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はじまり
三バカ召喚
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石田三成のところへ行けと言われても、彼がどこで執務に当たっているかまったくわからない。それどころか、この屋敷には僕のいた時代のオフィスにあったような案内板の類が一切ないのだ。どこへ行けば良いのか、どっちに何があるのか、まったくわからない。
人に訊くべきなんだろうが、長年引きこもってネトゲしてた僕には少しハードルが高い。ここは僕の唯一のチートスキルである『三バカ召喚』を使ってもバチは当たるまい。オーディン様はくだらないことでもいいからこき使えって言ってたし、あいつらどうせサボってるだろうし。
確かオーディン様からいただいた笛を吹くと、あいつらの意志に関係なくここへ強制召喚できるんだよな。今召喚すると、ちょうど姉妹揃って入浴中だったりして、あられもない姿で現れたりするんだろうなラノベのお約束から考えて。
そんな馬鹿な期待をしつつ笛を吹いてみると、三姉妹はすぐに目の前に現れた。
残念なことに裸ではなかったが、ある意味だらしない姿ではあった。長女は椅子に座っていたらしく中腰の姿勢で、右手にロジクールのワイヤレスゲーミングマウスを持っていた。次女はあぐらをかいて膝の上に『西遊妖猿伝』と書かれた分厚い漫画本を開いていたし、三女はポテトチップを口に加えていて、黒っぽい袋から更にもう一枚、ポテトチップを掴み出したところだった。
「俺のマウス! 俺の漫画! 俺のピザポテト!」
もちろんどれも量産品だから僕のとは限らないけど、人間界のことに極端に疎かったこいつらがこういった物をはじめて見たのは僕のところに来たときだろう。僕の部屋で見たものが欲しいと思ったなら、僕に気がねなんぞせずに僕のものを奪うはずだ。
急に強制転移されてキョトンとしていた三姉妹だが、僕の姿を見とめると、まず長女が口を開いた。
「ちょうど良かったですわ。この『ヴィデオゲーム』とやらのやり方を教えて下さいな」
自由すぎだろこいつら。
「用があるのは俺の方だっての。石田三成様のところへ行けって言われてるんだけど、どこに行けばいいか教えてくれ」
「ねえさまねえさま、こいつ会話が成立しませんよ。ねえさまが質問していますのに、全然関係ない話をしだしました」
「人間は知能が低いので、会話などという高等技術は彼らにとっては難しいのです。末の妹」
「姉さまはその知能が低い人間が難なくやっていた『ヴィデオゲーム』のやり方がわからないようですけどね」
「お黙りなさい上の妹」
ああ、もう収拾がつかない。
「いいか、まずお前がやろうとしているビデオゲームは、インターネットに繋がっていないとプレイできない。だから俺のパソコンをお前らの家に持って帰ったのなら、恐らくお前らの家はネットなんか繋がってないだろうから無理だぞ」
僕がそう指摘すると、長女は問題ありませんわ、とすました顔で答えた。
「わたくし達、貴方の部屋に居りますの。貴方が『ヴィデオゲーム』をしていた時と同じ状態で使ってますので、ゲームをするのに足りないものは何もないはずですわ」
「は? あの尿だらけの部屋でポテチ喰ったりゲームやろうとしてんの?」
僕の部屋ということは、僕が死ぬ時に尿を入れたペットボトルを倒したり、失禁したりでえらいことになっているはずだ。それでなくても以前からネトゲ以外のことには無頓着だったので、お世辞にも衛生的な部屋とは言えなかったところに大量の尿がぶちまけられて、今や我が家は地下鉄のトイレよりも汚いはずだ。
「わたくし達は女神ですのよ。神の力で汚いものは浄化消臭できますわ」
長女のその台詞を、漫画に目を落としたままの次女が補足する。
「汚いもののなかでもかさばるものは消滅させることができないので、貴方の死骸は狭山湖の湖底に転移させておきました」
