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第一章 幼年期
虫かご令嬢
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そして予定通りその日、最初の親族一家が到着した。
「ボルハ侯爵さま、及びご息女さま、ご到着でございます」
エレナは自室でくつろいでいるリディアに、そう告げに行った。
「へえ、もう来たんだ」
「へえじゃねえよ挨拶しに行くんだよ」
敬語で接すると決めたはずが乱暴なツッコミをしてしまったが仕方がない。粗相のないようにと言っておいたはずなのだ。斑賀李衣は社会人だった頃、会社で『大事なお客さんが来るから粗相のないように』と言われた客が来訪したときは、立ち上がって出迎えるくらいはしたものだ。貴族の世界は東京のIT企業よりずっと礼儀に厳しいのだから、挨拶に行かないなどありえない。
「ボルハ侯爵って言うと、リディアの父親の妹だっていう女当主か」
「左様でございます。この世界での貴族の婦女の挨拶は、スカートの裾をつまんで膝を少しかがめながらお辞儀をするというものですので、侯爵閣下にお会いになられたらそのようになさって下さい」
さっきのツッコミを帳消しにするように、つとめて丁寧な口調でリディアに説明する。
「スカートをつまんで……? ああ、貴族が出てくる映画とかで見たことある。あれか」
「はい。カーテシーと言いまして、西洋の伝統的な挨拶ですね。映画で見た動きを真似していただければ大丈夫かと思います。それと言葉遣い」
エレナが指摘すると、リディアは慌てて言葉遣いを糺す。
「それで挨拶って、どんなことを言ったら良いんですの?」
問われてエレナは、少し思案して答える。
「……こんなのはどうでしょう。『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう』」
『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します』は、『チェンジ☆リングス』でのリディアの初登場時のセリフだ。そこまではこの通りで間違いないと思うのだが……。
「自分の叔母に『コーシャクカッカ』は、少しかしこまり過ぎではなくて?」
「それは私も悩んだのですが」
エレナは、あえてこの挨拶にする理由を説明する。
「ボルハ侯爵さまとリディア様の親密度が分からない以上、少し堅苦し過ぎるくらいにしておく方が無難だと愚考致しました。距離感を測り間違えた場合のリスクを考えると、馴れ馴れしい方向に間違えるのは失礼に当たりますが、堅苦しい方向に間違えても子供の微笑ましい行動で済みます」
「なるほど……。でも、リディアってそんなに礼儀正しいタイプではありませんのに、不自然ではなくて?」
確かに、リディアは脇谷玲司の記憶を思い出す前から問題のあるご令嬢だったらしく、昨今のリディアのお嬢様らしからぬ行動に、周囲から取りかえ児ではないかと疑われはすまいかとエレナがやきもきしていると、周囲は意外と『まあリディア様だし』みたいな反応で事なきを得ることがよくある。だがそれでもやっぱり、どう接して良いか分からない相手に対しては少々丁寧過ぎるくらいの態度が安全だろう。
「礼儀正しすぎてかえって不自然、というのは、あまり心配しなくても良いと思います。子どもが、たまにしか会わない親戚にどう接していいかわからなくなって距離感がおかしくなるのはよくあることですから」
エレナの言葉に、リディアも「言われて見れば」と納得する。
「そうでしょう。わたくしの前世の記憶では、甥のよっくんが、ある日会ったときはスポーツチャンバラの剣でひたすら叩き続けて来たのに、一年ほどして次に会ったときは、一言『おはようございます』と挨拶したきり、黙ってお行儀よく座っていたりなんてこともございました」
「ああ、いますわねそういう子ども」
リディアも似たような人物の心当たりがあるのか、その話題に乗ってくる。
