ミリしら令嬢 ~乙女ゲームを1ミリも知らない俺が悪役令嬢に転生しました

yumekix

文字の大きさ
8 / 61
第一章 幼年期

親戚、来訪

しおりを挟む
 なんか脚が痛い。目が醒めてまずリディアが思ったのはそれだった。
 昨日のダンスレッスンが、思ったより効いていたのだろう。筋肉痛だ。

(あれぐらいで筋肉痛になるなんて。これだからお嬢様の身体ってのは)

 しかも起きたら、あのゴテゴテした服を着なきゃならない。ただでさえヒールが高かったりスカートにフレーム入ってたりで動きにくい上に筋肉痛。考えるだけで歩くのすらも嫌になる。もう少し、寝ていよう。

「リディア様、おはようございます」

 ドアを開けてエレナが入ってきた。

「おはようショタコンの斑賀はんがさん」
「黙れ」

 リディアのセリフが終わらないうちに、やや食い気味にエレナの叱責が飛ぶ。

「ショタコンじゃないです! キコくんが『チェンジ☆リングス』の攻略キャラだったからびっくりしただけ!」

 エレナが言うには、キコは『チェンジ☆リングス』の作中で、成績優秀だが女子に対する距離感が近すぎて、多くの女子たちを惚れさせてしまう『たらし』のフランシスコというキャラなのだそうだ。思ったよりも早く攻略キャラと邂逅したことで、そろそろ今後の戦略を考え始めなければならないとエレナは言う。

「私たちにとって一番良い結末になるためには、ヒロインであるクロエをどのルートへ誘導して、ヒロインを勝たすのがいいのかライバルキャラを勝たすのがいいのか。そのためには私たちは学園に入るまでにどんな準備ができるのか。判断するにはまだまだ情報が足りないけれど、情報収集は始めなきゃならない」
「じゃあ、まずそのフランシスコってキャラのことを詳しく教えてくれよ」

 リディアがそう要求すると、エレナは「それは知らない方がいい」と反論した。情報収集すると言いながら情報をこちらに与えてくれないとは、どういうことだろうか。

「本来知らないはずのことを知ってしまうと、それがバレたときに取りかえ児チェンジリングだと疑われるじゃない」

 たしかに一理ある。とリディアは思った。取りかえ児は知らないはずの知識を持っていたりするという。逆に言えば、知らないはずのことを知っていたら取りかえ児だと疑われるということだ。

「キコくんが攻略キャラだって話をしたのは、キミにもキコくんの女性に対する距離感の近さの矯正を手伝ってもらいたいから。でも最低限の情報以外は内緒にしておく」

 エレナによれば、昨日のエレナに対しての態度みたいな、無遠慮に近づいて手を握ったりというのをキコが学園に入ってからもいろんな女子に対して繰り返していると、リディアたちにとってあまり良くない結果を招きそうなのだという。そりゃあ、執事長の息子がたくさんの女性をたらし込んでいたら、主家であるリディアの評判もガタ落ちだろう。

「とりあえずキコくんのことは今後対処していくとして、それよりもね、この屋敷にエチェバルリア公爵家の親戚筋に当たる人々が三家族ほど逗留することになるんだって。おそらく今日あたりにはこちらに到着する家族が出てくるそうだから、粗相のないようにね」

 急に話題を変えられて、リディアが頭の整理がつかず何も言わないでいると、エレナは構わず説明を続けた。

「遠くにある自分の領邦で暮らしている親戚が、堅信礼のためにこっちへ来るんだって。で、親族のよしみで、堅信礼までの数日間だけこの屋敷に寄宿させてもらうってことらしいの」
「親戚の家族が何家族か来るのはわかった。で、その『ケンシンレイ』ってのは何だ?」

 ようやく大意を飲み込めたところに出てきた、堅信礼なる耳慣れない言葉に、リディアは思わず尋ねた。

「詳しくはわかんない。私の知ってるキリスト教の堅信礼と同じものだとしたら、幼児洗礼を受けた子どもがある程度分別のつく年齢になってから、改めて自分の意志で信仰を宣言する儀式かな」

 エレナの説明によれば、この世界の堅信礼がキリスト教のそれと同じかどうかは分からないが、とにかくこのヴァンダリア王国の国教である女神教の信徒たちは、九歳のときに必ず堅信礼という儀式を受けなければならないのだという。どこの教会で受けても良いのだが、貴族の多くは王都のすぐ隣にある聖地ウルフィラの、聖グラシア大聖堂での堅信礼を希望する。だから地方に住む貴族たちは、自分の子女の堅信礼の時期にはウルフィラか王都に屋敷を持つ親戚の家に逗留するのだという。

「九歳ってことは、俺も対象なのか?」
「そうみたい」

 聖グラシア大聖堂では、堅信礼は毎年、春夏秋冬の四回行われ、貴族の子供たちは自分の九歳の誕生日のすぐ後の堅信礼に参加するのだそうだ。リディアは先月に九歳の誕生日を迎えたばかりで、今度の堅信礼の対象となっているらしい。

「ご逗留されるのは、まずボルハ侯爵家。リディアの父親のロドリゴ公爵の妹君が女当主になっていて、堅信礼を受けるご息女フェリシア様と一緒に来訪されます」

 エレナは、メイド長から聞いておいたという来訪者たちの素性をリディアに伝えていく。

「次にフロレンティーノ公爵家。当主様の奥様がエチェバルリア家の出身であるのみならず、何世代も前からお互いに婚姻関係を結んでいる縁の深い家です。前当主夫人のマルガリータ様はロドリゴ公爵の大叔母に当たる方で、親族の中でも最年長ということもあり、ロドリゴ公爵でも頭が上がらないそうです。ご当主夫妻とご子息様、それにマルガリータ様がいらっしゃいます。
 最後は、ガルシア伯爵家。ご当主の母上がエチェバルリア家出身。ご当主のフェリペ様夫妻とご息女様がおいでになります」

 三家族の説明を終えるとエレナは「さいわい、この中には『チェンジ☆リングス』の攻略キャラやライバルキャラはいないようです」と付け加えた。

「ところでなんで敬語なんだ?」
「他の貴族様がたがいらっしゃると言うので、わたくし達の正体がバレないように気を遣うことにしたのです。これからは二人きりの時もリディア様とお呼びしますから、リディア様もわたくしのことはエレナとお呼びください」

 お嬢様らしい言葉遣いも忘れずに。とエレナは念を押す。バレちゃいけないというのには賛同するが、さっきまでお嬢様に向かって黙れとか言ってた癖に、急に勝手なタイミングで今から敬語ね、みたいに言われると、ちょっと反抗したくなる。

「承知いたしましたわ。ショタコンのエレナさん」

 数秒間、リディアの部屋を沈黙が覆った。そしてしばらくの後、エレナはにっこりとほほ笑んだ。

「ふざけていると、すり下ろしますよリディア様」
「ご、ごめんなさい……」

 なんか怖かったので、とりあえず謝っておいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)
ファンタジー
アリシアは父の再婚により義姉ができる。義姉・セリーヌは気品と美貌を兼ね備え、家族や使用人たちに愛される存在。嫉妬心と劣等感から、アリシアは義姉に冷たい態度を取り、陰口や嫌がらせを繰り返す。しかし、アリシアが前世の記憶を思い出し……推し活開始します!

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...