「つまりお前らは、俺の部屋で、俺の遺体を狭山湖に捨てて、俺のポテチを喰い、俺の漫画を読み、俺のパソコンをいじっていたと」
居直り強盗か。
「そんなことはどうでもいいですわ。とにかく貴方は『ヴィデオゲーム』のやり方を教えれば良いのです」
前言撤回。恐らくこいつらは居直ってさえいない。居直るというのは、悪いことだとわかった上で「文句あるか」と開き直ることだが、こいつらはまず悪いことだと思っていない。僕の遺体を狭山湖に沈めて僕の部屋のものを我が物顔で使用することが、なんら倫理にもとることではないと思っている。本物のクズだ。
「わかった教えてやるから、その後はちゃんと石田三成の居場所を教えろよ」
「仕方がありませんわね。さあ早く教えて下さいな」
とは言ったものの、ゲームの操作方法は口で説明するにはちょっと複雑すぎる。そもそもこいつらはデスクトップ上からゲームのアイコンを選んでダブルクリックすることすらできない、超弩級の初心者なのだ。
「……そうだな……、お前がゲームをやろうとしている機械は、『パソコン』と言ってゲーム以外にも色々なことができる。街へ出て図書館へ行きまずはパソコンの使い方を調べろ。そうしたらパソコンを使って調べ物をするやり方が分かる。あとはパソコンを使ってゲームのやり方を調べることができる」
「わかりました。『ぱそこん』ですわね。忘れないうちに図書館へ調べに行きますわ」
そう言って長女は、「ぱそこんぱそこん」と繰り返し呟きながら飛び去ろうとした。次女と三女もそれに続く。
「あ、おい待て! 俺の用件は?」
「下賤な人間の頼みより、『ぱそこん』の使い方の方が大事……ぐえっ」
逃げようとした女神たちを、空から降ってきた槍が襲った。三人は標本にされた蝶みたいに地面にピン留めされる。
「お前らは忘れているかもしれないが、お前らは俺の頼みを聞くようにと『オーディン様に』指示されているんだからな。ちゃんと答えないと神罰が下るぞ」
「うぅ……、石田三成は、ここから壁伝いに左へ進んだ突き当りの、すぐ右にある建物に詰めているはずですわ」
槍に串刺しにされたまま、長女は答えた。
「わかった。もうお前らに要はない」
そう言って僕は、地面に縫い止められた姉妹をその場に残して石田三成の元へと向かった。
人に訊くべきなんだろうが、長年引きこもってネトゲしてた僕には少しハードルが高い。ここは僕の唯一のチートスキルである『三バカ召喚』を使ってもバチは当たるまい。オーディン様はくだらないことでもいいからこき使えって言ってたし、あいつらどうせサボってるだろうし。
確かオーディン様からいただいた笛を吹くと、あいつらの意志に関係なくここへ強制召喚できるんだよな。今召喚すると、ちょうど姉妹揃って入浴中だったりして、あられもない姿で現れたりするんだろうなラノベのお約束から考えて。
そんな馬鹿な期待をしつつ笛を吹いてみると、三姉妹はすぐに目の前に現れた。
残念なことに裸ではなかったが、ある意味だらしない姿ではあった。長女は椅子に座っていたらしく中腰の姿勢で、右手にロジクールのワイヤレスゲーミングマウスを持っていた。次女はあぐらをかいて膝の上に『西遊妖猿伝』と書かれた分厚い漫画本を開いていたし、三女はポテトチップを口に加えていて、黒っぽい袋から更にもう一枚、ポテトチップを掴み出したところだった。
「俺のマウス! 俺の漫画! 俺のピザポテト!」
もちろんどれも量産品だから僕のとは限らないけど、人間界のことに極端に疎かったこいつらがこういった物をはじめて見たのは僕のところに来たときだろう。僕の部屋で見たものが欲しいと思ったなら、僕に気がねなんぞせずに僕のものを奪うはずだ。
急に強制転移されてキョトンとしていた三姉妹だが、僕の姿を見とめると、まず長女が口を開いた。
「ちょうど良かったですわ。この『ヴィデオゲーム』とやらのやり方を教えて下さいな」
自由すぎだろこいつら。
「用があるのは俺の方だっての。石田三成様のところへ行けって言われてるんだけど、どこに行けばいいか教えてくれ」