「ちなみに、その次に会ったときはどんな態度だったんですの?」
えーと確か、とエレナは、しばし宙を見上げて記憶を呼び起こす。
「開口一番、『おねーさん母乳出る?』と訊ねてきました」
「ああ、馬鹿なのですわね……」
「はい。馬鹿でございました……」
愛すべき馬鹿と不快な馬鹿の境界線の、やや不快寄りの位置にいる馬鹿でございました。とエレナは付け加えた。そんなよっくんでも、もう二度と会えないと思うと少し寂しく……、いや、よっくんに関しては全然寂しくないな。
「よっくんはどうでも良いのです。とにかく、どんな挨拶でも不自然に思われるリスクはゼロではない以上、先ほどの挨拶が一番無難だと考えます」
「わかりました。その案でいきますわ。えーと、『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下に――』」
「『侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう』です」
エレナが教えてやると、リディアは何度か繰り返し練習した。
「よし、覚えた……ましたわ」
「では、さっさと行きましょう」
リディアの準備ができたようなので、彼女を急かして挨拶に向かう。女侯爵さまが『いつまでたっても挨拶に来ない』としびれを切らしているかもしれない。
エレナはボルハ侯爵が待っているはずのゲストルームの扉をノックし、「リディア様が侯爵閣下へご挨拶に参りました」と告げる。室内から家主ロドリゴの声で「どうぞ」と聞こえたのを確認して、真鍮のドアノブをゆっくりと回してドアを開ける。ここのドアは急いで開けると蝶番がきしむからゆっくりとだ。
室内には中央にやや背の低い丸テーブルがあり、それを囲む形で四つ、二人がけのソファが置いてあった。そのうちドア側から見て左にあるソファにロドリゴ公爵とその妻オリビアが座っていた。そしてその正面、エレナたちから見て右側のソファには、派手な服装の貴婦人と、その娘らしき令嬢が座っていた。彼女たちが、レティシア・ボルハ侯爵とその娘フェリシアだろう。
(貴族とはいえ、いくらなんでも派手すぎない?)
レティシアのドレスは、赤を基調として金糸銀糸で飾り立てられた上に、ヴィクトリア朝の女王みたいな大きな襞襟がついていた。そして部屋の隅の帽子掛けに掛けられた、大きな赤い羽根飾りのついたつば広帽も彼女のものだろう。
フェリシアの方は、白に近い薄桃色の、レースのフリルがたくさんついたロングドレスに、アクセントとして夏の空みたいな鮮やかな青いストールを肩に掛けていた。レティシアに比べれば格段に落ち着いたファッションだが、フリルでふわっふわになりすぎている感がある。
日本人の感覚では派手だがこの世界ではそれほどでもないのだろう。普段はもう少し飾りの少な目な服装をしているリディアの母オリビアも、やはり襞襟のついた、レティシア程ではないが派手なドレスを着ている。
レティシア母娘と談笑していたロドリゴは、リディアに向かって手招きした。
「おいでリディア。叔母さまにご挨拶しなさい」
リディアは丸テーブルの方へしずしずと歩み寄ると、スカートの裾をつまんで膝を少しかがめ、お辞儀をした。
「エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
うん、ぎこちないけど一応できてるな。とエレナは安堵した。これなら、レティシアたちからも合格点をもらえるか、最悪でも「まあこの子ったら他人行儀な」と笑われる程度で済む。
はずだった、のだが……。
レティシア母娘もロドリゴ夫妻も、無表情のまま沈黙してしまった。
「……なんですその仕草。ひょっとして、カーテシーのつもりですの?」
数秒の後、『この世でもっともつまらないものを見た』とでも言いたげな冷めた目で、レティシアはそう言った。
「え……」
言葉に詰まるリディアに対し、彼女はさらに畳み掛ける。
