が始まる前に退場してテラスへ早足で向かった。

「はぁー気持ち良かったぁ」

 私が少しだけ上がった息を整えながら手を繋いだ先のリドを見ると、リドは呆れたように私を見下ろした。

「俺も気持ち良かったが……ここで言うにはその台詞は不適切だったな」
「え?」

 どういうこと? と辺りを見回すと、暗いテラスの更に暗い所に蠢くモノを見つけた。あっちにも、こっちにも。よくよく目を凝らせば、それはどうやら男女の睦み合いだった。

「……ッ!?」

 私は思わず声を出しそうになったが、後ろから伸びてきたリドの大きな手で口を塞がれて、それはかなわなかった。
 更に暗闇の中から荒い吐息と切なげな喘ぎ声が聞こえてきた。

してきたって勘違いされるぞ」
「こ、困るっ!」

 私が真っ赤になって背後のリドを見上げると、そんな私を見てリドはフッと鼻で笑った。

「お前のそういうの……だと思ってたが、まさか演技だったとはなぁ」

 冷たい声。
 仮面の奥の瞳も、私を非難しているように見える。

「リド……?」
「せっかくだから俺たちもヤッとくか?」
「え?」

 いつの間にか、私は壁際に追い詰められていた。
 リドは私の頭の上の方の壁に腕をついて、私の身体をすっぽりと覆ってしまう。大きな影が私に落ちてきて、見上げるとリドの瞳だけがギラギラと光を放っていた。まるで、獲物を狙う肉食獣のように。

「贈ったこのドレス……脱がさせろ」

 ツッ……と指の節で鎖骨を撫でられながら耳元で熱い吐息混じりに囁かれ、私の肌がゾクッと粟立った。
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