「ねえさまねえさま、こいつ会話が成立しませんよ。ねえさまが質問していますのに、全然関係ない話をしだしました」
「人間は知能が低いので、会話などという高等技術は彼らにとっては難しいのです。末の妹」
「姉さまはその知能が低い人間が難なくやっていた『ヴィデオゲーム』のやり方がわからないようですけどね」
「お黙りなさい上の妹」
ああ、もう収拾がつかない。
「いいか、まずお前がやろうとしているビデオゲームは、インターネットに繋がっていないとプレイできない。だから俺のパソコンをお前らの家に持って帰ったのなら、恐らくお前らの家はネットなんか繋がってないだろうから無理だぞ」
僕がそう指摘すると、長女は問題ありませんわ、とすました顔で答えた。
「わたくし達、貴方の部屋に居りますの。貴方が『ヴィデオゲーム』をしていた時と同じ状態で使ってますので、ゲームをするのに足りないものは何もないはずですわ」
「は? あの尿だらけの部屋でポテチ喰ったりゲームやろうとしてんの?」
僕の部屋ということは、僕が死ぬ時に尿を入れたペットボトルを倒したり、失禁したりでえらいことになっているはずだ。それでなくても以前からネトゲ以外のことには無頓着だったので、お世辞にも衛生的な部屋とは言えなかったところに大量の尿がぶちまけられて、今や我が家は地下鉄のトイレよりも汚いはずだ。
「わたくし達は女神ですのよ。神の力で汚いものは浄化消臭できますわ」
長女のその台詞を、漫画に目を落としたままの次女が補足する。
「汚いもののなかでもかさばるものは消滅させることができないので、貴方の死骸は狭山湖の湖底に転移させておきました」
「つまりお前らは、俺の部屋で、俺の遺体を狭山湖に捨てて、俺のポテチを喰い、俺の漫画を読み、俺のパソコンをいじっていたと」
居直り強盗か。
「そんなことはどうでもいいですわ。とにかく貴方は『ヴィデオゲーム』のやり方を教えれば良いのです」
前言撤回。恐らくこいつらは居直ってさえいない。居直るというのは、悪いことだとわかった上で「文句あるか」と開き直ることだが、こいつらはまず悪いことだと思っていない。僕の遺体を狭山湖に沈めて僕の部屋のものを我が物顔で使用することが、なんら倫理にもとることではないと思っている。本物のクズだ。
「わかった教えてやるから、その後はちゃんと石田三成の居場所を教えろよ」
「仕方がありませんわね。さあ早く教えて下さいな」
とは言ったものの、ゲームの操作方法は口で説明するにはちょっと複雑すぎる。そもそもこいつらはデスクトップ上からゲームのアイコンを選んでダブルクリックすることすらできない、超弩級の初心者なのだ。
「……そうだな……、お前がゲームをやろうとしている機械は、『パソコン』と言ってゲーム以外にも色々なことができる。街へ出て図書館へ行きまずはパソコンの使い方を調べろ。そうしたらパソコンを使って調べ物をするやり方が分かる。あとはパソコンを使ってゲームのやり方を調べることができる」
「わかりました。『ぱそこん』ですわね。忘れないうちに図書館へ調べに行きますわ」
そう言って長女は、「ぱそこんぱそこん」と繰り返し呟きながら飛び去ろうとした。次女と三女もそれに続く。
「あ、おい待て! 俺の用件は?」
「下賤な人間の頼みより、『ぱそこん』の使い方の方が大事……ぐえっ」
逃げようとした女神たちを、空から降ってきた槍が襲った。三人は標本にされた蝶みたいに地面にピン留めされる。
「お前らは忘れているかもしれないが、お前らは俺の頼みを聞くようにと『オーディン様に』指示されているんだからな。ちゃんと答えないと神罰が下るぞ」
「うぅ……、石田三成は、ここから壁伝いに左へ進んだ突き当りの、すぐ右にある建物に詰めているはずですわ」
槍に串刺しにされたまま、長女は答えた。
「わかった。もうお前らに要はない」
そう言って僕は、地面に縫い止められた姉妹をその場に残して石田三成の元へと向かった。
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