「スカートの中に虫でも入ったのかと思いましたわ。裾を持ち上げてくねくねなさるんですもの。そのスカートは虫かごなのかしら?」
厳しいなこの人。エレナは自分の考えが甘かったことを悟った。多少ぎこちないくらい許されるだろうと思っていたのに。
「ねえフェリシア。こちらの子に挨拶の仕方を教えて差し上げて」
フェリシアは「はい」と返事をして立ち上がると、リディアの正面に立った。琥珀色の瞳と豊かに波打つ亜麻色の長い髪が印象的な、花のように可憐な少女だ。
彼女は背すじを伸ばしてリディアをまっすぐに見据えると、まるで今日この時にこの動作をすることを、歴史の初めから運命づけられていたかのような自然さで、スカートの裾をつまみながらお辞儀をした。
「ボルハ侯爵家の長女フェリシアですわ。よろしくお見知りおきを。虫かごリディア様」
容姿と仕草の可憐さとは裏腹に痛烈な皮肉を言ってくるフェリシア。だが言われても仕方がない。フェリシアのカーテシーに比べると、リディアのそれはいかにも不格好だ。直立不動でスカートをつまみ上げたあとでお辞儀をするので、カーテシーというより、力士が土俵入りの時に化粧まわしをちょっとつまんでみせる動作に似ている。裾をつまむ手と、膝とお辞儀の三つの動作が連動せずバラバラなのだ。
「わたくし相手なら不作法には目をつむりますけれども、数日以内にはマルガリータ伯母様がいらっしゃるのですよ? 伯母様にあんな挨拶をして見せたら雷が落ちましてよ」
エレナは、何も言い返せず俯いているリディアのそばにそっと近づいて声をかけた。
「正しいカーテシーのやり方をご指導いたします。リディア様ならすぐご習得されますよ」
メイドは、特に幼い子息令嬢のお付きのメイドというものは、主人に対して礼儀作法を教える役割も持つ。レティシアに対し、すぐにもリディアに正しい礼儀を身につけさせるという意志を示さなければ、エチェバルリア家のメイド全体の沽券に関わる。
エレナの声かけは、レティシアに対する意思表明と、落ち込んでいるリディアへのフォローを兼ねたものだ。
とにかく、特訓をしなければならない。
リディアが正しいカーテシーを習得するまで。
「ボルハ侯爵さま、及びご息女さま、ご到着でございます」
エレナは自室でくつろいでいるリディアに、そう告げに行った。
「へえ、もう来たんだ」
「へえじゃねえよ挨拶しに行くんだよ」
敬語で接すると決めたはずが乱暴なツッコミをしてしまったが仕方がない。粗相のないようにと言っておいたはずなのだ。斑賀李衣は社会人だった頃、会社で『大事なお客さんが来るから粗相のないように』と言われた客が来訪したときは、立ち上がって出迎えるくらいはしたものだ。貴族の世界は東京のIT企業よりずっと礼儀に厳しいのだから、挨拶に行かないなどありえない。
「ボルハ侯爵って言うと、リディアの父親の妹だっていう女当主か」
「左様でございます。この世界での貴族の婦女の挨拶は、スカートの裾をつまんで膝を少しかがめながらお辞儀をするというものですので、侯爵閣下にお会いになられたらそのようになさって下さい」
さっきのツッコミを帳消しにするように、つとめて丁寧な口調でリディアに説明する。
「スカートをつまんで……? ああ、貴族が出てくる映画とかで見たことある。あれか」
「はい。カーテシーと言いまして、西洋の伝統的な挨拶ですね。映画で見た動きを真似していただければ大丈夫かと思います。それと言葉遣い」
エレナが指摘すると、リディアは慌てて言葉遣いを糺す。
「それで挨拶って、どんなことを言ったら良いんですの?」
問われてエレナは、少し思案して答える。
「……こんなのはどうでしょう。『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう』」
『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します』は、『チェンジ☆リングス』でのリディアの初登場時のセリフだ。そこまではこの通りで間違いないと思うのだが……。
「自分の叔母に『コーシャクカッカ』は、少しかしこまり過ぎではなくて?」
「それは私も悩んだのですが」
エレナは、あえてこの挨拶にする理由を説明する。
「ボルハ侯爵さまとリディア様の親密度が分からない以上、少し堅苦し過ぎるくらいにしておく方が無難だと愚考致しました。距離感を測り間違えた場合のリスクを考えると、馴れ馴れしい方向に間違えるのは失礼に当たりますが、堅苦しい方向に間違えても子供の微笑ましい行動で済みます」
「なるほど……。でも、リディアってそんなに礼儀正しいタイプではありませんのに、不自然ではなくて?」
確かに、リディアは脇谷玲司の記憶を思い出す前から問題のあるご令嬢だったらしく、昨今のリディアのお嬢様らしからぬ行動に、周囲から取りかえ児ではないかと疑われはすまいかとエレナがやきもきしていると、周囲は意外と『まあリディア様だし』みたいな反応で事なきを得ることがよくある。だがそれでもやっぱり、どう接して良いか分からない相手に対しては少々丁寧過ぎるくらいの態度が安全だろう。
「礼儀正しすぎてかえって不自然、というのは、あまり心配しなくても良いと思います。子どもが、たまにしか会わない親戚にどう接していいかわからなくなって距離感がおかしくなるのはよくあることですから」
エレナの言葉に、リディアも「言われて見れば」と納得する。
「そうでしょう。わたくしの前世の記憶では、甥のよっくんが、ある日会ったときはスポーツチャンバラの剣でひたすら叩き続けて来たのに、一年ほどして次に会ったときは、一言『おはようございます』と挨拶したきり、黙ってお行儀よく座っていたりなんてこともございました」
「ああ、いますわねそういう子ども」
リディアも似たような人物の心当たりがあるのか、その話題に乗ってくる。
「ちなみに、その次に会ったときはどんな態度だったんですの?」
えーと確か、とエレナは、しばし宙を見上げて記憶を呼び起こす。
「開口一番、『おねーさん母乳出る?』と訊ねてきました」
「ああ、馬鹿なのですわね……」
「はい。馬鹿でございました……」
愛すべき馬鹿と不快な馬鹿の境界線の、やや不快寄りの位置にいる馬鹿でございました。とエレナは付け加えた。そんなよっくんでも、もう二度と会えないと思うと少し寂しく……、いや、よっくんに関しては全然寂しくないな。
「よっくんはどうでも良いのです。とにかく、どんな挨拶でも不自然に思われるリスクはゼロではない以上、先ほどの挨拶が一番無難だと考えます」
「わかりました。その案でいきますわ。えーと、『エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下に――』」
「『侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう』です」
エレナが教えてやると、リディアは何度か繰り返し練習した。
「よし、覚えた……ましたわ」
「では、さっさと行きましょう」
リディアの準備ができたようなので、彼女を急かして挨拶に向かう。女侯爵さまが『いつまでたっても挨拶に来ない』としびれを切らしているかもしれない。
エレナはボルハ侯爵が待っているはずのゲストルームの扉をノックし、「リディア様が侯爵閣下へご挨拶に参りました」と告げる。室内から家主ロドリゴの声で「どうぞ」と聞こえたのを確認して、真鍮のドアノブをゆっくりと回してドアを開ける。ここのドアは急いで開けると蝶番がきしむからゆっくりとだ。
室内には中央にやや背の低い丸テーブルがあり、それを囲む形で四つ、二人がけのソファが置いてあった。そのうちドア側から見て左にあるソファにロドリゴ公爵とその妻オリビアが座っていた。そしてその正面、エレナたちから見て右側のソファには、派手な服装の貴婦人と、その娘らしき令嬢が座っていた。彼女たちが、レティシア・ボルハ侯爵とその娘フェリシアだろう。
(貴族とはいえ、いくらなんでも派手すぎない?)
レティシアのドレスは、赤を基調として金糸銀糸で飾り立てられた上に、ヴィクトリア朝の女王みたいな大きな襞襟がついていた。そして部屋の隅の帽子掛けに掛けられた、大きな赤い羽根飾りのついたつば広帽も彼女のものだろう。
フェリシアの方は、白に近い薄桃色の、レースのフリルがたくさんついたロングドレスに、アクセントとして夏の空みたいな鮮やかな青いストールを肩に掛けていた。レティシアに比べれば格段に落ち着いたファッションだが、フリルでふわっふわになりすぎている感がある。
日本人の感覚では派手だがこの世界ではそれほどでもないのだろう。普段はもう少し飾りの少な目な服装をしているリディアの母オリビアも、やはり襞襟のついた、レティシア程ではないが派手なドレスを着ている。
レティシア母娘と談笑していたロドリゴは、リディアに向かって手招きした。
「おいでリディア。叔母さまにご挨拶しなさい」
リディアは丸テーブルの方へしずしずと歩み寄ると、スカートの裾をつまんで膝を少しかがめ、お辞儀をした。
「エチェバルリア公爵家の長女リディアと申します。侯爵閣下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
うん、ぎこちないけど一応できてるな。とエレナは安堵した。これなら、レティシアたちからも合格点をもらえるか、最悪でも「まあこの子ったら他人行儀な」と笑われる程度で済む。
はずだった、のだが……。
レティシア母娘もロドリゴ夫妻も、無表情のまま沈黙してしまった。
「……なんですその仕草。ひょっとして、カーテシーのつもりですの?」
数秒の後、『この世でもっともつまらないものを見た』とでも言いたげな冷めた目で、レティシアはそう言った。
「え……」
言葉に詰まるリディアに対し、彼女はさらに畳み掛ける。
「スカートの中に虫でも入ったのかと思いましたわ。裾を持ち上げてくねくねなさるんですもの。そのスカートは虫かごなのかしら?」
厳しいなこの人。エレナは自分の考えが甘かったことを悟った。多少ぎこちないくらい許されるだろうと思っていたのに。
「ねえフェリシア。こちらの子に挨拶の仕方を教えて差し上げて」
フェリシアは「はい」と返事をして立ち上がると、リディアの正面に立った。琥珀色の瞳と豊かに波打つ亜麻色の長い髪が印象的な、花のように可憐な少女だ。
彼女は背すじを伸ばしてリディアをまっすぐに見据えると、まるで今日この時にこの動作をすることを、歴史の初めから運命づけられていたかのような自然さで、スカートの裾をつまみながらお辞儀をした。
「ボルハ侯爵家の長女フェリシアですわ。よろしくお見知りおきを。虫かごリディア様」
容姿と仕草の可憐さとは裏腹に痛烈な皮肉を言ってくるフェリシア。だが言われても仕方がない。フェリシアのカーテシーに比べると、リディアのそれはいかにも不格好だ。直立不動でスカートをつまみ上げたあとでお辞儀をするので、カーテシーというより、力士が土俵入りの時に化粧まわしをちょっとつまんでみせる動作に似ている。裾をつまむ手と、膝とお辞儀の三つの動作が連動せずバラバラなのだ。
「わたくし相手なら不作法には目をつむりますけれども、数日以内にはマルガリータ伯母様がいらっしゃるのですよ? 伯母様にあんな挨拶をして見せたら雷が落ちましてよ」
エレナは、何も言い返せず俯いているリディアのそばにそっと近づいて声をかけた。
「正しいカーテシーのやり方をご指導いたします。リディア様ならすぐご習得されますよ」
メイドは、特に幼い子息令嬢のお付きのメイドというものは、主人に対して礼儀作法を教える役割も持つ。レティシアに対し、すぐにもリディアに正しい礼儀を身につけさせるという意志を示さなければ、エチェバルリア家のメイド全体の沽券に関わる。
エレナの声かけは、レティシアに対する意思表明と、落ち込んでいるリディアへのフォローを兼ねたものだ。
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